東京都編♡
『ピッ、ピッ、ピッ、ピッ、ポーン……。只今の時刻をお知らせします。現在、午後二時ちょうどです』
都はスマホを耳元から離す。
彼氏が、約束の時刻にまだ来ない。
もう、一時間も待っている。
暦の上では春と言うけれど、今日は寒い日である。
せっかくお洒落してきたスカートから覗く生足が冷たくて堪らない。
外で待ち合わせするんじゃあ、無かった。そう心の中で呟く。
気になって気になって、待ち合わせの場所から動くのも躊躇われていた。
だって、今日は特別な日だから。
「好きです。付き合ってください」
一年前、高校三年生のバレンタインに告白をしてOKを貰った彼氏。
嬉しくて舞い上がっていたけれど、すぐに卒業。大学も別々だった。
不安で仕方なくても、毎日お互いに連絡を取り合った。
都は彼にぞっこんだったし、彼も都を「可愛い自慢の彼女」と言ってくれた。
デートだって何度もした。
一人暮らしの彼に家に、遊びに行った時もある。
さすがに、泊まりはしなかったが。
でも……。
都には、不安な事が一つだけあった。
その不安を、今日のデートで彼に相談しようと思った。
だがもう無理なのかもしれない。だって、だって……。
「都……!」
その時、大声で都は名前を呼ばれた。
弾けるように振り向く。
「純!」
「駄目じゃあないかそんな恰好で」
「え……?」
都は涙目をぱちくりさせる。
彼氏の純は都に駆け寄ってくると慌てて自分のコートを羽織らせた。
そして、抱き寄せる。
「都、ごめん! 本当にごめん! 俺、自信が無くて。父親になる、自信が」
「どうして、まだ何にも言ってないのに……。どうして分かったの?」
「お前が、大好きだから」
都の目から大粒の涙が溢れた。
「ハッピーバレンタイン」
どこからか、そんな声が聞こえた気がした。
♡ザ・鉄板の告白台詞ですね。