千葉県編♡
画面の向こうの女性が、確かに噴き出したのが分かった。
「だって、千葉県生まれの名前が千葉君……。普通に千葉君って読んでしまうでしょ。面白い」
俺だって、そう思う。
この名前でどれ程揶揄われてきた人生だったか。
どこの県へ行っても、あだ名が「ちばけん」だった。
マツケンかよ!
いつかは「何の犬種?」なんて冗談丸わかりで聞かれたし!
「ッふふふ……」
まだ彼女は笑っている。ツボに入ったらしい。
彼女とはSNSで知り合った。
それからメッセージでお互いにやり取りをし、今では顔を出さないオンライン通話で話すようになった。
パソコンの画面には彼女の顔は映らない。
けれど俺は確信していた。
綺麗な澄んだ声。絶対に美人だ。
「そうだ、今日は何の日だと思う?」
「えっと、何だっけ」
俺はワザとボケて聞き返す。
「もう、バレンタインデーだよ、バレンタイン!」
彼女はそれから、小さな声になって「会わない……?」と聞いてきた。
俺は返事に飛び付きそうになる。
でも、はたと気付く。
昨今、こんなご時世だからSNSからの出会いなんて、危ないものだろう。
それに肝心な彼女のデータが少ない事にも今更気付いた。
だが。
「いいよ。会おう」
俺は、会いたかった。とてもとても。
「にすが、好きだべだから」
祖母譲りの言葉で、告白したい。
どうしても、だった。
「ハッピーバレンタイン」
どこからか、そんな声が聞こえた気がした。
♡「にす」というのは「あなた」という意味の方言。
今ではあまり、使われていないそう。
「だべ」という語尾は関東地域でよく耳にする語尾。