栃木県編♡
昔から、そうだった。
バレンタインには、素敵な思い出が付き物だと思っていた。
なのに、わたしの想いは空回り。
「ごめん、何か愛実の想いって重いんだ」
本命の人に、大きなハートのチョコレートを渡せばこの結果。
その年は、学校からの帰り道に泣きながら自分で作ったチョコを食べた。
友達のつぐみが同じくチョコを付き返されて一緒に泣いたっけ。
「とうと好きでした」
何で、この言葉が重いのだろう。
「ねえお母さん」
「ん、なあに?」
ソファーでぐたんともたれながらわたしは母に呼び掛ける。
「お母さんは、お父さんにバレンタインチョコ渡すの?」
今年もバレンタインは巡って来る。明日には、やって来るのだ。
「渡すわよ」
さも当たり前の様に母は言い切った。
「わたしの想いってそんなに重いのかな……」
「うーん。そうねえ」
母はわたしの隣に座る。
「天秤があるとするでしょ。貴女の愛はこれだけ。相手の愛がたまたま釣り合わないんじゃあないかしら。いつか、愛実の愛の分だけ、同じくらいだけの想いをくれる人が居る。きっと居るわよ」
「お父さんがそうだったの?」
わたしの問いに、母は笑って何も言わなかった。
次の日。
玄関で深呼吸をするわたしを母は見送ってくれた。
鞄の中には、ハートのチョコレートが大切に仕舞われていた。
「行って来ます!」
「ハッピーバレンタイン」
どこからか、そんな声が聞こえた気がした。
♡「とうと」の意味は「ずっとの」の意。