あの…さ…私達…
大変お待たせしました!
『いつ言うの?』
これは、今では友人同士になった間宮真弥から、昨夜送られてきたLINEの内容だった。この言葉の意味を知っている私は、
『明日!』
と、短く返事をした。
そして日付が変わり日が登り、返事の明日!のお昼、私は午後の講義まで時間があるから大学を抜けて、行き付けのカフェバーに向かう。
「ヤバい、待ち合わせ時間、間に合わないかもっ!」
ーーーー
カランカラ~ン!と『flos odor』のドアが開く。
私は頭を黒いゴムでハーフアップにして、後ろをお団子に緩く纏めて、白い長袖の上に淡いグレーの膝下丈のワンピースと黒いミニブーツの姿で、マスターが居るカウンター席に駆け寄る。
「こんにちは、マスター。きさ…綾人くん来てる?」
「いらっしゃいませぇ、綾人なら来てるわ。ほら、窓際の席よ」
いつもの癖で「如月くん」と言おうとして、マスターも「如月」だったと気付き「綾人くん」と言い直す。
マスターが指差す方向を見ると、窓際のテーブル席で如月くんが緑色のブックカバーが掛かった文庫本を読んでいる。
「如月くん、待たせてごめんね。講義が長引いちゃって」
「風間先輩、大丈夫ですよ。俺も今、来たところ。はい、メニュー表」
「ありがとう。今日はどうしようかな」
私は如月くんから手渡しされたメニュー表を受け取り開く。
メニューを見てるフリして、ちらっと如月くんを覗く。如月くんはもう注文が決まっているのか、窓の外をぼんやりと眺めていた。
私の元彼、仁科真樹の“復縁騒動”から2週間が過ぎて、私達の関係は大学の先輩後輩から友人同士になっていた。
そう、如月くんからアプローチはされているが、まだ付き合っていない。
如月くんも返事を急かすつもりはないのか、待っててくれている。
「…ー輩。先輩、決まりましたか?」
「へ?」
「ずっと、ボーとしてるからメニュー決まったのかなって」
「メニューはえっと…」
ヤバい、まだ決まってなかった!
「えーと、ええと、キッシュロレーヌのランチセットでドリンクはホットカフェラテにする!」
迷った末に『海老とアボカド』『たっぷり野菜とソーセージ』『スモークサーモンとクリームチーズ』等、様々な味があるなか、一番定番なキッシュを選んだ。
「兄さん、注文いい?」
「ご注文は何かしら」
「『キッシュ、ランチ』と『タマゴ、ランチ』で『食後ラテ』2つで」
「かしこまりましたぁ」
マスターはカウンターに戻り、引き戸を開けてキッチンのスタッフへオーダーを伝える。それを見て私は、
「ねぇ、如月くん。ランチタイムって、今までマスターひとりだったけど、キッチンスタッフ入ったの?」
会ったことはないけど、モーニングタイムとディナータイムにキッチンスタッフが居ることは知ってるけど、ランチタイムはずっとマスターひとりで切り盛りしていた。
「ん?ああ、まぁ、色々あって…スタッフが増えた…」
「?」
「なんで、兄さんも“あいつ”なんか雇ったんだ…」
「あいつって?」
「………それは…その…」
なんだろう、歯切れが悪い。
「お待たせしましたぁ。キッシュロレーヌのランチセットと、タマゴサンドのランチセットでございまぁす。綾人、ちょっといい、キッチンから伝言よ」
マスターがボソボソと如月くんの耳元で何かを伝える、私には聞こえないけど、それを聞いた如月くんは少しだけピクッと反応して、
「…………お前に言われたくないって、言っといて」
「分かったわぁ。彩加ちゃん、後で新しく入ったキッチンの子を紹介するわね」
「兄さん、いいって」
「あら、大丈夫だと思うわよ。では、ごゆっくり」
如月くんがマスターの一言で、少し不機嫌になったけど、マスターは気にせずカウンターに戻って行く。
「新しい人がどうしたの?」
「……いや……会って欲しく…ない…だけ…」
「会って欲しくないって…」
会って欲しくない理由ってなんだろうと考えながら、私はキッシュロレーヌをフォークで、一口大にして口の中に入れて、数回噛んでごっくんと飲み込む。
「あのさぁ、もしかして、男だったりする?」
「…っ!」
あ、図星だ。つまりこれは、
「……嫉妬だよね?」
「そっ、そーだよ」
如月くんがタマゴサンドをかぶり付いて、窓の外を眺める。如月くんの顔が耳まで真っ赤だ。
嫉妬しなくてもいいのに、本当はお昼食べ終わったら言うつもりだったけど、
「あの…さ…私達…」
「ん」
窓を眺めていた如月くんは、サラダのレタスを食べている。
ヤバい、私が緊張してきた、落ち着かなきゃと、私は氷が入った水を飲んで緊張をほぐす。深呼吸して、
「先輩?」
私の様子がいつもと違うことに気付いた如月くんは、タマゴサンドをお皿の上へ戻して食事を中止する。
「あの…ね…」
「…………………」
「………その…遅くなったんだけどさ」
私は恥ずかしさで、自分の顔を両手で隠す。きっと顔は真っ赤だ。私の言いたいことを察したのか、如月くんが息を飲んだのが、私にも伝わる。
「……私も如月くんの事が好きだから、これから友人同士じゃなくて、恋人として付き合いませんか!」
最後は勢いで言いきる。
私はちらっと如月くんを見ると、如月くんは顔を赤らめ、右手を口許に当てて、
「…………俺で良ければ、よろしくお願いします」
「私こそよろしくね!」
「「「やっとねぇ」
かぁ」
だぜぇ」
「「え?」」
マスターも含む、周囲のずっと見守っていた“常連客”から歓声が上がり、その歓声の意味が分からない私と如月くん、ううん、綾人くんはクエスチョンマークを浮かべていた。
「マスター、ご馳走さま」
「ありがとうございます」
昼食を終えて私達はレジでお会計を済ますと、
「風間!」
「へ?」
カウンター奥のキッチンへ繋がる、料理の受け渡しがある引き戸が開いて、よく知る顔が現れる。
「に、仁科、どうして!?」
「大学の講義がない昼間だけ働いてる」
「なんで、今までバイトしたことないじゃん」
「何でって、俺もあの後、お前と間宮の事を俺なりに反省してさ。で、伝説の『孤高の虎』に鍛えてもらおうと思って!」
「…へ?『孤高の虎』って、あんたが憧れてた“ヤンキー軍団”よね。それとバイトどう繋がるの?」
「どうってマスターは「はぁい。真樹くぅん『アボカドサンド、ランチ』と『タマゴサンド、ランチ』よ」
「あ、はーい。了解ッス。おい、綾人、俺が言ったこと忘れんなよ!」
仁科は最後に綾人くんに捨て台詞を言うと、仕事へ戻って行った。
「ねぇ、仁科が言ったことって?」
「んー、秘密」
綾人くんはそう言うと、お店のドアを開いて外へ出る。
「えー、教えてくれてもいいじゃん」
「今日、何時まで講義ある?」
「16時までだけど…って、ホントに教えてくれないの!」
「ん、どうしようかな」
私達は手を繋いで大学へ向かう。もちろん恋人繋ぎだ。
ーーーー
私達が付き合って3日が過ぎた夕方、急な雨に私と綾人くんは歩道を走っていた。
「天気予報は晴れだったのに!」
「どこかで雨宿り…」
「私のアパートが近いよ。行こう」
「え、でも…」
「綾人くん、どうしたの?」
私は、急に立ち止まった綾人くんを振り向く。
「…や、その、今度は…」
「今度は?」
「我慢できる自信ねぇんだけどさ。いいの?」
“何”を「いいの?」と聞いているのか、直ぐ理解した私は綾人くんに近付いて背伸びをして、
「っ」
綾人くんに唇が触れるキスをする。他に人が居ないけど、外でキスをするのは恥ずかしい。私は綾人くんの手を握って、
「……いいよ」
バタンッ!と、私が暮らしているアパートの玄関のドアが勢いよく閉まる音が響く。
私は玄関に入って直ぐ、綾人くんに深い口付けをされる。いや、最初に誘ったのは私だけど、
「…んん」
「…っ、ん」
「…待って、シャワー浴びないと…風邪ひいちゃう」
「そう…だね」
「そうだねって…ッ」
綾人くんの唇が離れたすきに、やめさせるつもりがない抵抗を少しだけする。
綾人くんも私が受け入れている事に気付いてるから、やめるつもりはないみたい、私にまた口付けをする。
「…あの、ホントに…シャワーだけ…」
「…一緒に入る?」
「…お風呂場ではやだよ」
「分かっている」
本当に分かっているのかなと疑問に思いながらも、私は綾人くんにされるまま甘い一夜を過ごした。
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