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閑話15 情報部隊からの情報

 私は恐れ多くも世界樹様の側近であるクイン様から生み出された蜂の魔物の一体。

 クイン様と同じように子を生み出すことができる私に与えられた役目は、優れた子をなして主に人族からの情報を集めることです。

 情報を集めるのは人族ではなく未探索領域も含まれているのですが、そちらは他の方々も調査を行うので私どものメインはやはり人族になるとのことでした。

 私と同時期にシルク様より生み出された蜘蛛の魔物も同じような役目を任されているようですが、変に敵視する必要はないと考えています。

 むしろ共同でことに当たったほうが、より目的を達成しやすいとお互いに認識をともにしているくらいです。

 クイン様より生み出されてまず最初に行ったことは、与えられた魔石を使って子を生み出すことでした。

 当たり前ですがよりよい情報を多く集めるためには、その分多くの仲間が必要になります。

 必要な魔石等のことを考えれば際限なく生み出すというわけにはいきませんが、ありがたいことに幸いにして世界樹様が情報収集を重視していることから大抵の要求は通りました。

 

 数が揃ってきてから第一に行ったのは、人族の集落からの情報収集でした。

 世界樹様の周辺やそれ以外の島の状況については、既に大体の情報があるので特化して調べる必要はないとのことでした。

 やはり私たちに求められているのは人族からの情報で、主にどうやって集落がまとめられているのか、外からどういう影響があるのか等、調べることは山ほどあります。

 とはいえ人族に見つかっても怪しまれないような子は、少ない情報を持ち帰るのが精々です。

 その当時の私が生み出せる子がその程度でしかなかったというのが本当のところですが、こればかりはどうしようもありません。

 それは仕方ないことなので、一度に多くに情報を持ち帰れない分は数で補うことにしました。

 もっともそのことは世界樹様やクイン様も理解しているようなので――というよりも最初はそうするのがいいだろうという助言を頂いて任務を遂行していきました。

 

 私が生み出した子たちで立ち上げた部隊からの情報は、最初は本当に役に立つのかというものばかりでした。

 なにしろセプトの村人たちが、普段会話しているような内容しか入手できなかったのですから仕方ありません。

 それでも世界樹様からもクイン様からもお褒めの言葉を頂いて、恐縮することしかできませんでした。

 その時はお二方の慈悲に感謝することしかできなかったのですが、それから私も経験を積んでいくことによってその意味が分かるようになりました。

 というのも、人族が普段何気なく会話からの情報こそが本来必要としている情報(もの)に繋がるということがわかってきたからです。

 人族が普段行っている会話一つ一つは大した重要なものではなくとも、それらを合わせて精査すればそれが必要としている情報になるというわけです。

 

 時間をかけて様々なコツ(・・)を学んでいきながら、自分自身の強化も行っていきます。

 そうすることによって生み出す子たちの質も上がっていくのだから、これは欠かすことのできない必須事項になります。

 本来であればより人族に近い姿かたちを生み出すことができれば一番なのですが、まだまだそこまでには到達していません。

 クイン様であればもしかすると出来るのかもしれませんが……そもそもそれを言い出してしまっては私の存在意義がなくなってしまいます。

 

 私自身の不甲斐なさはじっくり時間をかけて直していくとして、当面は小さな子たちに頑張ってもらうしかありません。

 それでも世界樹様やクイン様は、次々に来る情報を喜んでくださいます。

 最初は小さな一歩からそれはだんだんと大きなものへと変わっていきました。

 それは子供たちから来る情報を纏めてクイン様に報告しているからこそ分かったことであって、生み出されたばかりの私では分からないようなことでした。

 

 とにかくそうした子たちからの情報によって、世界樹様が治めている地域よりも外にある人族の情報も続々と集まっています。

 蜘蛛の情報部隊が集めた情報も含めてすべてを纏めてみれば、一つの大きな形となって見えてくるものもあります。

 そうして纏められた情報では、私たちがいる島よりも南方にあるより大きな島には豪族と呼ばれる存在がいるということでした。

 この豪族というのは世界樹様が呼び始めた名前であって、人族は単純に○○家という呼び方で読んでいるようです。

 

 この豪族というのは周辺地域の土地を纏めている一族のことで、中には昔小さな豪族だった一族を打倒して、それらを吸収して大きくなっている一族もあるということです。

 人族は基本的に支配している土地の広さを基準にしているので、土地の広さがそのまま豪族としての強さに繋がるようです。

 私たちのような魔力で活動している魔物と違って、人族は食事が必要でありそれを育てる土地がより重要であることがそのまま強さになるというわけです。

 単純な戦闘能力だけでは語れないというのが人族というものだと、この時に学ぶことができました。

 

 私自身が日々色々なことを学んでいる間にも、子供たちからの情報は集まっていきます。

 初めての子を生み出してから数か月後にはセプトの村だけではなく、ノースの町への潜入も果たすことができました。

 暮らしている人が多くなれば、その分集まる情報も多く大きくなっていきます。

 セプトの村では集まらなかった豪族に関する情報も次々に集められて行きます。

 

 私の子たちが集めた情報は私がまとめてクイン様へ、蜘蛛の女王が集めた情報は彼女がまとめてシルク様へと伝えられます。

 その上で二つの組織で集めた情報は、四人で集まった話し合いでまとめられて世界樹様へと届けられます。

 こうした一連の流れは最初から決められたものではなく、時間をかけてより良い方法を取ってきた上での経験則です。

 とはいえ私だけですべての情報を纏めるのはきつくなっているので、実働部隊と私の間に中間的なまとめ役を作ったほうがいいでしょう。

 

 実務的な問題はともかくとして、日々集まってくる情報によって豪族の情報も上書きされていきます。

 今のところ代表的な豪族を一つにまとめているような大きな『家』はなく、各豪族がそれぞれの土地の奪い合いをしているような状況だそうです。

 豪族は大小さまざまあるのですが、即時動かせる軍の数は一つの豪族で数千から多くても一万程度。

 この情報がどこまで正確かは不明ですが、最大見積もったとしても一家当たりでは倍にはならないだろうという推測が現在はされています。

 

 この数を聞いた世界樹様は、保留にされていた島の東側と南側の領土化を決めるきっかけの理由の一つとされておりました。

 豪族一つを相手にした場合力だけで勝てることは確定しているので、この島に攻め込まれたとしても大した問題にはならないでしょう。

 仮に多くの豪族がまとまって私たちを『人類の敵』とした場合でも、海を隔てているこの島にいる限りは攻め滅ぼされることはないだろうとのことでした。

 纏まってこられた場合、単純な数でいえば私たちのほうが少ないのですが、戦闘能力という点でいえば数段上にいるので問題ないということは私にもわかります。

 

 そしてもう一つ、世界樹様が気になされることになる情報がセプトにいる部隊からもたらされることになります。

 それは村の外れに住む一家で、一組の夫婦と一人の少女が暮らしています。

 集めた情報によるとユリアと呼ばれているその少女は夫婦の実の子ではなく、育ての子であるらしいです。

 その子自身もそのことは認識しているようですが、そんなことは気にすることなくのびのびと暮らしているという報告がありました。

 

 問題なのはその子が南の島にあるとある豪族の娘であることと、何やら事情を抱えてこの離れた辺境の地にいるということです。

 さらに情報を集めている子からも何か不思議な感じがするという実に曖昧な報告が追加でされています。

 そんな曖昧な情報をクイン様や世界樹様に話すかどうかを悩んで、同じ立場にいる蜘蛛の女王と話もしましたが、ありのままを報告することになりました。

 その結果として世界樹様にまで情報が届いてご興味を持たれることになったのは、良いことなのか悪いことなのか、今の私には判断がつきません。

 

 いずれにしても世界樹様がユリアという少女に興味を持たれた結果、全体として大きな変化をもたらすことになりました。

 それが私たちの集めた情報をもとになっているというのは、胸の内にとどめておくべき誇りとして持つべきことなのだと思っています。

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