(5)新しい報告
セプトの町との交流は月に一度くらいがいいだろうということになっている。
その理由としては、ダークエルフの里のある場所がそれくらい離れているところにあると思わせることと、転移装置の存在を悟らせないようにするためだ。
セプトの町から転移装置のある場所までは荷馬車込みで半日くらいかかる場所に設置しているので、後をつけられたとしてもその間に必ず子眷属たちが見つけるようになっている。
よほどのことがない限りは、転移装置があることは知られることがないはずだ。
ただたまたま装置周辺で狩りをしていた冒険者なんかがいた場合には、不意打ちで見つかる可能性がないわけではない。
そのため転移装置周りには、他と比べて倍以上の数の子眷属で警戒網を作っている。
万が一その警戒網を突破するような猛者が出てきたとしても、転移装置はどうすることもできない。
許可したもの以外には装置に触れられないようにしているうえに、そもそも近づくことすらできないようにしているのだ。
転移装置の守りに関してはもっと厳重にすることも可能ではあるのだが、敢えてその程度にしている。
それもきちんとした理由があって、あまりに子眷属たちを増やすと逆に警戒させてしまうことを懸念しているのだ。
例えばゴブリン発生にしても、数が多くなればなるほど集落の形成を警戒するのは当然であるし、違った種類の魔物だったとしても急激に数が増えれば同じような警戒をされる可能性が高くなる。
そのギリギリの線が大体倍くらいの数だろうというところで落ち着いたのである。
セプトの町関係のことについては、これからも時間をかけてじっくり様子を見守ることになっている。
まずはきちんとした情報を精査するうえでも、交易を通じての情報収集は大事になってくる。
これまで交流してこなかったダークエルフが現れただけでも驚かれたのに、これから先あまり頻繁に訪れたらそれはそれで警戒をさせるころになってしまう。
それゆえに、月に一度の頻度で往復ができる位置だと思わせることのほうが重要だと長老との話し合いで決めている。
町に直接かかわることはその程度に収まっているが、人にとっての未開発地は順調に攻略は進んでいる。
特に道央地域に当たる場所に関しては、そろそろ領土化ボスが出せるくらいにまで領域化が進んだ。
これまでに比べて攻略が早く感じるが、そもそも他の二地域に比べて道央地域は土地自体が狭いのに加えてこちらの戦力が増強されているので、そこまで無茶な攻略の仕方をしたわけではない。
さらにエリアボス自体も統合されているので、戦闘の数でいえばより少ない攻略で領域化されていっているのだ。
道央地域がそんな感じなので、今は道南地域をメインに攻略を進めている。
こちらも人の未開発地域がほとんどなので攻略できる場所は多いのだが、単純な面積でいえば道央地域よりも少ないので時間的にはそこまでかからないと思われる。
下手をすれば、雪が降る前に道央地域も道南地域も八割の攻略が進んでしまうのではないかとさえ考えている。
むしろそうなってほしいという願望も込めて攻略の報告を受けているが、決して無理だけはしないように常に念を押している状態だ。
以前からの疑問で、もし人里を掌握していない状態で領域化あるいは領土化をした場合にはどうなるのかということがある。
全く根拠のない推測だと、恐らくなにも変わらずにできるのではないかと考えているのだが、こればかりは実際にやってみないことにはわからない。
だからといっていきなり何の準備もせずにするつもりはなく、いつも通りにしっかりと準備を整えてからやるのがいいだろうと考えている。
そのための準備の一つの基準となるのが、シルクとクインに頼んでいる子眷属たちの増強が終わってからというものだ。
セプトの村での情報収集は、そのための布石でもある。
情報収集で隙が見つかればすぐにでも対応するつもりではいるのだが、そうそう簡単にはいかないだろう。
そうしたことを踏まえれば、これから先大きな出来事が起こるとすれば来年の春以降になるだろうという心づもりでことを進めている。
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北の大地の攻略はしばらくのんびりモードになることが分かっているので、別のことができないかとラックにとあることを探らせていた。
その結果が出たため、ここ最近姿を見せていなかったラックがその調査から戻ってきた。
「お帰り、ラック」
「ピッピ(ただいま戻りました)」
「うん。ご苦労様。それで、どうだった?」
「ピピ(あくまでも大雑把に見てきた感じですが、魔物は相応の数いるようですが予想通り人の気配は無いようでした)」
「やっぱりね。北の大地がそんな感じだからそうだろうとは予想していたけれど……さて、どうしてものか」
ラックからの報告を受けて、しばらく腕を組んで思考モードになる。
ラックが持ってきた報告というのは、でっかいどーよりもさらに北にある土地であるいわゆる樺太方面がどうなっているかを確認してもらった内容になる。
空を飛ぶことができる翼がある鳥種は、北海道と樺太の間にある海峡を渡るだけの飛行能力はある。
道東方面と道南方面の攻略が落ち着くことは目に見えてわかっていたので、その合間の時間を使って樺太に渡って貰ったのだ。
その結果が今ラックが報告した内容となる。
ある意味では予想通りの結果ではあったが、だからこそ新たに発生する問題も出てくる。
「ピ?(やはり攻略を進めますか?)」
「それが問題だよねえ……。エリアボス次第ともいえるけれど、ラックたちだけでボス倒せるかな?」
「ピピピッピピ(それはきちんと確認しないと何とも言えませんが……恐らく大丈夫かと思います)」
「その根拠は? 船がないからアイたちも渡れないし、援護なんかは期待できないよ?」
「ピピッピ(それでも、ですよ)」
その後ラックから聞いた話によると樺太に関しては魔物のランクがこちらに比べて全体的に劣っているように見えたということだ。
勿論それだけでエリアボスが弱いということにはならないのだが、判断するための材料の一つにはなる。
具体的にどれくらいの強さなのかは実際に見つけてみないと分からないが、それでもラックが肌で感じた限りではそこまで極端に強いということはなさそうである。
ちなみにこの場合の『肌で感じた』というのは、魔物としての直感というよりも本能的なもので感じられる感覚だ。
とはいえ、ラックが感じたその感覚を信じたい気持ちはあるのだが、やはりそれだけで命令を下す気にはなれない。
「――やっぱりエリアボスの具体的な情報はほしいかな」
「ピ?(よろしいのですか?)」
「下手に調べると被害が出る可能性があることだよね? それはもう仕方ない……というか、今こっちでやっている攻略だって同じことだしね」
「ピピ?(それでは?)」
「うん。前回はあっちに渡れるのかとちょっとした調査だけで済ませてもらったけれど、今回は攻略に向けて具体的に動いていこうか。鳥種だけになってしまうのは申し訳ないけれどね」
「ピピ(それは仕方ありません)」
「いずれはアイに頼んで船を作ってほしいんだけれど……いまは難しいか」
アイの現状は転移装置の開発に時間を注いでいるので、それ以外に新しい注文をすると完全にパンクしてしまうだろう。
もっとも具体的な運用に入った以上は、これまでの忙しさは多少なりとも緩和されているかもしれない。
そうなると今度は船の開発に時間がかけられるかもしれないと、そんなことを考えるのであった。