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(4)初交流

 ダークエルフの年長者を使った実験は、問題が発生することなく終わった。

 アイにはまだまだやりたいことはあったようだが、被験者であるダークエルフたちが根をあげてしまったのだ。

 というよりも、これだけ色々無茶なことをやっても何も起きないのであれば、通常利用したときには問題など起こらないだろうというのがダークエルフたちの言い分だった。

 あとは実際に使っていくうえで確かめて行けばいいとまで付け加えられていた。

 その言い方は、アイの念の入れように付き合いきれなくなったともいえるが、そこまでしなくてもあとは責任を問わないという意味も含まれている。

 我々が納得したのだから実際に使う者にも文句は言わせない、と。

 何度も使ううちに劣化して事故が起こる可能性も残っているが、そこまで確認するとなると数か月や年単位で時間がかかることになる。

 それはさすがにこちらも考えていなかったので、これで実験は終わって実用に移ろうという話で落ち着いた。

 

 実験が終わって実用段階に移った転移装置だったが、実際に実用として使われたのは春の忙しい時期が終わりそうな時だった。

 別にダークエルフの里に余裕がなくて人員を捻出できなかったというわけではなく、この時期にセプトの町(規模的には村)を訪ねてもあまりいい結果にはならないだろうと考えてのことだった。

 セプトの町の住人達も大半が農民か漁民で、春の時期が忙しいのは変わりない。

 それならその時期を外していくのはありだろうという話になったのだ。

 

 結果として春の時期を外して行ったのは正解だったといえる。

 何故なら何年か前にそれなりの所帯で訪ねて遠方に消えたと思われていたダークエルフが、幾つかの商材を持って現れたのだ。

 セプトの町にいる数少ない商人は、突然の訪問に驚き周囲にそのことを伝えていくことになる。

 それが良いことか悪いことなのかはこの時には判断がつかなかったが、いずれはいい方向に落ち着いてほしいと願うばかりだ。

 

 こうして第一回目の取引を終えて戻ってきたダークエルフからは、町の様子と子眷属からは得られなかった情報を得ることができた。

 その情報は、長老と共に俺に伝えられることになる。

「――ということは、以前皆が通った時に比べて状況が悪くなっていると?」

「はっきりと具体的なことは言えませんが、恐らく間違いないと思います。その原因が何であるかまでは掴めませんでしたが」

「ふうん。昨年が不作だったからとかかな?」

「どうでしょうか。食料が足りなくなっているという雰囲気もありましたが……それだけとも思えませんでした」

「なるほどねー」

 実際にその目で町を見てきた者からの報告だ。

 特に以前との違いをきちんと比較して報告してくれているので、非常に貴重な生の情報だといえる。

 

 ちなみにダークエルフは、俺たちが人里を力で完全破壊するとは全く考えていない。

 なにしろ自分たちという例があるので、できる限り残しておきたいという考えを理解している。

 だからこそこうしてきちんとした情報を持ってきてくれるのだ。

 

「あんな場所で戦いがあったとも思えないしなー。何だろうか」

「戦はないでしょう。ただどこか一触即発という雰囲気は感じました。それからこれは次に確認しておきたいと思ったのですが――」

「何?」

「村の商人も複数の系統に分かれているように感じました」

「は? あんな小さな村で?」


 数百人しかいないような規模の町でだと、店を構えている商人は一人しかいないというところも珍しくない。

 それどころか移動販売だけで済ませてしまうというところもあるだろう。

 それが普通なのに複数の商人だけではなくその系統が分かれているというのは、ほとんど意味が分からないといってもいいレベルだろう。

 ただでさえ小さなパイを分け合うということに意味があるとは思えないからなのだが、だからこそ考察できることもある。

 

「――複数の国からの関与があるってこと?」

「あくまでも今のところは可能性の段階ですが。それにそうだとすると村の雰囲気がおかしかったこともきちんと説明できます」

「あー。それぞれの納品先で対立……までは行かないまでも対応が分かれているってことか」

「そう考えればしっくりきます。……繰り返しますが明確な証拠とか証言は得られていませんが」

「それは仕方ない。そのあたりのことは次回の取引で確認してもらうとして、お陰でこっちでも色々と指示を出しやすくなったかな」

「そうですわね」

 俺の言葉に一緒についてきていたシルクが頷いていた。

 

 情報を集めるにしても一つの方向性が決まれば、ある程度絞った活動ができる。

 勿論その情報に踊らされて本質を逃してしまっては意味がないのだが、今得た情報の確証を得るためには絞って諜報する意味もあるだろう。

 特に子眷属や孫眷属から得られる情報というのは、そのまま暮らしている人が普段会話している内容だけに偏りがちだ。

 得られた情報の精査や考察は上層部でするべきなのだろうが、ただただ生の情報を集められるよりも今のような報告のほうがありがたいのは確かである。

 そういう意味において、目の前にいるダークエルフが行商人として得てきた内容は、情報部門にとっても得難い内容になる。

 

「長老、どう思う?」

「あくまでも仮定の話になりますが、よろしいですかな?」

「勿論」

「では。まず前提として南にあるノースですが、こちらは南にある国というか領とがっちり繋がっております。位置的には当然ですが」

「他の国が入り込む余地はないということかな?」

「そうなりますな。――翻ってセプトは距離的に考えてもどこの国からの関与もありませんでした。少なくとも我々が通った時には」

「徴収した税よりも経費が掛かりそうだもんなあ。それも理解できる」

「はい。今になって他の国の影が見え隠れしているということは、その距離の問題を解決する何かが見つかったか開発された可能性がありますな」

「……やっぱりそう思う?」

「ですな。さすがに転移魔法が実用化されたとは思いませんが、恐らく新しい船なり航法なりが開発された可能性は捨てきれないでしょう」

「だよねー。となるとその辺での情報収集も必要になるか」

 長老の考察には納得できることが多いので、きちんと調べる確認はある。

 

 ただしそれを踏まえたうえで、一つ疑問になることがある。

「今までの情報収集でその辺は見つかっていないんだよね?」

「そうなりますわ。そもそもあの村では、そこまで多く船が行き交っている様子はありません」

「だとするとどういうことだって話になってくるんだけれど……まさか陸沿いに歩いてきている?」

「全くあり得ないとは言い切れないでしょうが、人の足だとかなりの道のりになりますわね」

「だよね。それにそもそもどこから上陸しているんだという話になるしね」

「うーん……。よし。とりあえず今は考えるのはやめようか。仮定に仮定を重ねて話してもあまり意味はないし」

「そうですな。まずは、他の国の関与があることを確定させることが先でしょう」

「わたくしもそう思いますわ」


 長老とシルクの意見があったところで、この話は終わりとなった。

 実際に長老が言ったことは正しく、本当に他の国の関与があるのかどうかはきちんと調べなければならない。

 さらに関与があったとしてどの程度のものなのか、どんな目的があるのかということもできることなら知っておきたい。

 そこまでは無理だとしても、他の国の関与に関しては最低限確定しておかなければならない情報となる。

 それを知るためにも、まずは二回目の交易を行うべく準備を進めておかなければならないのであった。

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