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(6)二つの攻略状況

 アンネが誕生してから数日ほどは、色々な方面へのお披露目も兼ねて一緒に過ごすようにしていた。

 アンネは俺のことを親だと考えているわけではなくきちんと自身が眷属だと認識しているようだが、それでもちょこちょことついて歩く様子はひな鳥のようにしか見えなかった。

 ただ俺があまりにべったりとし過ぎると良くないと考えたので、しばらくハウスに戻ることにした。

 このタイミングでハウスに戻る理由はアンネのことだけではなく、他にも幾つか理由があるためだ。

 卵を売ってくれた上級商人さんへの報告もあるが、それ以外に幾つか売れそうな商品があることを思い出したので、それを確認しようと考えていた。

 前回のタイミングで俺自身が欲しいのは何よりも質の高い魔石だということは伝えてあるので、もしかすると既にショップへ並んでいるかもしれない。

 魔石に関してはいくらあっても困ることは無いので、できる限り入手していくつもりだ。

 魔石の使用用途については、一番はやはり眷属たちの進化目的だがアイが作っている魔道具にも利用することができるのだ。

 

 そんな期待を持ってハウスに戻ったのだが、結果としては期待以上のものが得られた。

 まず前回の時とは違って、売買機能を利用できるプレイヤーが二ケタ台にまで増えていた。

 これは、上級商人さんが解放したことにより具体的な条件が分かったからだと思われる。

 事実、もとからある魔石の換金機能を使っていなかったプレイヤーはそこそこいたようで、慌てて換金を行った途端に機能が解放されたという報告が幾つか散見された。

 

 考えてみると戦闘系プレイヤーは勿論のこと、人外系もハウスでアイテムを購入するメリットはほとんどない。

 戦闘系プレイヤーの場合は、それに拍車をかけるようにどこから入手してきたのかと疑われる可能性もあるわけで、むしろデメリットの方が大きかったと思われる。

 魔石を換金したうえでハウスの内装を充実させるということに使えなくもないのだが、生活の足場はそれぞれの世界にあるわけで、ほとんど初期内装と変わっていないというプレイヤーも多かったようだ。

 それら諸々の理由から換金を控えていたプレイヤーも、売買機能の解放のために一斉に換金をし始めたというわけだ。

 

 さらに付け加えれば、売買機能が解放されるということは名声もある程度まで上がっているということであり、売買機能を使って物を入手しても疑われる確率が低くなる。

 上がった名声によりあの人であれば、どこかからの伝手を使って入手したに違いないと思われやすくなったといってもいい。

 魔石の換金はともかくとして、売買機能の解放条件に名声が入っているのはもしかすると運営の恩情なのかもしれない。

 ――そんなことさえ掲示板ではささやかれていたが、本当のところは分からない。

 

 他プレイヤーの事情はともかくとして、俺自身に関しては売買機能が解放されたプレイヤーが増えたことによってメリットも多くなっている。

 そのメリットの一番は、オークションが使われ出していたというところだろうか。

 以前の話し合いで魔石があると嬉しいと言って(書いて)おいたのだが、質が高そうな魔石がいくつかオークションに出されていた。

 魔石を利用するのは俺だけではないので、特に人外系プレイヤーが進化目的で落札したりしているようだ。

 

 これからももっと魔石の扱いが増えることを願いながら幾つかの魔石を買わせてもらいつつ、上級商人さんに向けて卵が孵化したことを伝えておいた。

 生まれてきたのが可愛らしいよ……小さな女の子であったことを掲示板に報告すると、若干名から羨ましがる声が上がってきたがそれらはきっぱりとスルーしておいた。

 その話に加えて今回は新しい商品を持ってきていた。

 それが何かといえば、シルクとその眷属たちが作ることができる蜘蛛の糸――スパイダーシルクだ。

 

 魔物から取れる素材を使って文明を成り立たせている世界であれば、スパイダーシルクもちゃんと商品になるだろうという推測は間違っていなかった。

 特に縫製系の職に就いている者からの食いつきがすごかったのと、それを使った防具の加工ができると聞いた戦闘職の興味も引けたようだった。

 縫製系の職に就いているプレイヤーは、どうにか蜘蛛系の魔物をテイムできないかとざわざわしていたので、かなり価値が高いのだろう。

 最終的にはわざわざ蜘蛛系の魔物をテイムして育てるくらいなら俺から買った方が早いという結論に落ち着いていたが、もしかしたらまた時間が経てば別の結論になるかもしれない。

 

 ♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦

 

 今回のハウス訪問は数時間くらいの滞在にして、気分的にはほぼとんぼ返りという感じでホームに戻った。

 いくつかの魔石も手に入れることができたので、入手できた情報と合わせて考えれば上々な結果だったと言える。

 これからは魔石入手のことも考えて、こまめに戻ることも視野に入れなければならないかもしれない。

 もしかすると魔石以外のアイテムも売りに出てくる可能性もあるので、売買機能に関してはこれからが本番という感じだろう。

 

 分体生成を使ってホーム周辺に出ると、そこでは珍しくラックとファイが寛ぐように何か話をしていた。

 こちらが何の話をしているのかを確認する前に、二人が戻った俺に気付いて話しかけてきた。

「ピ(今回は早かったですね)」

「ちょっとした用事を済ませてきただけだからねえ。それよりも何かあった?」

「ガウ(いんや。何もないぜ。実に順調だな)」

「ピピ(今のところ方針に変更がないことは伝えているのですが、それでも間違いがあると困りますので、一度戻ってもらいました)」

「なるほどね」


 現在の攻略の最前線は道央、道南方面になっていて、特に道南方面は直線距離で考えてもかなり伸びてきている。

 道東方面を攻略しているときもそうだったのだが、端の方まで行くとどうしても往復するだけでも時間がかかってしまうのだ。

 そうした事情もあるからこそ転移魔法に関しての開発を進めたかったのだが、今のところ何かの成果が出たという報告は受けていない。

 もっともそうそう簡単に結果が出るわけではないと分かっているので、焦らせるつもりはないのだが。

 

「ガウガウ(状況確認もそうだが、主に報告したいこともあるんだ)」

「何?」

「ガガガウ(東と南に行くにつれて、複数領域の主が増えていくのは間違いないようだな。今のところ六~七割といったところだ)」

「ピピイ(特に南方面は多いようで、確率的には八割を超えてもおかしくなさそうな気配です)」

「……時間をかければもっと増えそうかな?」

「ピピ(というよりも、今以上の領域の広さを持った領域主が出てきてもおかしくはないかと)」

「う~ん。となると、もっと攻略が面倒になるか。やっぱりあまり時間はかけたくないなあ……」

「ガウ?(どうするんだ?)」

「とりあえず人里を避けて攻略する方針は変わらず。無理をする必要はないけれど、出来る限り攻略スピードも上げるしかないかな」

「ピピッピ(それが妥当でしょうね)」

「それで何か問題がありそうであれば、また連絡して」

「ガウ(わかったぜ)」


 領域攻略の最前線を進んでいるファイが了承したことで、今言った方針で攻略が進められることになった。

 大まかなところでは変わっていないのだが、やはり細かいことはきちんと俺自身で決断しなければならない。

 またそうでなければ、彼らから「主」と呼ばれる意味はないのだが。

 いずれにしても北海道攻略は着々と進んでいて、目標の全域攻略もようやく先が見えてきたといってもいい感じになっているのであった。

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