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(7)いらっしゃい

本日1話目(1/2)

 これまで何だかんだと結果を出しているアイに期待しつつ、俺自身はダークエルフを迎え入れる準備を進める。

 彼らは眷属と違って、衣食住が必要になる。

 その内衣と住はともかくとして、食に関しては材料も含めて色々と必要になる。

 さすがにすべてをこちらで負担するのは違うという長老の意見をくみ取って、時々ルフかラックが里から食材を運ぶことになっている。

 もっとも計画している実験がうまくいけば、それなりの量の食材を短期間で手に入れることができるはずだ。

 ただそのことは伝えていないのと実際にうまくいくかはまだ分からないので、最初のうちは眷属輸送を利用することになっている。

 

 何だかんだがあって、長老と話をしてから半月後に三人のダークエルフがホームまでやってきた。

 三人の中にジンが含まれていたのは、長老の気遣いなのだろうか。

 残りの二人は男女一人ずつで、当たり前のように美形だったりする。

 男性――レインはジンと同じく細マッチョ系イケメンなのだが、普段は畑で働いているそうで戦闘をしているジンとは違った筋肉の付き方をしているように見える。

 その一方で、女性のミランはグラビアアイドルに喧嘩を売れるような肉感的な体型をしている。

 ただし残念ながら(?)世界樹として生まれ変わった現在、性的な意味で視線を奪われるということは無くなっているのだが。

 

 そんな外見的な特徴はともかくとして、ホーム周辺にある建物の一つに住むことになった三人は、現地に着くなりさっそく働こうと話を持ち掛けてきた。

「それで世界樹様。我々は何をすればいいのでしょうか?」

 最初にそう言葉を投げかけてきたのは、一応の面識があるジンだった。

 戦闘職についているジンが来ているのは、もしかすると魔物を狩ることもあるかも知れないという申し出をくみ取った結果だろう。

 

 そんなジンに、俺は首を左右に振ってみせた。

「まずその『世界樹様』は止めようか。普通に『キラ』とか、言いづらかったら『キラ様』とかでいいから」

「しかし……」

「どっちかというと、俺自身が世界樹と呼ばれ慣れてないからそうして欲しいって話だよ。農業系の実験だからそこまでの緊急事態になることは無いと思うけれど、一応ね」

 基本的に眷属は俺のことを「世界樹」とは呼ばなくなっている。

 そのためどうしても「世界樹」と呼ばれることに違和感を覚えてしまうのだ。

 

 その気持ちを汲み取ってくれたのか、ダークエルフ三人はしばらく顔を見合わせてから頷いていた。

「――畏まりました。それではキラ様ということで」

「それでいいよ。それじゃあ、歓迎会でも始めようか」

「え? 実験は……」

「まだまだ先は長いんだから今日はいいよ。それよりもまずはこっちに慣れてもらわないとね」

 

 そんなことを言ってダークエルフたちを説得したのだが、何のことはない、俺自身がハウスでお取り寄せした料理を食べてみたかったのだ。

 相変わらず食欲というものはわいて来ないのだが、進化した分体で動き回っていると何となく食事ができるようになっているんじゃないかと感じることがあった。

 それを確認する目的もあって、わざわざ食事の席を用意したのである。

 ダークエルフたちが眷属に慣れてもらうためという建前もあるのだが、それ以前に眷属たちとはなかなかやらないことをやってみたかったという欲もある。

 

 というわけで三人のダークエルフを迎え入れたホームで、ささやかな歓迎会が開かれた。

 結果として眷属たちとの仲はある程度深まったようだが、相変わらず「世界樹様」としての意識が強いのか俺に対してはよそよそしいままで終わってしまった。

 それについては今後に期待ということで、歓迎会はお開きとなった。

 

 ♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦

 

 歓迎会が開かれた翌日。

 俺たちは、三人のダークエルフが寝泊まりしている建屋の傍に集まっていた。

 この辺りはアイが建物を建てるための建材として木をとったりしてある程度開けているので、実験用の農地を作る場所としては最適なのだ。

 三人は事前に俺が里でやったことを聞いているのか、敢えて説明を求めてくるようなことは無かった。

 それはわかっていたのだが、一応これからやろうとしていることを口頭で説明することにした。

 

「――それじゃあ始めるから見ていてね。あ、先に言っておくけれど、後から詳しい説明を求められても答えられないから」

「それは秘匿する必要があるということですか?」

「いんや違うよ」

 問いかけてきたジンに、首を左右に振り返した。

「長老には言ったと思うけれど、説明したくてもできないんだこれが。俺も何故こんなことができるのかよくわかっていないから」

「確か種族由来の魔法だからということでしたか?」

「多分ね。だからダークエルフたちにこの魔法が使えるようになるかはわからない。まあ、わからないから研究してもらうつもりで来てもらっているんだけれどね」

「それは承知しております。使えるようになれば、ずいぶんと里の運営が楽になることも」

「そういうこと。出来る限り頑張って。ただ無理のし過ぎは駄目だからね。……その辺は長老からも言われているか」


 あの長老がそんな基本的なことを見落とすはずがない。

 そう考えての発言だったが、三人のダークエルフは苦笑交じりに頷いていた。

 どうやら言われ過ぎるほどに言われてきたようだった。

 聞き流されるよりはましな反応が返ってきたので、俺もひと笑いしながら作業に取り掛かることにした。

 

 この場には三人のダークエルフだけではなく、俺が使う魔法に興味があるとのことで、アイとラックも来ている。

 一応護衛という目的もあるのだろうが、それよりは魔法のほうに関心が向いているように見える。

 それはそれで悪いことではないと思っているので、好きなようにさせている。

 そんなメンバーに見守られながら、魔法を使い始めることになった。

 

 最初に使ったのは、ダークエルフの里でも使った農地を作るための魔法だ。

 あの時は一応人目があったのである程度制限していたのだが、今回はできるだけ大きめに作ってみると決めていた。

 そうして使ってみた結果は――、

「ご主人様、これは…………?」

「あ~。ちょっとやりすぎちゃったかな」

 戸惑ったように聞いてきたアイに、俺も少し苦笑しながら答えた。

 ダークエルフの里で作ったものと比べて倍くらいの大きさになればいいかなと思って作ったのだが、さらにそれの倍以上の大きさになっている。

 それは既にちょっとした畑ではなく、それこそ過去にでっかいどーでよく見たような大きさの畑になっていた。

「ちょっとどころではない気がするのですが……管理できるのですか?」

「里で管理するのは難しいだろうなあ……」

 でっかいどーの畑があそこまで大きいのは、あくまでも農業機械を使って管理するという前提がある。もしくは多くの人手が用意できるか、だ。

 そのどちらも用意できない現状では、ここまで大きな畑を用意する必要がないともいえる。

 

「いや。まー、うん。作っちゃったものは仕方ないから、とりあえずここはこのままで使っていこうか。連作障害とかもあまり気にしなくてもいいし」

 目的はあくまでも実験であって食料用ではないので、同じ作物を作り続ける予定もない。

 それに『大は小を兼ねる』ではないが、大きな一つの畑を幾つかに区切って管理をしていけば良いだけだ。

 内心でそんな言い訳をしつつ、今後はきちんとした魔力の調整も必要だろうなあと反省するのであった。

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