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(9)相手の手段

 インヨウ攻略終了のメッセージを受け取って三日後、次は公領ボス討伐のメッセージが来た。

 これほど早く準備を整えて討伐することができたのは事前にしっかりとした準備をしていたからということもあるが、子眷属たちの成長著しいということもある。

 今では子眷属の中でも一体だけで公領ボスを討伐できるくらいに成長している個体()もいるくらいなので、当然の結果と言えるだろう。

 このままその子眷属たちが成長してくれれば、いずれは公領一つを任せることになるかもしれない。

 成長した子眷属をどう配置していくのかを考えると楽しみなことだが、一方で誕生したばかりの子眷属を放置していても意味はない。

 基本的にユグホウラは数で勝負する組織だと考えているが、以前から言っているように質を落としては意味がないとも考えている。

 それらの質をきっちりと上げるように、今後は領内で発生したダンジョンなどを使って質を上げるように図っていくつもりだ。

 幸いにもユリアたちの活動の成果もあって、エゾ内にも小さめのダンジョンが幾つか確認されている。

 それらのダンジョンを上手く活用できれば、子眷属の成長に役立てることができるはずだ。

 そのことを眷属たちに話すと思いのほかやる気になっているので、ヒノモトの攻略が終わって時間ができれば上手く活用してくれるはずだ。

 

 インヨウの公領化が終わって二日後には、ツクシが爵位持ちが関与していると思われる魔物との交戦が本格的に始まったと連絡がきた。

 キナイよりもこちらが早く始まったのは、例の情報の通りにもともと攻略しているチーム(?)が多いからだろう。

 事前の調査でも二体か三体はいるという報告がされていたので、タイミング的にもそれを裏付ける結果となっている。

 というよりもむしろ予想よりも遅かった方だとさえ考えていた。

 相手の方もユグホウラが活動していることは掴んでいるはずなので、混乱に乗じて攻略を速めたりするかと思っていたのだがどうもその気配がない。

 もしかすると爵位持ちとの連絡が取れずにその決断待ちということになっている可能性もあるが、それにしても妙に動きが鈍いことが気になるところだ。

 どれくらい前からツクシの攻略を開始していたのかはわからないが、もしかするとほとんど攻略が進んでいなかったこともそれに関係しているのかもしれない。

 

 ツクシよりもキナイの方が接触が遅れてはいるが、これは対象の魔物が治めている領域がツクシの魔物たちよりも狭いからだ。

 といってもツクシは複数体で、キナイが一体の魔物で攻略していることを考えれば、攻略済みの領域が狭いのは当然だろう。

 むしろ一体で攻略していたのにも関わらず報告にあっただけの領域を治めているのは、ツクシと比べれば比較的優秀な部類だと言える。

 もっともユグホウラにいる子眷属を一体送ったとしても、ここまで攻略が遅いということはないだろうが。

 

 それはともかくとして、ツクシが接敵したと報告があってから数日後にはキナイからも同じような報告を受けた。

 その際に例の異分子についても話を聞いてみたが、特に妙な動きをするようなことはなかったらしい。

 かといって積極的に戦っていたということも言っていなかったので、まだまだ何かの策略が残っているのかどうかの判断はつかない。

 そのあたりのことは直接対話しているシルクの方が肌で感じて理解しているはずなので、こちらから細かく指示を出すような真似をするつもりはない。

 

「――ついにどちらも接敵しましたか」

「そう。だけれど、あまりにも動きが鈍すぎる」

「仕方ないのではありませんか? むしろユグホウラの方が急拡大しすぎなのかもしれません」

「そうなのかな?」

「私たちのように遠距離の連絡手段が限られているという点を取っても、今の動きはむしろ当然ではありませんか?」

「それはそうかも知れない」


 同じように報告を受け取ったアイとクインの会話を聞きながら、確かに俺も相手の動きが鈍いと感じていた。

 相手も魔物である以上は、拡張路線を取っていなかったとしても自領に対する防衛本能は残っているはずだ。

 それを考えれば領地に接敵するまでほとんど動きを見せていなかったというのが、どうにも引っかかる。

 二人の会話にもあったように、やはり爵位持ちとの連絡手段が限られていて動くに動けなかったという理由が一番大きい気がしてきた。

 

「連絡手段が限られているか。それに加えて、もしかすると眷属化の問題もあるかも知れないね」

「眷属化……信用できる眷属が少ないと思われますか?」

 俺の言葉に、クインが視線を向けながらそう聞いてきた。

「いや。そうじゃなくて、そもそも眷属を島であるヒノモトに送って来る手段が限られているとかね」

「……そういえば、ツクシにいると思われる魔物はいずれも鳥種でしたか」

「そういうこと。眷属を多く抱えていても、島に渡って来る手段がなければ意味がないからね。だとすると動きが鈍いのにも理由がつくかなってね」

「我々のように自前の船が無ければ確かにそうなるかも知れません」


 船という手段がなければ、海を渡って来るのも一苦労になる。

 人族は船を使って往来を行っているようだが、魔物がわざわざ船を開発するとも思えない。

 ユグホウラが大陸に移動できるくらいの船を持っているのは、船を使って移動するという人としては当たり前の感覚を持った俺とアイという開発担当がいたからだ。

 連絡手段と移動手段の不足の両方が合わさって現在の状況が作られているのであれば、いくらか納得できることではある。

 

「やっぱり島国スタートというのは大きかったかな」

「それは勿論あるでしょうが、やはり主様の存在は大きいかと思います。恐らく私たちに任せた部分が他の魔物に比べて大きいでしょうから」

「そうなのかな? その辺はよくわからないけれど」

「魔物は基本的に自分で戦うことが基本ですから。主様のように積極的に眷属を作ろうとする者も少ないはずです」

「それは俺というよりも世界樹としての本能的なものもあると思うけれどね。現に俺が分体化できた時も、アイやクインたちが既にいたじゃない」

「それは……そうかも知れませんね」

「世界樹の本能……は良いとしても、大陸の爵位持ちは眷属が少ないと決めつけるのは危険です」

「確かにアイの言うとおりだね。今はたまたま島に来る手段がないっていうだけの可能性の方が高いか」

「その爵位持ちが船という移動手段を得ることができれば、今後はどうなるかわからない……ということですか」


 もし大陸にいる爵位持ちが人族の港町を制するようなことがあれば、船という手段を得ることができるかもしれない。

 その時には間違いなく、ヒノモトを狙ってより攻撃が過激化してくるだろう。

 もっともその場合はこちらもより性能の高い船を使って迎撃するだけなのだが。

 それくらいに、金属船と木造船の性能の差は大きい。

 

 ヒノモトを攻略してしまえすれば、あとは海での戦いの能力を上げれば島国である限りは守り切ることができる。

 金属船が開発できてその自信が生まれたからこそ、ヒノモト全域の攻略を速めたというのも理由の一つとなっている。

 このまま行けばヒノモトの攻略も終わるだろうが、問題はその後だ。

 爵位持ちの存在が明らかになった以上は、明らかに今よりも犠牲が増えることを考えればあまり積極的に大陸の攻略をする気にはなれない。

 ただし相手がこちらに積極的に来るような動きを見せれば、元を断つという決断を下すこともあるだろう。

 それもこれも相手次第といったところだが、まずは足元を固める意味でもヒノモトの攻略をしっかりと終わらせておきたい。

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