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(6)タマモ(狐種)不参戦

 今回のように広場では様々な交流が行われていて、新しい商品の開発も続々と行われている。

 俺の中で一番開発されてよかったと思えるものは、やはりいろんな人の集合知で復活させられている日本食だろうか。

 料理人は三人いるが、料理自体は詳しくてもさすがに調味料の類まで作り方を網羅しているわけではない。

 日本料理の基本となる味噌や醤油は、味は落ちるが似たようなものが転生世界にあるのでそれを近づけるように改良をして、ソース系となるとほとんど存在していなかった。

 それ以外にも国外で使われている調味料の類は、知っているプレイヤーが助言をしつつ少しずつ増やしていった……そうだ。

 正直なところ俺自身は男の一人暮らし料理くらいしかできないので、調味料の作成に関してはほとんど関与していない。

 敢えて上げるとすれば、元となる植物がないから作って欲しいという依頼が来て幾つかの種か植物そのものを渡したくらいだった。

 他のプレイヤー曰く、それが一番重要と言ってきてくれたのだが、スキルでポンと出せてしまうので俺自身としてはあまりありがたみを感じていなかったりする。

 

 広場に行って入浴と食事をセットで行うのがこのところの日常となっているが、最近は長時間入り浸ることはほとんどない。

 広場で請け負っている仕事が無いからというのもあるのだが、それ以上にやはりヒノモト攻略が佳境を迎えているからというのが一番の理由である。

 現地には眷属たちが直接行っていてその場その場で判断しているので、よほどのことが無い限りは緊急連絡が入って来ることはない。

 逆にいえば何かの連絡があった時というのは、眷属では判断できない何かが起こったということになる。

 

 特に、以前シルクが連絡をくれた時のように爵位持ちの関与がありそうな場合で、事前に予定していなかったことが起こった場合は連絡が来るようになっている。

 少し神経質になり過ぎているかもしれないが、この世界に来て爵位持ちと明確な敵対関係になるのは初めてのことなので出来る限り慎重に行動したほうがいいだろう。

 眷属たちはそれに合わせてくれている形だが、ファイなんかは力技でたたき伏せればいいのにと考えているかもしれない。

 勿論それは、ただの意見として持っているだけで不満という気持ちを抱いているわけではないのだが。

 

 相変わらず眷属たちが順調に攻略を進めている中、現在俺自身はムサシにいるタマモの元を訪ねていた。

 特に何かがあったというわけではなく、たまには顔を見せないと折角ある準領域としての繋がりが切れるかもしれないということで定期的に顔を見せているのだ。

「――そなたもマメよの。用があるなら我を呼びつけるのが筋だろうに」

「ハハ。本当に忙しくなればそうすることもあるかも知れませんが、今はそうでもありませんからね」

「……『敵』の存在が明確になっていて、しかもその相手と交戦中というのに忙しくないか。そなたが忙しいという時はいつになるのだろうな?」

「それは間違いなく爵位持ちが直接出張ってきた時でしょう。さすがにその時はこちらも直接向かいますよ」

「それはそれでそなたの配下に止められそうだがの」

「あ~。それは十分にありえそうですねぇ……」

 タマモの茶化しに、俺ものんびりと頷き返した。

 

 ただタマモにはそう答えたものの眷属の中で俺自身が戦闘に参加するのを止めようとする者はいないだろうと考えている。

 その理由としては、俺自身が戦闘に参加して敗れるようなときは既に眷属たちが全滅していてもおかしくはないような状況になっているはずだからだ。

 それくらいには眷属たちの忠義心は高いうえに、俺への攻撃が致命的なものになりそうなときには盾になることも厭わないだろう。

 もっともそこまで強力な敵に出張ってこられると、恐らくユグホウラという存在自体がなくなってしまってもおかしくはないような状況になっているはずだ。

 

「できればそんな時が来ないように願いたいな。そなたが敗れれば次は間違いなく我の元に来るだろうからの」

「ハイハイ。盾として十分に役立って見せますよ」

「うむ。良きに計らえ」


 芝居がかって言ってきたそのセリフに、俺とタマモは視線を合わせてから少しだけ笑いあった。

 こんな冗談を言いあえるのも、これまで培ってきた関係性があるからだ。

 俺が主従の関係を強制するような真似をしていれば、間違いなくこんな関係は築けなかったはずだ。

 そのことの善悪はともかくとして、俺自身が今の関係を心地いいと考えているので今のところそれを崩すつもりはない。

 一緒に着いてきているアイも特に気にすることなく座っているので、そのことをよく理解しているのだろう。

 

「――ところで我は本当に戦いに出向かなくてもいいのか?」

「構いませんよ。今はムサシの平定に忙しいのではありませんか?」

「確かにそれはそうだがな。このまま我は、ヒノモトの攻略には参加せずに終わるのかの?」

「おや。参加したかったのですか? 私としてはどちらでも構わないのですが」

「……普通、配下に置いた者を戦闘に参加させるものと思うておったのだが?」

「必要ならそうしますが、今のところその必要性を感じませんからね」


 今のところヒノモト攻略にタマモの勢力を参加させるつもりはない。

 タマモ自身が参加したいと言って来るのであれば考えたのだが、今までそんなそぶりを見せてこなかったので特に計画に入れることはしなかったのだ。

 だが今の話を聞く限り、タマモはこちらから声を掛けてくると思って黙っていたようだ。

 

「参加したいと言うなら止めませんよ? それにムサシが完全に安定しているなら良いのですが、今はまだまだですよね?」

「うむ。正直なところ助かってはいるのだ。だがいつ言われるのかと待っておくのも落ち着かないからの」

「そういうことでしたか。それでしたらあまり気にせず、ムサシに平定に気を配ってください。あとひと月もすれば終わっているはずですし」

「……それはそれで恐ろしいがの。物量で攻められるというのは、相手からしたらたまったものではないな」

「そもそも魔物はそちらのほうが本筋だと考えていたのですが、一般的には違うようですね」

「どうだろうかの。それこそ種族によって違っているのだろうが、少なくとも我にはその発想はなかったからな」

「ゴブリンだって集団になれば人族の町を落すことだってできるようになります。だからこそ人族は数が増える前に集落を見つけ次第潰したりするのでしょう」

「確かにな。そう考えると数が重要だとわかるのだが……」


 ユグホウラと接触するまでは狐という種族にこだわって攻略していたからこそ、今現在数を頼りに攻略を進めているユグホウラを見て何か思うところがあるのだろう。

 もっとも数を頼りにと言っているが、戦闘に参加している子眷属や準眷属は質自体も悪くはない。

 一般的な人族の戦士を例にとれば、最低限でも三人は同時に相手が出来るくらいの戦闘能力は有している。

 百人以上の部隊を率いている部隊長クラスになれば、領域ボスをしていてもおかしくはないような強さがあるので、決して質を軽視しているわけではない。

 

 ユグホウラの兵の質はともかくとして、今回の作戦にはタマモたちが参加することはないだろう。

 もしかすると公領ボスクラスであれば参加させてもいいとは思うが、それもきちんと確認を取ってからにするつもりだ。

 そして恐らく日本列島を全て攻略した後に出てくると予想している《《ボス》》との戦いでは、タマモ本人が参加したがると考えている。

 その時にこちらが了承するかは別にして、それだけでも全く構わないと考えていた。

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