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(6)初めての作戦

本日2話目(2/2)

 変化が起こったエリアボスは、ちょうどチュートリアルで倒したエリアボスから見て西隣に位置するボスだった。

 探索も含めれば初期のころからずっとちょっかいを出し続けているところなので、他のエリアボスよりも先に動いたのはある意味で妥当と言えるかもしれない。

 最初のうちは静観するつもりだったのか全くと言っていいほど動きを見せていなかったのだが、積極的に魔物を狩るようになってからはこちらの動きに気付いたかのように何やら動いていたそうだ。

 もしかすると自身のエサが減らされていることに気付いて、縄張り侵入者と認識されているのではないか、というのがラックの見立てだ。

 こちらが相手のエリアに侵入する際は、眷属が多くても二体か一体プラス子眷属の何体かという構成で行っている。

 その眷属もラックかクインかルフだけに絞って行っているので、他の眷属がいるとは思っていないはずだ。

 こちらのエリアまで侵入して偵察を行っているのであるならともかく、そういった様子は全く見られていないからだ。

 万が一のことを考えて、最初から侵入する眷属を限定していたことが功を奏したともいえるだろう。

 

 今回の相手の動きとしては、こちらの動きを探っていた段階でホームの位置をある程度特定しているようで、世界樹へ向かって一直線に来ているらしい。

 ただし最初のエリアボスと同じように、部下のようなものは連れてきている様子はなく、単独で行動しているという報告だった。

 途中で何がしかの仲間を引きつれるかもしれないが、突発的に仲間に出来るような魔物はそこまで強い個体ではないというのが目下の読みである。

 そもそもそうした能力を持っているのであれば、最初から多くの部下を連れているはずだという考えもある。

 

 いずれにしても敵がホームに向かってきているのは確実なので、これを撃退しなければならない。

 むしろ討伐経験値が多くなると分かっている領域内に来てくれているのは、こちらとしてはありがたいともいえる。

「向こうから来てくれたのは助かったかな。今後起こりえるであろう迎撃の訓練にもなるだろうから」

「なるほど。確かにそうですね」

「勿論得られる経験値が増えるのが美味しいというのもあるけれどね。といっても慢心はダメだが」

「それはそうですわ。それに、相手に対しても失礼ですわね」

「それもあったか。とにかく、こうして侵入してくることが確定した以上は、全力で相手をする」

「「はい!」」

 俺の宣言に対しての言葉での返答があったのはシルクとクインだったが、他の眷属たちもそれぞれの動きで返してきていた。

 

「それで迎撃の体制だが、最初は向こうのエリアに侵入していない眷属を加えて三体で……と考えていたが変更することにした」

「お伺いいたします」

「折角こちらの領域に来てくれるんだから、罠でもはってみようかと思ってね」

「罠、ですか」

「そう。折角やる気になってくれているので、アイが作った罠を使って……と言いたいところだが、さすがに今回は間に合いそうにない。というわけで、子眷属たちを使って罠を張ることにする」

「子眷属の罠……ですか?」

「うん。もっと言うとシルクの子眷属たちを使った罠かな」

「わたくしの、ですか」

「そう。といっても単純なものになってしまうだろうけれどね。子眷属たちは巣を作ることができるだろう?」

「……なるほどですわね。そういうことですか」


 言いたいことがすぐに分かったのか、俺が具体的な作戦を言う前に納得した様子で頷いていた。

 さらに詳しく言えば子眷属たちが作る罠は、そこまで効果的な成果をあげなくてもいい。

 こちらの求める効果としては、相手の侵入経路が罠によって絞れればそれで構わない。

 さすがにこれを言ってしまうと子眷属たちのやる気がそがれると思って口にしていないが、こうした罠を多用していくことによって戦略や戦術を理解してもらえるようになってくれればいい。

 

 相手が罠にかかることまでは期待していないが、だからといって絶対にかからないというわけではない。

 もし罠にかかったらかかったで、想定よりも楽に倒せるようになるだけのことだ。

 その場合は、それこそ罠をかけた子眷属たちが相手を倒してしまってもいいかも知れない。

 

 眷属だけではなく子眷属も使った作戦に、もしかしたら反対意見も出るかもしれないと思っていたが、特にそうした動きはなかった。

「すまないね。もしかしたら子眷属たちに犠牲が出るかもしれない」

「その程度のことで謝らないでほしいですわ。子眷属たちは勿論、わたくしたちも主様のために存在しているのですから」

 聞きようによっては――というよりもまさしく狂信一歩手前といった言葉だが、それでも今の俺にとってはありがたい。

 狂信をもとに暴走されては困りものだが、そういう感じは全くないので構わないと考えている。

 それにそうした信仰心のようなものがなければ、そもそもこれだけの違っている種族をまとめることはできないだろう。

 もしかしたら今後も眷属が増えるかもしれないことを考えると、眷属たちのそうした思いは必要なものだと割り切っていた。

 

 ♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦

 

 そんなわけで具体的に動き出したエリアボス討伐だが、今いる眷属、子眷属を総動員しての対応となった。

 その理由として、シルクの子眷属が全員出払うことになったからということが一番大きな理由だ。

 とはいえ最初の時と違って、いまはクインの子眷属三十体がいる。

 その子眷属たちには、エリアボスの予想侵入経路以外の領域を見張ってもらうことになっていた。

 

「なんというか、これもご都合主義と言えないこともないけれど……本当にちょうどいいタイミングで子眷属を増やせたね」

「本当ですね。もしいなかったらと考えると……対処できなかったとは言いませんが、今以上に忙しくなったことは間違いないでしょう」

「カクカク(本当に)」

「まあ、時には運のよさも必要だということかな。ただ今後も同じく運が続くとは思えないから、万全の体制を整えないとな」

「同感です」


「それにしてもアイは済まなかったな」

「(カク)?」

「本当なら用意してくれた罠の一つでも使いたかったんだが、さすがに今すぐに子眷属との連携は難しいと思ってね」

「カクカク」

「そう言ってくれると助かる。というか、領域内に色々と仕込んでおくのもありだろうね。それは今後の課題か」

「積極的に罠も使っていくということですね」

「うん。子眷属たちに罠の位置を教えたりする手間は増えるかもしれないが、防衛力を高めるという意味では必要だと思う」

「そのようなこと気にされる必要はありません。そもそも罠の位置も覚えられないようであれば、この先生き残っていくことなどできないでしょうから」

「そうか」


 シルクやクインの子眷属に対する感情は、あくまでも俺の役に立てるのかということと厳しい世界で生き残っていくことができるのかということだ。

 前者はともかくとして、後者はどの生き物でも同じようなことが言えるかもしれない。

 強い者が生き残っていく。それは、眷属に限らず生きていく者たちにとっては必要なことなのだろう。

 現代日本のようにある程度余裕のある社会が築けたならともかく、今の俺たちはお世辞にも余裕があるとはいえない。

 そんな言い訳を考えながら居残りアイとクインとともに撃退組の報告を待つことにした。

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