(2)ハウジングとステータス
本日2話目(2/2)
あちらの世界――改め転移世界に持っていくアイテム(主に本)なんかを整理したりした後で、改めて入手可能なスキルを眺めてみた。
今すぐに購入するわけではないが、今後入手できるであろうスキルを見ておいて損はないだろうと考えたのだ。
そこで気になったスキルがいくつかあったので、メモ……は持って帰ることができるか分からないが、試しに軽くメモをして懐に忍ばせる。
考えてみれば、ここで購入した本なんかもどうやって転移世界に持っていくのだろうか?
分かりやすくアイテムボックス的なものが置かれていればよかったのだが、辺りを見回してもそんなものはどこにも置かれていない。
どうしたものかと悩んでいると、スキルやアイテムが並んでいる場所ではなく、ハウジング項目の所にちゃっかりと書かれていた。
考えてみれば当たり前のことで、これは見落としていた俺が悪いと反省する。
折角なので改めてハウジングの一覧を見てみたが、これはと興味の引くものが幾つかあった。
その代表格なのが――、
「考えてみれば、湯船に浸かるなんてずっとやってなかったな。……そう考えると風呂に入りたくなってきた。小さい物だと手に届きそうな金額なのが、また悩ましい」
世界樹本体や妖精の体でいるときには全くといっていいほど不快感は覚えていなかったのだが、普通の人の体で過ごしていると一定期間風呂に入っていなかったという事実が気になりだしてきた。
基本的に風呂(温泉)が好きな俺としては、入れるときに入っておきたいという欲求がわいてくる。
だからといって眷属たちが一生懸命に稼いだ魔石を、こんなことに使っていいのかという後ろめたさもある。
「もしこの場にあいつらがいたとしても『主(様)のお好きなように』とか言いそうだが、なあ……」
腕を組みながらうーんと悩むこと数秒後。
脳内の天使と悪魔の争いは、後者が勝つという結果に終わった。
「や、やってしまった……。――とりあえず、買ってしまったものは仕方ない。さっそく入ってみよう。そうしよう」
言い訳がましくそんなことを呟きながら、ハウスの中に新しく追加された区域(風呂)へといそいそと入っていくのであった。
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久しぶりのお風呂を堪能したあとは、もう一度掲示板を開いて新たな情報などが上がっていないかを確認する。
ただ残念ながら掲示板の話題は俺自身のことで盛り上がっていて、目新しい情報はなかった。
ちなみに何故俺の情報で盛り上がっているかといえば、木なんてものに転生したということもあるが、戦略シミュレーション系の動きになっていることが気になっているらしい。
勿論その話題は、それぞれのプレイヤーがどういった立ち回りで動けばいいのかということだ。
単純なロープレ(RPG)ではなく、国取り的な要素も出てくるとなると行動するうえで様々な選択肢が出てくる。
本当の意味で「好きなように」生きていけるようだと分かって、どんな生き方があるのかという方面で話題が出まくっているようである。
俺自身としてもその話題に乗っかりたいところではあるが、現状世界樹(本体)とその妖精(分体)である以上、今のところ選択肢はほとんどないと言っていい。
領域の拡大を第一の目標としている以上は、戦略シミュレーションにならざるを得ないのだ。
というわけで、掲示板から離れて改めて転移世界へ向かう準備を進める。
アイテムボックスはともかくとして、風呂を買うという散財をしたので資金的にも余裕があるわけではなくなった。
俺自身の性格として、こういったゲームでの買い物はある程度の余裕を残しておくというプレイが染みついているので、完全にゼロになったわけではない。
とはいえこれ以上の散財はするつもりはないので、先ほど買っておいたアイテムたちをアイテムボックスの中へと放り込んでいく。
それらの作業を終えてから、ハタと気付いたことがあった。
「……そういえば、どうやって向こうに戻るんだ?」
ハウスに来てからは、脳内ステータス画面は見えていない。
あくまでも様々な情報は端末で見ることができるようになっている。
であれば、あちらへの移動も端末からできるはずだ。
そんなことを考えてから端末に戻ると、しっかりと画面内に『続きはこちらから』という真面目なのかふざけているのかわからない案内表示があった。
何となくここの運営らしさ(主に上司)を感じて脱力してからその項目をクリック――しようとしたところでふと思いとどまった。
「そういえば、こっちでステータス画面はちゃんと見てなかったな」
どうせ向こうで見えているものと同じだろうと決めつけて、後回しにしていた。
今更ながらにそのことを思い出した俺は、改めてステータス画面を確認することにした。
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名前:キラ(桂木昭)
種族:世界樹(苗木)
職業:世界樹の精霊
所持スキル:魔力操作、分体生成、意思疎通、魔石生成、枝根動可、基本魔法
眷属:木人、大梟、蜘蛛人、銀狼、火熊、魔蜂人
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「ええー……。まさか、こっちでもスキルレベルは確認できず、か……」
経験値は入っていることが分かっているけれど、レベル表示がないということに何か意味があるのかどうかよくわからない。
細かいパラメーターがないのは相変わらずだが、もしかするとこれは仕様なのかもしれない。
――という考察が掲示板でされていた。他のプレイヤーもそこまでは見ることができないようである。
もしかしたらさらに上位のスキルへの派生することもあり得るので、注意深く見ていきたい。
慌てて掲示板で確認してみたが、未だ上位スキルへ派生したプレイヤーはいないようだった。
最初から上位スキルを持っている可能性はあるが、知りたいのは自動で派生するかなのでそこは問題にはならない。
購入可能なスキル一覧から上位スキルらしきものも推測できるだろうが、そもそも派生条件が分からない以上時間をかけて調べてもあまり意味はないだろうと考えることにした。
種族と職業に関しては、魔物を倒した経験値で上がることが分かっているので、レベルの細かい数値を追ってもあまり意味はない。
「うん。まあ……なんだ。運営もこうなることを予想して最初からレベル表示は避けたのかな? ……そういうことにしておこう」
俺自身が、最高効率を求めて経験値の細かい数値まで気にするようなタイプではないので、結果としてこんな結論に落ち着いた。
ゲームをやる上でそれはどうなんだという文句も来そうだが、性格上今更それを変えるつもりもない。
今のところ他のプレイヤーと競い合うような要素も見当たらないので、自分らしくやっていこうと決めた。