表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
153/226

(5)全体会議

 ツガル家とトウドウ家の両軍があたるまで数日といったところで、全眷属がホーム周辺に集まって会議を開いた。

 蜂の子眷属たちがちょっかいを掛けるのはイトウ家だが、実際の部隊の指揮をするのはクインではなく実働部隊の隊長がいるので不意に偵察部隊と当たったとしても問題はない。

 それよりもトウドウ家との連携が本格的に始まる前に、きちんとユグホウラ内の意思を統一しておくべきだと判断した。

 それならもっと前にやっておけよという突っ込みの声が聞こえてきそうだが、眷属たちは放っておくと直接指揮を始めてしまいそうなので敢えてギリギリを狙って開くことにしていた。

 それに新規加入したゴレム、レオ、ランカはともかくとして、残りの眷属たちはそれぞれ忙しく動き回っていて一同に集まる機会も減ってきている。

 こうした機会を作らないと集まることもなくなってしまったので、折角の機会を利用して皆で集まろうという目的もある。

 ちなみに眷属新規加入の三人は、まだまだ眷属になったばかりということで基本的には自己の強化がメインの仕事となっている。

 ただいきなり魔石を投入して進化をしても経験がついてこないので、ある程度実戦をつんでから進化をしているようだ。

 

 いつの間に作ったのか、ドールたちが用意したテーブルと椅子に腰かけて集まった眷属たちを見回してから口を開いた。

「皆忙しいのに集まってもらってごめんね。こうでもしないと皆が集まることも中々なくなっているからね」

「必要であればいつでも集まりますが、何か特別なことでもありましたか?」

 今回の集合の目的は敢えて伝えていないので、クインが代表してそう聞いてきた。

「特別なことではないけれど、そろそろツガル家で戦が始まるからね。ここらで皆の意思統一をしておいたほうがいいと思ってね」

「ピッピピ(なるほど。人族を相手にして対応がバラバラだと困りますからね)」

「そういうこと。これからは一つの手段として見られることが多くなると思うので、各自勝手に行動されると困るようなことが出てくるからね。今回決めるのはあくまでも大まかな方針だけだけれど」

「確かに、人族と対応する際には必要でしょうね」


 ツガル家との対応があって、今一番人族と関わっているのはクインになる。

 アイも素材の開発などでドワーフと話をすることが多いようだが、それはほとんど身内内でのやり取りなので注意すべきことは少ない。

 今後、人族の支配領域も領域化して行くことを考えれば、ユグホウラとしての意思統一は絶対に必要になる。

 そのことは今発言したクインが一番わかっていることだろう。

 ちなみに「言葉」を発するという意味ではアイ、クイン、シルク、アンネが出来るが、ラックは直接音にしない精神話(無音のまま言葉を伝える)を使うことができるようになっている。

 眷属同士の集まりでは精神話を使わなくても話が通じるので、今は普段通りに会話をしている。

 

「皆、一度は人族に対する方針は聞いていると思うけれど、各自バラバラに伝えていたりするからね。ここらでちゃんと方針として定めておこうということもある」

 そう言って一度言葉を区切って眷属たちの表情を確認してからさらに続ける。

「まず人族と直接対峙した場合、向こうから仕掛けてこない限りはこちらから仕掛けることは不可。ただ相手が攻撃をする意思を見せているときは別。ただ黙ってやられろというつもりはないからね」

 問題になるのは人族側に攻撃の意思があったのかなかったのかというところになるが、こればかりはその場での独自の判断とすることしかできない。

 日本でも「自衛権」がどこまで許されるのかと時々問題になるが、ただ黙って先に殴られろというつもりは全くない。

 そもそも初手を譲っている時点でいきなり命を取られる可能性が高いので、あくまでも「話し合いの余地」がありそうな場合に限っている。

 

 ちなみにこれはあくまでも個人で動いていた時のものであって、ユグホウラとしての方針は異なっていることもある。

「――集団で動いているときにはこちらから仕掛けることもあるだろうからね。その時は俺が判断することになる」

「その場合は国として動くということですわね」

「シルク、正解。別に専守防衛を基本にしてもいいんだけれど、どうせ国として表に出るんだったらもっと柔軟に対応できるようにしたほうがいいからね。最初から手足を縛られるつもりはないよ」

「ガウ(俺としては専守防衛の考え方自体が信じられないのだがな)」

「あー。まあ、その辺はその国の歴史が大きくかかわっているから俺としては何とも言えないな。ちなみに個人的な感情としては専守防衛はあっても言いと思うよ。……程度によるけれど」


 出会えば即戦闘になる魔物がいるこの世界で専守防衛という考え方は中々受け入れられずらいところがあるが、俺個人としては完全否定しているわけではない。

 というかそもそも専守防衛とは何ぞやという議論をし始めると全く結論が出ないという事態に陥るので、それだけにこだわるつもりもない。

 むしろ魔法があるこの世界で専守防衛をしていると即死に繋がることが多いので、初めから選択肢に上げることすらしていない。

 専守防衛という考えかたが通じるのは、あくまでも言葉が通じる者同士での間でしか通じないことだという考え方だ。

 

「そもそも戦争にならないように外交でどうにかする……と言いたいけれど、どう考えてもそうならない場合の方が多そうだからなあ」

「私たちはどこからどう見ても魔物の集団」

「そういうこと。人族が魔物を見て即戦闘になるのはもうちょっとどうにかならないのか……と言いたいところだけれど、それこそこれから歴史を積み重ねて行くしかないね」

「それを考えるとツガル家は例外だったというわけですか」

「そういうことだね。あとツガル家以外にもサダ家があるけれどね。あっちはユリアという存在がいるからこれまた特殊な事例だろうね」

「サダ家も特殊な事例では?」

「そうなると思うけれど、どうかな? こうやって俺たちの存在を知った上で付き合って行ける豪族なりが増えて行けば、共存は可能かもしれないね。それにこだわるつもりもないけれど」

「ガウ?(それで結局はどうなるんだ?)」

「どうもこうもないよ。歯向かって来るようであればちゃんと力で対処するし、同盟なり連携なりしたいというのであればそれにも応じる。ただ見下してくる相手とまともに付き合うつもりはないよ」


 弱みを見せればここぞとばかりに威圧なり恫喝なりしてくる相手はどこの世界にも存在している。

 そんなことをしてくる相手にまともな対応をしようとしても、こちらばかりが損をすることになる。

「売られた喧嘩はきちんと買う。それが魔物としての本分だろうからね。皆にも我慢しろと言うつもりはないよ。よほど大きな相手と当たらない限りは」

「それで大丈夫でしょうか? もし当たった相手が大きく強大であれば……」

「そんな国なり組織がいれば、どう考えても俺の耳に入ることになるだろうからね。その時はちゃんと別個で方針を出すから問題ないんじゃない?」

「ピッピ(もしあったとしても大陸に本格進出してからということになるでしょう)」

「そういうことだね」

 ラックの補足に同意してから再度一同の顔を見回した。

 今のところ出した方針に反対をする者はいないようで、内心で少し安心している。

 

 少なくとも日本列島に関しては各豪族で対応が変わってくる可能性があるが、それはそれぞれで判断をしていくしかない。

 そうした細かいことが面倒だと言っているファイなどは、最初から人が少ない地域をメインに攻略を進めてもらうつもりでいる。

 ――というよりも本人からその申し出があったのでそうしている。

 眷属たちもそれぞれに役目というものができてきているので、それはそれで構わないだろうというのが今のところの方針だ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ