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(7)今後の攻略方針

『ユグホウラ』の名前は、予定通りに眷属全員が集まった会議の席で発表した。

 その時の皆の反応はバラバラ……ではなく、基本的には「オオオ」というものだった。

 もっともそれぞれの性格があるので声に出して喜ぶのは少数だったが、表情や態度を見ていれば何となく高揚しているのだろうということくらいはわかる。

 とにかくセンスは横に置いておくとして、全員が気に入ったのだから問題ない。

 今後は『ユグホウラ』として活動していくことになる。

 この名前が世に広まるかどうかは今後の活動次第だが、はっきり言ってしまうと知名度の向上にはさほど興味がなかったりする。

 今のところの一番の興味は自分自身と眷属たちの強化で、そのために領土拡張をしている。

 領土が広がればその分得られる魔力(もしくはマナ?)も多くなり、それだけ進化に必要な貴重魔石が作れるようになるからだ。

 

 名前の発表はほどほどにして、それぞれの準備の状況を確認することにした。

 というよりも一番のメインである樺太方面の攻略準備が整ったという一報があったので、この場を設けたということもある。

「――というわけで北の島方面の攻略を始めるけれど、何か質問はあるかな?」

「やはり向かうのはファイとラック、それから鳥種の準眷属になりますか?」

 そう問いかけてきたのはシルクで、自分や子眷属が参加できないことが気になっているようだった。

「そうだね。クインの子眷属には手伝ってもらうこともあるかも知れないけれど、基本的にはその三者になるかな」

「転移装置が置かれれば、移動の問題はなくなると思いますわ」

「確かにね。クイン、シルク、アンネの子眷属は、どちらかといえば精霊樹周辺の整備と管理がメインになるね」

 俺の言葉に、シルクが「そうですか」とだけ言って頷いていた。

 

 子眷属たちを戦闘に参加させたいという気持ちは分かるが、通常の戦闘はエゾの中でもできる。

 進化するために大切なのは魔石なので、絶対に戦闘が必要だというわけでもない。

 それよりも新しい土地の最初のうちは、まず拠点の構築をメインにしておきたい。

 蜘蛛、蜂、蟻の子眷属たちが新規の土地で攻略に参加するのは、拠点の整備が終わってからと考えている。

 

「いくらファイがいるといっても数か月程度で全部の土地が攻略できるわけもないからね。他のメンバーには拠点の構築が終わってから参加してもらうつもり」

「ガウ。(なんだ。俺が全部やっていいのかと思っていたぜ)」

「はい、そこ。挑発しない。ファイ一人で島全部を攻略するよりも拠点の構築の方が先に終わるだろうから、どう頑張っても独り占めはできないよ」

「ピッピ?(私たちは予定通りに、初期領域の確保だけを考えればよろしいのですか?)」

「鳥種はねー。別にどっちでもいいかな。参加したがるのであれば無理に抑える必要はないけれど、必要以上に参加させる必要はないかな」

「ピ。(畏まりました)」


 今のところ準眷属が領域ボスを討伐したらどうなるのかは確認していない。

 ただあくまでも予想の段階だが、眷属や子眷属がボスを倒した時と同じことになるだろうと考えている。

 

 樺太方面の攻略は、大陸進出への足掛かりになる。

 今のところユーラシア大陸の北部がどの程度人族が進出していて、どの程度の町や村があるのかも分かっていない。

 本島の農耕レベルを見ている限りでは、冬の寒さが厳しい北部でそこまで多くの人が生活しているとは思えないのだが、そもそも本島の農耕レベルが低い可能性もある。

 それらの調査をすることも含めて、まずは樺太方面の攻略が大切になってくる。

 

 すでにそれらのことは眷属たちに伝えているので、やはり気合の入りようは中々のものがある。

 それぞれがそれぞれの仕事をしてもらえればいいだけなのでほとんど何の心配もしていないが、それでも何か突発的なことが起こる可能性だってある。

 そうした様々なことを考えながら、まずは樺太方面の攻略を進めていきたい。

 以前ちょこっとだけ手を出した時には何も起こらなかったので、少なくとも樺太の攻略自体は順調に進められるだろうと考えている。

 

 とまあこれだけだと樺太方面からの攻略しか考えてないように思われるかもしれないが、勿論そんなことはない。

「それに、シルクとクインの子眷属はこれからやることが多くなるからそこまで戦闘を気にしている余裕はなくなるかも知れないよ?」

「どういうことでしょう?」

「二面作戦というと大げさだけれど、並行してツガル方面も進めて行こうと思う。こっちは春以降になると思うけれど」

「それでは……?」

「ああ。以前話した通りに、まずは拠点の確保。それから豪族に接触が目標になるかな? できれば交易なんかも進められると今後がやりやすい」

「問題は魔物相手に取引をするかどうかですが」

「そこは気にしても仕方ない。魔物だからと頭から話し合いにならないようであれば、それはそれでわかりやすくていいからね」

 

 交渉やら交易というのは、お互いに認め合うからこそできることだ。

 一方的に搾取したり儲けたりしても、その関係は長続きしないだろう。

 そうやって関係を築くことができれば、戦力としてあてにされるのは全く構わないと考えている。

 

 ちなみに人族との関係が今後どうなるかはわからないが、一方的に搾取する側になるつもりはないということは眷属たちに伝えている。

 最初はそれでよくとも必ず強い反発が起きるというのは地球での歴史を振り返ればわかることなので、わざわざ同じような道を歩むつもりはない。

 人族を優遇するつもりは全くないが、だからといって極端に数を減らすような真似はしたくないというのが本音なのだ。

 それ自体が優遇だと言われればそれまでだが、やはり人としての意識は残っているので極端なことをするつもりはない。

 

「――領域化についての話は以上かな? 他に無ければ別の話に進むけれど?」

 そう言って周囲を見回したが、特に反応がなかったので話を続けた。

「他といっても進捗の確認だけになるけれど、まずアイの研究開発に関してはどうなっている?」

「研究に関しては特に問題ない。予定通りに開発が進みそうです」

「そうか。だったらそろそろ次のことを考えてもいいかな?」

「まだ完全に成功したとは言えないから、まだ実際に動くのは反対です」

「それはわかっているよ。あくまでも次の動きで必要になりそうなことを周知するだけ」

「それならいいです」


 アイからの同意を得られたので、今度はアンネを見た。

「アンネの子眷属は、アイの研究結果次第ではこれからメインで動いてもらうことになる」

「あらあら。私の子たちがですか~」

「言ってしまえば造船所までの地下通路の建築と物資の運搬になるね」

 地下通路の建築は当然のこととして、蟻種の魔物は物資の運搬に非常に力を発揮することがわかっている。

 蜘蛛や蜂では運べないような大きく重いものも、体質はもとよりその数を生かして一気に運ぶことができるのだ。

 何とも蟻らしい生態といえるが、組織を運営していく上では非常に役立つ能力ともいえる。

 

 余談ではあるが、蟻種の力は戦闘力として生かされるわけではなく、あくまでも荷物の運搬や設営などに力を発揮する。

 実際に力が出ている以上は戦闘でも使えないことは無いのだが、やはり根っからの戦闘種であるオークやオーガ、鬼などの力を生かして戦う種族には敵わないそうだ。

 その蟻種も経験を積んでいけばそれら力系の種族にも勝てるようにはなるのだが、あくまでも相手がそこまでの経験を積んでいないことという条件が付くらしい。

 ただ蟻種にはオークやオーガにはない『硬さ』というのが備わっているので、必ずしも力の差だけで勝敗がつくわけではない――らしい。

 

 ちなみに今のところ多産系の三種(蟻、蜘蛛、蜂)は、人族の姿とほとんど変わらないものから元の姿をしたものまで色々と存在している。

 それらの割合をどうするかはそれぞれに任せているのだが、今後のことを考えればより人の姿に近い種を増やしていくことになるだろう。

 今後、人族との付き合いが増えることが確実なので、どうしても動物のままの姿だと忌避される傾向にあると考えている。

 ただこの世界の人族には元の動物のままの姿に近い人獣種もいるようなので、魔物だということを除けば姿だけで避けられるようなことはない……はずだといいなあと思っている。

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