(8)戦後処理
相手を世界樹の根で縛り付けて動けなくしたあとで眷属たちの火力で倒すという、どこかで見たことがあるパターンになってしまったが、とにかく勝ちは勝ちだ。
それもドラゴンという大物を倒したのだから、実感としてはこれまで以上に喜びが強くなっている。
それは眷属たちも同じようで、珍しくアイも感情を爆発させるように周りの眷属たちとハイタッチなんかをしていた。
ラックはいつも通りに見えるが、鳥種である以上は感情を表にだしてもわかりづらいからというのもあるのだろう。
そして周囲の騒ぎを見ながら勝利を確信するに至ったメッセージを改めて確認してみた。
『初めて公爵級を倒しました。これにより爵位が<公爵>になります。また公爵になったことによりこれまでの領土が公領となります』
『公爵級の討伐により因子が進化しました。ステータス画面でご確認ください』
『各条件を満たしたことにより進化が可能になりました。ステータス画面でご確認ください』
初めて領土を得て侯爵になった時よりは少ないが、それでもそこそこの量のメッセージが流れていた。
公爵級というのはドラゴンの強さを示す階級だと思うが、侯爵が爵位としてあるのなら公爵があってもおかしくはないと思う。
ひとつ気になることがあるとすれば、侯爵から公爵に変わったということはさらにその上である国王があっても不思議はないということだろう。
公爵級を倒すのにも苦労したのだが、これ以上の強さの魔物と考えると頭が痛くなってくる。
とはいえ初めて侯爵になった時にも苦労はしているので、その時に備えてそれぞれが強くなっていくしかない。
公爵位を得たことが領土の拡大によるものだと考えれば、それ以上の爵位を得るためには今まで以上に領土を拡大していかなければならないはずだ。
そう考えると、今すぐに強敵と戦うことになるわけではないということになるのだろう。
それから爵位が公爵になったことにより、これまでの四つの領土がまとめられて<公領(エゾ)>となっていた。
仲間内では世界樹がある島を正式にエゾと呼ぶことにしていたのだが、それがシステム(?)的にも正式名称となったということだろう。
この呼び名が人の世界で認識されているかどうかは、また別問題となるのだが。
どちらにしても今後はエゾと呼んでいくので、いずれはそう認識されていくものだと考えている。
爵位に関しては以上で、続いては因子についてのメッセージになる。
これについてはごく簡単なことで、これまで得ていた因子の名前が見事に変わっていた。
例えば最初に得た<極寒の因子>が<超極寒の因子>になっている。
その字面から考えれば、恐らく<極寒の因子>の上位互換だと思われるが効果についてはきちんと検証してみないと分からない。
その他の三つの因子もそれぞれ「超」がついていたり「高」や「濃」がついていたりしている。
どれもが元の因子の上位互換だとしか思えないので、それぞれ確認する必要はあるだろう。
メッセージの内容とこれまでの経験からどう考えても悪い方に変化するとは思えないので、良い変化だと考えることにしている。
それぞれの因子の効果を一つ一つ確定していくのには時間がかかるかもしれないが、ゆっくりやっていくことにする。
そしていよいよ最後のメッセージだが、ついになのかようやくなのかはともかくとして、次の進化のお知らせになる。
前回の時とは違って今回の進化は自動で行われるわけではなく、こちらがいつ進化をするのか選べるようになっていた。
それもそのはずで、今回は進化するのにある程度の時間がかかると表示されていた。
一度進化しようと選択した時に、時間がかかるというメッセージが出てきたので間違いないのだろう。
どのくらいの時間がかかるのかはわからないが、進化をしないという選択肢はないのである程度の指示を眷属たちに出してから進化をすることにした。
というわけで早速ドラゴン戦の勝利に沸いている眷属たちを集めて、進化についての話をすると早速シルクから質問が飛んできた。
「――どのくらいの時間がかかるのかは、お分かりになるのですか?」
「残念ながらよくわからないかな。年単位にはならないと思いたいけれど……断言はできないな」
「一応の確認ですので気にしません。それよりも進化は変に急がずに時間をかけるべきですわ」
「そうなの?」
「進化についてはそれぞれで違っているので絶対ではありませんが、焦ってもいいことがないのは確かだと思います」
「私もそう思う」
シルクの説明に疑問を提示すると、クインやアイまでもが補足や同意をしてきた。
周囲を見回せば他の眷属たちも同じような顔になっていたので、恐らくその通りなのだろう。
進化に関しては眷属たちの方が多く経験しているので、素直に言うことを聞いておく。
ただし、そうなってくると一つ問題も出てくる。
「できることならこのまま進化しておきたいところだけれど……少し待った方がいいか」
「いえ。出来る限り進化は早くしたほうがよろしいかと思います」
「言いたいことはわかるけれどね。これからドワーフたちが来るから、その時に眠ったままだと困らない?」
「ドワーフを迎え入れる準備はこれまでしてきたので、私たちでも対応できます。それよりも主様の進化を優先していただきたいです」
「それは……あ~。どうやら皆も同じ考えみたいだね」
クインの言葉を聞いて反論しようとしたが、周囲の反応を見て皆が同じ考えだということがわかった。
確かに言われた通り、俺がいなくても大丈夫なように準備をしてきたのは確かだ。
ファーストコンタクトでトップが出向かないのはどうかとも思うが、眷属たちにとっては世界樹の進化のほうが大事らしい。
その理由も分かるだけに、こちらとしても強く反対することはできなかった。
「――そっか。となると進化を優先するとして、問題はどれくらい時間がかかるかわからないところなんだよなあ。特に本体の中にいるときは時間感覚が全くわからなくなるし」
「先ほども言った通り、時間を気にせずに進化に集中されるのがよろしいかと。下手に焦ったところでいい結果を生みません」
「ドワーフについては気にしなくてもいい。何よりも世界樹も進化をすると思わせたほうがいいかもしれません」
「うん? アイ、どういうこと?」
「ご主人様が世界樹の妖精であることは最初から伝えるつもりだったのだから、いっそのこといつでも表に出てこられるわけではないと思わせた方がいい」
「なるほど。そういうことか」
アイが言っているのは、人族のように眠りを必要としてない世界樹だが、今回の進化のように眠りに似た現象が起こる可能性はあると思わせたほうがいいということだ。
もっといってしまえば、それを理由にして必要のない面会であったり対応を断ることもできるようになる。
今後人族との関りが増えていくことが予想されている以上は、そうした言い訳のようなものも用意しておいたほうがいいだろう。
確かにいくら妖精という存在になっているとはいえ四六時中対応するのは面倒なので、アイの言い分にも納得できた。
そもそもここまで考えておいてなんだが、そもそも今回の進化がどれくらいかかるかは分かっていないのだ。
たとえドワーフを迎え入れるときに俺自身がいたとしても、その後の状況によってはいつ進化できるかどうか分からなくなる可能性もある。
であるならば、少しは時間に余裕のある今のうちに進化をしておいたほうがいいという意見も納得できる。
――ということを色々と考えた結果、今回は眷属たちに従ってさっさと進化を済ませておくことになった。




