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第9話・本格派ミートソースのある風景

 「それでどうだった?」

 「どう、とは?お嬢さまにもお友だちらしき方がいて今世紀一番驚きました、とか言えばいーんすか?」

 「今世紀一番て生まれてから最も驚いた、って意味じゃない。あなたわたしをどう見てんのよ」


 ミートソースを絡めたパスタを口に放りこみながら口を尖らせる、という器用な真似をしながら篠は文句を言った。

 今日の夜は簡単にスパゲティ。ただしミートソースは市販の缶詰などではなく麻季がデミグラスソースから仕込んだ、本格的なものだ。

 ちなみに二人は食事は同じタイミングで同じテーブルを挟んでとる。作法だからと麻季は最初遠慮していたが、一人でとる食事に飽いていた篠が割としつこくそーいうことにしたのだ。


 「とは言いましてもねー、学校がひけたら寄り道もせずに帰ってきますし、休日もどこか出かける様子もないですし。それでご友人には不自由してない、とか言われても信じられませんて……ごちそうさまでした」


 もっきゅもっきゅとゆっくり咀嚼する篠と違い、麻季は食べるのは早い方だ。加えて、あくまでも篠に比べれば小食なので、メインのパスタに付け合わせのサラダとスープまでキレイに平らげて、まだ半分近く皿に料理の残っている主が食べ終えるのを、姿勢正しく待つ。


 「…麻季の顔が見たいからずっと家に居る、とか言ったらどうする?」

 「どうもしませんよ。ヒマなひとだなー、って思うくらいですて。それよりお友だちが多いのは悪いことでないので、これからもどしどしお連れしてください。腕によりかけて菓子も作りますんで」

 「麻季は?」

 「はい?」

 「その、麻季は友だちとかいないのかな、って。時々電話してるのは知ってるけど、なんか親しいひとと心温まる会話してる、って風じゃないし」

 「よく見てますねー。使用人のプライベートなんか気にするもんじゃねーですよ」

 「使用人ていうか…同居人の身辺とかなら気になるものじゃない?」

 「あたしはメイドで、お嬢さまはメイドの主です。それでいーんじゃないすか?」

 「ただのメイドを雇ってるつもりじゃないんだけどなあ…」

 「金銭を仲立ちにしてる限り、お嬢さまとあたしはただの雇用関係です。嫁入りした覚えはないんで」

 「うー…」


 もうちょっとこう、遠慮の無い関係になりたい、という愚痴は呑み込んだ。傍から見れば結構遠慮のない関係に見えなくもないのだが、それはさておき。


 「…ま、でも感謝はしてますよ。失業してすぐに、寝泊まりする場所も含めてお世話していただいたことはありがたく思ってますんで。その気持ちの分くらいはせーしんせーいお仕えしますって」

 「だったらもーちょっと手心加えてほしーなー」

 「それとこれは別です。あたしがお嬢さまに厳しくあたるのは、そこそこ恵まれた立場を無駄にせず、ちゃんと社会人になれるように、です。あたしみたいな踏み外した大人にはなって欲しくないんで」

 「別に麻季が踏み外したようには見えないんだけど」

 「そこはほら、余人には理解のむつかしいところなんで」

 「そーいうところも含めて深い関係になりたい」

 「…お嬢さま」


 なんだか甘えた空気になりかけたのを悟ってか、麻季の声は厳しさを増したものになる。


 「どーいうおつもりかは分かりませんけれど、あたしはこれでもメイドって立場にそれなりのプライド持ってます。である以上、お嬢さまとの間に引いた線を踏み越えるつもりはありません。そこんとこ、理解しといてください。あとはよ食べてください。片付きませんので」


 ちらと壁の時計を見上げながら麻季は言った。そろそろ契約してる終業時間になる。別に残業代を支払う約束などはないし麻季もこの仕事でサービス残業にぶーぶー言うつもりもないが、ケジメはつけないと。

 そんな顔のメイドに、主は撤退した方がよさそうだと判断して、フォークとスプーンの回転速度を上げたのだった。




 ちなみに。


 こーいう、篠の方から距離を詰めようという会話は頻繁ではないにしても、流れでそのようになることは何度かあったし、その度に突き放すよーなことを言う麻季ではあるが。


 (ああああああもう、あのひと何考えてんのっ…?!やべーってやべーってば!なんかもう、そーいう可愛いのは外でやってくんねーかなぁっ!)


 決まってその晩は、布団の中でひとり悶えていたりする。

 まこと、プロ意識に富んだメイドではあった。

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