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第8話・やんごとなき事情の一端、みたいな

 「本日は当家にようこそお越し下さいました、鹿角さま。わたくしは当家の家事を取り仕切っております旦椋と申します。どうか今後ともお見知りおきを…」

 「はあ」


 うっすらと微笑なんか浮かべつつ完璧な動作でお辞儀をした麻季を、雇用主はうさんくさいものを見るよーな目付きで、その友人は信じられないものを見るよーな目付きで、それぞれ見ていた。


 「麻季?それがあなたの理想のメイド像だってんなら止めはしないけど、どうせなら普段からそうしているともっと…いたたたっ、何するのよっ?!」

 「お嬢さま。浅居家の令嬢ともあろう方がお客様の前でぞんざいな物言いをするものではありません。この旦椋、お嬢さまの将来と当家の体面のため、全力でその矯正に励む所存ですので、どうかお覚悟を。あとお嬢さまのご所望とあらば普段から斯様に励むことも厭いません。さあ、今から浅居家の令嬢に相応しく振る舞えますよう、不肖旦椋が…」

 「ちょっ、麻季ぃっ?!あなたなんか普段の恨みとかよけーなもの込められているんじゃ……いたいってばっ!!」


 二人で漫才するには充分なスペースの玄関ホールで主のこめかみに梅干し食らわすメイドの姿を見て、主の客たる鹿角万千は「これがメイドというものかー」と明後日の方角の感慨を抱いているのだった。




 「…では改めまして。篠お嬢さまの世話をしている旦椋麻季です。お嬢さまがいつもお世話になってます」


 応接間(女子高生が一人暮らししてる部屋に応接間って何なんだ、と後に万千は言った)に腰掛けた来客を前に、麻季は大分普段に戻ったくだけた調子のアイサツをする。

 普段に戻ったのは、ひとしきり梅干しで悶絶した篠が「普段通りでいいわよ、もう…」と涙目で申しつけたからだ。なお、言質を引き出したメイドの方は涼しい顔をしていて、それが余計に篠の癪に障ったりするのだが、その辺の主従の葛藤に来客の方は気付くこと無く、「あ、しのしののクラスメイトの鹿角ですー。どもども」とか気楽なことを言っていた。


 「ではお茶などお持ちしますので、ごゆっくりお過ごし下さい。お嬢さま、くれぐれもお客様に失礼などないように」

 「…ほっといてよ、もう」


 当てつけがましく言い残したメイドは、万千にも一礼して応接間を出て行く。

 その背中を見送った万千は、早速興味深そうな視線で部屋の中を見回すと、篠にこんなことを言った。


 「…なんかいかにもメイドさん、って感じ?」

 「よそのメイドなんか知らないわよ。あと昔から仕えてるみたいな顔してるけど、まだひと月くらいだからね」

 「貫禄ありますなあ。しのしの、身の回りはだらしないしあーいうしっかりしたひとが側に居ると楽でいーんじゃない?」

 「しっかりしてる、ってねえ…まあ仕事はちゃんとやってくれるけど」

 「どーいうやりとりでメイド雇ったん?」

 「どう、と言われても。ええと、親につけられたお手伝いさんが愛想ないしあからさまにわたしの監視してる、って態度だったから、叩き出してやっぱり不便だったので、雇った。それだけ」

 「それだけて。親は何も言わなかったん?」

 「どうせわたしのことになんか大して興味ないもの、親は。麻季の給料だってわたしが出してるし」

 「え。人一人雇えるってしのしのどんだけ小遣いもらってるの」

 「株とか投資でそれくらいやりくりしてるわよ。将来に備えての貯金だけど」

 「ほええ…」


 自分と同い年でえらい世界観が違うのなー、と呆れたような感心したような声をあげる万千だった。

 と同時に、なんだか実家とはうまいこといってなさそうな境遇に同情もし、さてそれを口にしてもいいものか、と思案しているところに麻季がお茶とお菓子を持って入ってきた。

 万千は、篠の方がどう思っているかはともかく自分としては親近感を覚えつつある二人と一緒に遊んでみたいと思い、お茶を置いて出て行こうとした麻季を呼び止め、客の言うことをきけー、と有無を言わさぬ態度で持ち込んだゲームだかなんだかを三人で始めたのだった。


 「…だからってなんでわたしと麻季の二人にツイスターゲームなんかやらせるのよぅ」

 「文句言う割にしのしの、嬉しそーじゃん」

 「…おじょうさま、その…もうすこし体浮かしてください…胸が顔にあたってます」

 「あっ、ご、ごめん…」


 眼福眼福、とどこかヨコシマな笑みを浮かべた来客だけが得をしてたよーな感はあったが。

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