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第7話・それほどイヤでもなかった、っぽい

 ただのクラスメイトというには接点が少なくなく、友人と言うには少々はばかりがある、そんな微妙な距離感の同級生を迎えるにあたり、髪と眉を金髪に染めたメイドの提案は。


 「え、どんなシチュエーションにすればいいか、ですって?意味わかんないんだけど」

 「そうは言いましてもね、お嬢さま。こう、演出とか要るんじゃないかと。有能で淑やかないかにも家令!…って感じの世話役が迎えるのか、あるいはお手伝いさん風に『あらあら、今すぐ焼き菓子をご用意しますね』とか」

 「…どーでもよくない?」

 「よくはないです。これでも仕事でやってますんで」


 なんか麻季には麻季の矜持みたいなものがあるらしい。

 鹿角万千を迎え入れるにあたり、どういうメイドを演出すればいいのか、指定すればその通りやってくれるのだろうか。


 「…なんでもいいの?」

 「てきとーでなければ。おじょーさまのお話によれば、メイドというものに限定的な憧憬をお持ちの子みたいですし」

 「とは言ってもねー…」


 限定的な憧憬、とは随分迂遠な言い回しだとは思ったが、言い得て妙とも言える。

 まあぶっちゃけ、テーマパークみたいなものだと思えばいいのだろう。

 …というか。


 「…メイド喫茶みたいな感じでも、いい?」


 ここで篠が控え目に申し出たのには理由がある。

 麻季は、前職であるところのメイド喫茶からほとんど追い払われるようにしてクビになったという事情を当人から聞いており、メイド喫茶的なものに忌避感でもあるんじゃないかなー、と思ったからだ。いや、雇用条件の一つとして、雇用主が用意したゴシックロリータ調のエプロンドレスを着用して仕事すること!…などと大上段に申し渡した篠が言えた義理ではないのだが。


 (でも麻季も嫌がらなかったしなー…)


 喜んで、はいなかったが、わりと飄々として篠の言うことに従っていたような気はする。


 「メイド喫茶ですかー…」


 なので、少し難しい顔になる麻季を見て、やってしまったか、などと思わないでもなかった。


 「イヤならいいけど」

 「いえ、別にイヤというわけでは。ただですねー、当節一言でメイド喫茶と言いましてもいろいろ種類がありまして。制服がゴスロリなだけの普通の喫茶店からガチなやつまで。いわゆるコンセプトで客を楽しませる店ですからね。マンガやアニメとコラボしてそれっぽいメニューや内装に仕立てたものも、広義ではメイド喫茶と比較されますし。あー、名前だけソレっぽくしといて中身は業務用食品を解凍しただけの飲食品を提供するクソみてーな店もありますが、あれはいけませんね。内装に凝ったのならまあ分かりますけど、所詮コラボだからってんで長続きしないの前提にして初期投資の資本回収を急ぐあまりコスパなんて単語を持ち出す必要もねーくらい中身スッカスカのうえにバカみてーな値付けの……」

 「ちょっ、ちょっと待って待って!そんな業界丸ごと敵に回すような話聞きたいわけじゃなくて!」

 「いえ別にお嬢さまが業界を敵に回して困ることもねーと思いますけど」

 「……それもそうね」


 なんだか予想外に熱がこもった話をする麻季を、慌てて止める篠である。


 「まあとにかく、ここでメイド喫茶業界を論じても意味ないから、麻季が理想とするメイド、ってやつでいーわよ、とりあえず」

 「とりあえず?」

 「…是非それで」


 投げやりに丸投げしたら、なんだか剣呑な視線を返されて、軽く引く篠だった。

 もしかしてメイド喫茶勤めというのも、生活のためじゃなくて好きでやってたんじゃないだろーか。

 そんな風にも思える。


 「あたしの理想のメイド像、と言いましても、理想のメイドには理想の主が必要なんですが」

 「あーはいはい、なんだかよく分かんないけどわたしにそれをやれっていうんなら、付き合うわよ。それでいい?」

 「おじょーさまがそれでいいなら。ただ、後悔しないでくださいね」


 後悔?何のことだろう。

 …と、引っかかるものが無いでも無かったが、麻季の口振りが淡々としていたことと、ヘンに突っ込んでまたややこしい話になるのが面倒で、篠は適当に相鎚をうってその場を終えた。


 結果、後悔した。

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