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第6話・お嬢さまには割と友達がいない

 「メイドがいる家って、どうなの?」

 「どう、と言われても」


 漠然として答えようがない、と、そのメイドの作った弁当をパクつきながら思う。

 見た目は文句のつけようがないヤンキーなのに、何処で覚えたのか知らないが、煮物に焼き物、汁物は味噌汁ではなくちゃんと出汁をとったお吸い物をポットで用意するという、料亭の仕出し弁当ほどではないにしても、高校生に持たせるレベルからは完璧に逸脱した和食弁当である。

 ついでに言えば焼き物は一部で高級食材扱いされる「のどぐろ」ことアカムツの焼き魚だった。篠も名前くらいは知っていたがこれまで食べたことがなく、「あれむちゃくちゃ高いんすよ?」と文句を言われつつも弁当に入るのがこのひと月で三度目になるほど篠もしつこくリクエストを出すくらいには、気に入ってしまってる。


 「それ、美味しそーだね」

 「やらないわよ」


 黙ってたらこの魚の価値も分からないクラスメイトが箸を突っ込んできそうだ。

 篠は宝ものを抱えるように、弁当をガードするのである。


 「で、話戻すけど」

 「メイドがどうのこうの、って話?ただのお手伝いさんみたいなものだけど」

 「うっそだぁ。しのしの、メイド服着せて喜んでるって聞いたよ?」

 「誰がそんなこと言ったのよ」

 「ほい」


 と、箸で自分を指されてしまっては返す言葉もない。確かに近しい…というかこのクラスの中では会話の成立するクラスメイトの何人かに、浮かれて口走ってしまった気はする。

 ついでに言えば、篠は学力は常に上位で運動もそつなくこなし、おまけに美人でスタイルも良し、割とお金持ちの多いお嬢さま学校でも存在自体は目立つ方なのだが、時に言動が無軌道になるため、体よく遠ざけられている、という立場である。

 そんな中でも昼休みを教室で一緒にするくらいには親しい知人、となるとこの鹿角万千かずみ まちくらいのものだ。

 といっても篠の認識では、住み込みメイドに「おじょーさま、学校でトイレ飯とかしてないでしょーね?」と本気で心配された時に後ろめたさ無しで反論する役には立っている、という程度のものだが。


 「…だからといって興味持つようなことなの?」

 「いやさー、漫画とかであるじゃんよ。学園祭でメイド喫茶とかそーいうの」

 「わたしの読んだことのある漫画には無いわね」


 あと女子高の学園祭でそんなものやって誰が得するのだ、との意を言外に込めて睨みはしたが、学校以外での生活状況が別世界な万千に言ったところで、通用するはずもなく。


 「そういうわけで後学のために、実物を見てみたい」

 「どういうわけよ。あとうちのメイドは見世物じゃない」

 「今メイドっつったね、しのしの」

 「うっ…」


 思わず箸をくわえたまま固まる篠。


 「かわいいメイドさんを独り占めしたいのは分かるけどさー、せっかくお金持ちのお嬢さま学校に通ってんだから、クラスメイトのそーいう生活覗いてみたいと思うのが人情ってもんじゃない?」

 「…そうなの?」

 「ほら、あたしゃ特待生枠の一般入学だからさー、育ちのいい子がどんな暮らししてるのかよく知らないし」

 「ううん…」


 世間知らず…というか捻くれてる割に機微に疎く、妙に素直なところのある篠は、万千の強引極まり無い言いくるめに流されてしまい。


 「メイドさんのいる生活かー。うらやましいなー、しのしのが自慢するくらいなんだからきっとステキなひとなんだろーなー。じゃ、次の日曜ね」


 最終的に、麻季を見せびらかしたいがために墓穴を掘ったことに気がついたのは、家に帰ってからだったりする。




 「日曜にお友だちを呼びたい?別にいーすけど」


 なので、恐る恐る申し出たことをあっさりと承諾されたのは、篠にとっても意外だったりする。


 「あの、麻季?自分から言い出しといてなんだけど、ほんとーにいいの?」

 「いやいいもなにも、おじょーさまのお友だちを接待するのは仕事のうちじゃないすか。つか、あたし前職がメイド喫茶の店員ですんで。前やってたことと大して変わりありませんてば」

 「そーいえばそっか」


 あ、今日の晩ご飯はごよーぼーどおりにラクレットですよー、と抱えるほどのサイズのチーズを冷蔵庫から出してきた麻季は、別にどーってことないみたいな顔をしていた。友だちを呼ぶのがどーってことないのか、女の二人暮らしの部屋でラクレットをリクエストしてその日のうちに用意をしてしまうのがどーってことないのか、どっちにしても篠にはまだまだ謎の多い、メイドなのである。

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