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第1話・お嬢さま、目が覚める

 「おじょーさまー、あさですよー。はやく起きないと遅刻するんじゃないですかー」

 「ん、ん~~~……もう食べられなーい…」

 「昨晩何も食べさせなかったことを当てつけがましく寝言風にいわんでください。つか、はよ起きねーと二食抜きになりますが」

 「…それは困るわね」


 むくりと起き上がった仕える主は、ピンクのネグリジェなどとゆー、今どき珍しいものを着ていた。ただし本人の趣味ではない。本家から送られてきたものを黙って使っているだけである。

 といってそれに不満があるわけでもなく、着るものに対する頓着は、体面を保てればそれでいい、という程度のものなので、余人の目に触れることのない寝間着に拘ることなどあるはずもないのである。


 「おはよう、麻季まき。今日も良い天気ね」

 「見るからにどんよりしてて、今にも雨が降り出しそうなんですが」

 「あらそう?あなたの顔を起きてすぐに見られた歓びはどんな好天にも勝ると思うのだけれど」

 「お世辞なんか言わなくてもちゃんと腕によりをかけた朝飯になってますから。いーからはよ起きて顔洗って着替えてください」


 はぁい、とナイトキャップを外すと、艶やかな黒髪が翻って麻季を「ほぅ」と唸らせる。

 つーか、黙ってにっこり笑ってりゃ完璧な「お嬢さま」だってのに、どうしてこうも言動がズレてんだか、と旦椋麻季は、派手に染めた髪を右手でくしゃっと掻いて、言う。


 「おじょーさま、せめてあたしが部屋から出てから脱いでください。同性だからって慎みってもんが要るでしょーが」


 ベッドの上に立ち上がり、ネグリジェを脱ぎ捨てバックレースのショーツ一枚になった主を呆れたように見上げる。

 身長一五八センチ。出るトコはキッチリ出て引っ込むところも自己主張激しく引っ込んだ、女子高生離れしたみごとなプロポーションである。普段の生活のだらしなさを知ってる麻季からすると、神の不公平を恨まずにはいられないボディだった。


 「いーじゃない、どうせ見てるの麻季だけなんだし」

 「手に入れられないモン見せつけられると軽く殺意が沸くんすよ。ご自分の食事だけカロリー三倍盛りされたくないなら見せつけるのやめてください」

 「…見られてこそ女は磨かれる、って言うでしょ?」

 「女に見られて磨かれるってんならお好きにどうぞ。んじゃ、仕度終わったらとっととリビング来てくださいね」


 投げ捨てられたネグリジェとナイトキャップを拾い、麻季はデッカいベッドが占領する主の寝室を後にした。三人が横になってもまだ余裕のありそうなベッドがあってなお、扉の遠い部屋だった。




 旦椋あさくら麻季まきは、とある事情でこの青葉台に一人暮らしをする、浅居篠あさい しのという見た目はどこに出しても恥ずかしくないお嬢さまの世話を住み込みでしている。

 中古だったとはいえ、新築時は億ションであったろうマンションを娘の一人暮らしのために用意するような家である。住み込みメイドの一人や二人あてがうのは簡単だったろうが、篠は親の用意した「お手伝いさん」を丁重に親元に追い返し、偶然出会っただけの麻季をメイドと見込んで自分の部屋に連れ込み、そしてこの奇妙な共同生活は始まっていた。


 麻季は麻季で、高校を落第ギリギリの成績で卒業し、親とケンカ別れするように地元を去ると知る者もいない東京で職を転々としてはいたが、とある職場をクビになり、路頭に迷っていたところを篠に拾われた、という次第である。

 あからさまに金髪に染めた髪は、眉毛まで同様にするという徹底っぷりと生まれついての碧眼が相まって日本人離れした容貌で(実際、直に会ったことは無いが祖父母の代に北欧某国人の血が混じっているとかなんとか)、篠の裸体を見て妬んだり嫉んだりするほどの容姿ではないのだが、どーもこう、天然でありながら麻季を弄るのを楽しんでいる雇用主を相手にすると、自信とゆーものを維持出来ない関係になってしまっているのだった。


 そんな二人が、初対面で意気投合した理由。それは、雇用条件として提示されたものが、双方にとって魂の契約といってもいいほどの、完璧な合致をみたからである。

 即ち。


 「制服としてゴシックロリータ調のメイド服を支給し、かつ勤務中はその衣装を必ず着用すること」


 という一文に、因る。

 まこと、似たものどーしというべきだった。本人たちがどう思うかは、別として。

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