白薔薇姫はプロポーズ?する
説明回
乙女ゲーム『夢見る君に花束を』。
ヒロイン、アイリは遠い田舎の男爵令嬢。十六となる歳に魔法学園に通うことになる。そこでアイリは様々な貴公子達と恋をするのだ。その持ち前の明るさと優しさで彼らの闇を取り払い、癒していくアイリ。
そしてアイリが聖魔法が使えることがわかり、聖女として祭り上げられ、第二王女となる。
その中で、義姉の立場の第一王女シャルロットはほんのちょい役。ネチネチ嫌味を言ったり、付けているアクセサリーやドレスに文句を言ったり。…やることが地味。とにかく地味。小物感溢れてるよ、王女なのに。
まあ最終的に暴漢を差し向けたやらなんやらでシャルロットは辺境の貴族に嫁ぎましたとさ、ちゃんちゃん♪といった感じでハッピーエンドだ。彼らは幸せに暮らしましたとさ。めでたしめでたし。
…え、もしかして辺境の貴族ってあの釣書の人?ゲームの私あんなに酷いところに嫁ぐの?マジかよ、お断りだわ。
「と、言ってもねぇ…」
机に地図を広げて私は呟く。
横長な四角形の大陸の真ん中、内陸に位置する小さな国がここ、ルーベンス国。小さいながらも歴史は大陸随一。暖かい気候で自然が多く、農耕で発展していった国だ。
その横にあるルーベンス国の二倍くらいありそうな国がイグナシア皇国。海に面しており、縦に細長い。海街で栄えたため漁業が盛んで観光面でもとても豊か。そして隣国皇子…えーっと、ある、アル…?そう、アルフォンソの母国である。
……やばい、名前を忘れかけた。
コホン。それはさておき。
「どうしようかな」
この婚約は国同士の契約。同盟をより強固なものにするためのものだ。だからそうそう簡単に破棄なんて出来ない。ちょっと前まで戦争していたところだし、やっと友好の証として婚約を取り付けたのに。それをほいほい破棄するだの認めるだの、常識が吹っ飛んでいる。
そしてそれを容認する王家も王家だ。私の両親。いくら聖女の能力が欲しいからと言って本人を王女にする必要はないと思う。そこは普通王族と婚約させるとかでしょう。ああ勘弁してほしい。どうして面倒事が増えるんだ。
「まあ、考えは分からなくもないんだけど…」
聖女の能力。
例を挙げるとするなら、絶対壊れない結界、万能の回復術、必ず豊作や降雨を約束する祈り。ざっと考えるだけでもこれだけある。この能力を自国で使うもよし、他国で使って恩を売るもよし。まさに聖女さまさま、というワケ。
ーーただし、これが『シャルロット』をないがしろにしていい理由にはならない。
「…さすがに限度がある」
机を片付けて、置きっ放しだった小瓶を棄てる。
私が部屋で毒を飲んだとき、誰もいなかった。誰も。
軟禁中とはいえ、そして私の専属メイドであるルナが休みだったとはいえ、これはない。いくらなんでもありえない。せめて替のメイドを用意するとかあっただろう。
これが何を意味するか、簡単である。
私、シャルロットは疎まれている。
「大体聖女さま関連なんでしょうけど」
わたしが以前感じた『この国が滅びる』という予感はあながち間違ってない。
ヒロイン、アイリの人気ぶりは狂気的で、いっそ何かの宗教ではないかと思えるほど。その人望と権力はいつか王ですら敵わなくなるかもしれない。そうなったら、国の組織はボロボロだ。
まだ矛先が私に向いている間はいいかもしれないが、私がいなくなったら近い将来この国は彼女のものになる。
……恐怖だ。
現時点で税金を湯水のように使いまくってるのにさらに権力が上がったらどうなるか。考えるのが恐ろしい。実りや幸運をもたらす聖女さまだから周りも強く言えずにどんどん増長していく。
欲しいものが買えないからと重税。貧困者は続出。そんな中ひとり贅沢する聖女さま。
ーー国が滅びる未来しか見えない。
ま、私には関係ないけど。
「仲間集め、しないとなー」
正直国が滅びようがどうでもいい。私は私がしたいことをするだけ。だって、そうでもしないと****から。
…嫌なこと思い出しちゃったな。
とりあえず、売られた喧嘩は即行で高額買取する主義だから手加減はしない。泣き喚こうが騒ごうが、完膚無きまでに叩きのめしてやんよ。
ん?王女なのに柄が悪い?知らないね。
メイドのルナは私に協力してくれる。隣国の両陛下は話してみなければわからないけれど、婚約破棄に簡単に頷かなかったところを見るとこちらに好意的だと思う。味方につけられるとは思ってもいないが、不干渉の権利を勝ち取れれば上々。
あとはーー
「レイリー」
「はい」
扉の向こうから現れたのは、私の護衛騎士であるレイリー。レイリーは部屋の様子を見ると、僅かに顔を歪めた。
「頼みたいことがあるの。紅茶でも飲んで話さない?」
「わかりました、少々お待ち下さい」
レイリーは扉の外の護衛に仕事を代わってもらい、部屋に入ってくる。部屋の中にいても警戒はできるけど、緩まる危険があるかららしい。そういう仕事への真面目さ、かっこいいなあ。
その間に私は棚から紅茶葉の入った瓶を取り出し、ポットに入れる。湯を注ぎ、蒸らしてカップへ。ふわぁっと爽やかな香りが漂う。机に運ばれた紅茶を一口啜り、レイリーはふわりと表情を崩した。
「美味しいです」
「そう、よかった」
レイリー・クラーク。ダークブラウンの髪、薄氷を思わせる鋭い水色の瞳。冷たげで整った顔立ち。年は私より二、三歳上と異例の若さで王女の護衛という立場まで昇り詰めたエリートである。天才と呼ばれるだけあって、剣の腕は王立騎士団長に並ぶほど。ちなみに、とてもよくモテる。
「それで、頼みとは何ですか?」
レイリーが切り出す。低い声。ピリリとした緊張感が走った。
さあ、ここからが本番だ。私の腕の見せ所。多少羞恥心はあるけれど、この方法が一番確実だ。
…先に謝っておく。ごめん、レイリー。
私はあらかじめ置いておいた防音の魔導具を展開する。
「それなんだけど。レイリー、」
にっこりと微笑んだ。
「私と結婚してくださらない?」