月夜は明け光射し
様々な世界へと渡って、何度目か過ぎた。上姉は既に結婚し子供もいて、下姉もお見合い等をしていて話を進めていた。
「コトリはそろそろ結婚とかしないの?」
母がそう聞いてくるが、そもそも相手すらいないのにどうやって結婚しろというのだろうか。
「興味ない」
そう言い放ち、その場を後にする。試しにということで、お見合いをしてみたことはあるが、容姿や家柄が良くてもどうにもピンとこない相手ばかりだった。だが、とりあえず参加だけはしろと言われて参加はしていた。だが、その間に考えることは旅した世界で出会った、ユアンという人物のことだった。
「……また会えるだろうか」
ぼんやりと考えながら、気怠いお見合いパーティーを過ごしていた。
気づけば作業しながら寝ていたようで、あまり思い出したくない過去を夢見ていたようだった。気を取り戻して作業をしようかと伸びをしていたら、ふと部屋の扉がノックされた。
「開いてるよ」
扉の向こうに声をかけると、ユアンが薔薇の花束を持って立っていた。
「コトリに渡すものがある」
手渡されたのは百輪ほどある青い薔薇と、真ん中に一輪咲いた赤い薔薇の花束。おそらく、そういう意味なのだろう。
「俺は、今までも、そしてこれからも、コトリただ一人を愛し、未来に居るかもしれない娘、息子達を、守り続けることをこの場で誓う」
続いた彼の言葉と、箱の中から取り出された指輪。そこには、私の誕生石がはめられていた。
「俺と、これからもずっと一緒に居てほしい。結婚してくれませんか?」
断る理由なんて私には見つからなかった。嬉しくて嬉しくて、気づけば涙が一筋流れていた。
「喜んで」
独りで過ごしてきた私を変えてくれた人。今までは、自分のことは二の次で危ないこともよくしていた。失うことなんて日常で、そのうち自分もいなくなってしまうのだろうと思っていた。だけども、彼と過ごしているうちに、失うこともいなくなってしまうことも怖くなっていた。初めて、本気で失いたくないと思った。それほどまでに、ユアンは私の中で大きくなっていた。
「なぁ、コトリ。今とても幸せだよ。でもきっと、これから先の人生は、今よりもっと幸せなんだろうな。……君が隣にいるから」
「うん。私も幸せだよ、ユアン。これから先も、きっと幸せなんだと思う。……君の隣にいさせてね」
カランカランと近くの教会の鐘が鳴り響いた。真っ暗だと思っていた夜は明け、暖かな光とともに私の心をゆっくりと溶かしていった。