準備
各自寮に戻り、身支度をする。今回の遠征はガセっぽいので合計1週間と少しあれば帰れるだろう。下着や騎士見習いの服、食料を最低限魔法鞄に入れ第一騎士団室に向かう。
ちなみに、フラの森とは国が保有する3つの森の1つである。3つの森があると言っても人が踏み入れられる森は〝フラの森〟と〝パルケの森〟の2つ。あとひとつの森は名前すらついておらず通称〝魔の森〟と呼ばれる森だ。
フラの森とパルケの森は比較的出てくる魔物も弱く、行商人や他の所に行く人達がよく通っている。森を通ると普通の道から行くよりも大分はやく着くからだろう。魔の森は魔物も強く、基本生きては出られないとまで言われている森だ。この森に入る人はまずいないだろう。
大きさとしては魔の森、フラの森、パルケの森の順だ。フラの森はくまなく散策しても3日あれば全て見回ることができる。今回目撃情報があったのはフラの森だがアージェイからは然程遠くないので2~3日もあればフラの森に着けるだろう。
「ソフィアちゃん~!2番のりだね!」
こちらに手を降りながらソファーでくつろいでいるルノーさん。
「ルノーさんお早いんですね」
「いつ呼ばれるかわかんないからいつも魔法鞄に荷物いれてるんだあ」
なるほど賢い。それは盲点だったな。私も日頃からそうしよう。
「頭いいですね…!」
「でしょ…?!」
「おまえら大分馬鹿っぽい発言しかしてないけどな!」
声がした入り口の方を向くとガルゾンさん、デリックさん、ハワードさん、キーランさん、つまり残りの4人が集まっていた。
ふとしたように、デリックさんが口を開く。
「そういやあガルゾン、団長は?」
「あー今回は来ないってよ」
「そうか、じゃあ全員集まったな」
「おうよ」
第一騎士団が呼ばれていても団長は総団長としての仕事もあるため、ガセらしき任務には居ないときもある。今回もそうらしい。
「だ、団長いないとか悲しくてもう無理だ…」
キーランさんがこの世の終わりのような顔で呟く。
この人は最初人付き合いが苦手な人そうだな、と思っていたがその通りだった。ただ、狂信的に団長のことを想っている。獣人のガルゾンさんがフェンリルを想うよりキーランさんは団長のことを想っているだろう。そのくらい重くて怖い崇拝だ。以前団長と話していると背中に鋭い視線を感じたのも多分この人だろう。
「キーラン、団長を失望させちゃダメだよ?」
キラキラとキーランさんを諭す(?)ハワードさん。今日もイケメンスマイルが眩しいです、はい。
「わ、分かってる!だ、団長いなくても後で、ほ、褒めてもらえるもん!」
「そうだぞキーラン!団長は仕事ができる団員が好きなんだー!ガハハ」
「す、好き…!」
先程と打ってかわって顔を真っ赤にしているキーランさん。変な方向に話を持ってくガルゾンさんのせいで真っ青だったり真っ赤になったりしているキーランさん。これ絶対遊んでるよね。
「ガルゾン、そのくらいにしてそろそろ行こー!」
「そうだな!行くか!その前に俺は団長に一言言ってくるわ」
「うんよろしくねー!」
ルノーさんの一声でこの場は収まった。ルノーさんって意外と周り見てるよね、すごい。ガルゾンさんが居なくなった後、キーランさんが「お、俺も一目団長に会いたかった」とかブツブツ言ってるけど気にしたら負けだよね。最近知ったことなんだが、副団長は2人居るらしい。ガルゾンさんともう一人はまだ会えていないが二人いるからか、第一騎士団の副隊長は書類に記載されていなかったので誰も居ないと思っていた。
しばらくするとガルゾンさんが戻ってきた。
「よし行くか!あ、ソフィア!団長からの伝言だ。〝森に行くと面白いことが起こるぞ〟だと」
「な、なんでソフィアだけ…!」
キーランさんから凍てつくような視線が刺さってくる。私悪くなくない?
「どーどー、皆には〝今回も期待している〟だとよ」
「だ、団長が、期待…!」
「いや、いつもと同じだろ」
ガハハと笑うガルゾンさんの横でキーランさんが夢心地な顔をしている。前から思ってたけど、団長が絡むとこの人表情コロコロ変わるなあ…。このやり取りも毎回お馴染みだ。ってそんなことじゃない、面白いことが起こる?なにそれ…?
「どういうことですか?」
「いや、俺も分からんがドラゴンからの伝言らしい」
ディエゴの…?てことは聖女関係かな?まあ、この部屋で考えても埒が明かないか。
「分かりました!早く行きましょう!」
「お、今回はソフィアもやる気だな!俺も早くフェンリルに会いてえぜ!いや、人を攻撃してるなら会いたくねえけど!」
「ほら、もう行くってばー!!」
いい加減痺れを切らしたのか、ルノーさんがガルゾンさんの背中をグイグイ押している。
「わーったって!わりぃな!よし出発だ!」
ようやく、皆でアージェイを出てフラの森へ向かう。
ありがとうございます。




