洗礼の稽古3
「じゃあルールね!まず、使うのは中級魔法のみ!上級なんてつかったらアージェイがどうなるか分からないからね!ただ、初級魔法にすると物足りないんだあ。見るのは魔法の制御力とかだからね!」
「あと、地面から一定以上離れるのは禁止!といっても一定以上離れてるとこの鳥籠が墜落させようとしてくるんだけどねえ。」
…なにそれ怖い。この鳥籠に禁則事項の魔法でもつけているのだろうか。
「普通ならこんなルールいらないけど、ウィリアム団長からソフィアは飛行が使えるって聞いたからね!」
ウィンクをしながら言ってくるルノーさん。ウィリアムさんはいつの間にその情報をルノーさんに教えたのだろう。聖女や今までのことを話したときに飛行の事も話した気がするが、私の前でそのことを教えているのを見ていない。思想魔法だろうか。やはりウィリアムさんは侮れないな…。
「あとは、火と水が得意って言ったから僕もその2つに縛りを入れるね!だからソフィアもその2つしか使っちゃダメだよ?そのほうが楽しそうだし♪そして最後のルールはどちらかが負けって言うまで!言わない場合は続行っていうコトだよ!」
私の得意魔法に自らも縛ると言うのは流石の余裕と言っていいだろう。ただ面白がっているだけかも知れないが。
「分かりました。よろしくお願いします。」
「よし、今からね!よーいどーん!」
その言葉と同時に魔法を展開する。さっきは私のせいであんな試合になってしまったし少しでも挽回しなければ!
ガルゾンさんが言っていたプレッシャーというものは間違いなく私ににかかっているのであった。
「いきます!火炎槍!」
先日ディエゴとの試合で使った魔法だ。しかしディエゴを相手にした時と同じ威力を撃つ訳にも行かないので数はあのときの半分、10の火炎槍だ。私も学んでいないわけではないのだ。とりあえずの様子見というやつである。
けれど、第一騎士団と言うものはやはり凄まじいものだった。ルノーさんは私の魔法を見て自分の魔法も瞬時に展開し、同じ数だけの火炎槍を作ってみせたのだ。
私が火炎槍をルノーさんに放つと同時にルノーさんも同じ数ある火炎槍をそこにぶつける。
辺りには爆発が起こり、煙があがる。
あの速度で同じ威力の火炎槍を作るのは今の私にも無理だろう。
魔法というものはその者の魔力量でいくら魔法を放てるか変わる。
魔法は体に魔力を行き渡らせ、その魔法のことを考え具現化させるモノだ。だからそのときに考えた威力がそのまま現れる。なので同じ魔法でも人によって威力や放てる数が違うのだ。
まあ、勿論魔法ごとによって威力の上限はあるが。
だから先日私が放った上級魔法ー吹雪砲はディエゴの魔法と相殺になるはずが無かった。上限というものはその種族ごとにあるものであり、ドラゴンのディエゴに私の魔法の威力が敵うはずなかったのだ。
そんな私でも、魔法を放つ速度というものは人並である。速度と言うものは私が聖女になったからと言って変わっているものではなかった。速くても遅くても、極力遅くなければ聖女という存在に差し支えないのだからだろう。
それ故、ルノーさんが今した同じ魔法を瞬時にぶつけ相殺するということは私には真似出来ないものであった。ということはアレをされた時点で私に勝ち目はないということだ。
あたりに立ち込める煙の中でその事実に愕然としながらも、これからどうしようかと考えている。私は少しばかり負けず嫌いだったのだ。第一騎士団員に負けるのはしょうがないにしても足掻いて負けたいのである。先程の剣の試合ですぐ線の外に出なかったのもそういう理由からだった。
考えた末、私にある唯一の勝ち目はルノーさんが知らない中級魔法を使うことと言うことだった。しかしこの方法はあまり気乗りしない方法だ。あんなことができるルノーさんが知らない魔法を私が知っているということは希薄だからだ。
なら、どうしよう…。
暫く考えているとまだ立ち込めている煙の中からけたたましく爆音がした。ルノーさんが何か魔法を放ったようだった。
ありがとうございます。




