目覚め
飛行で空を飛んで騎士団の本拠地まで急ぐ。そのまましばらく飛んでいると建物が見えた。フラン騎士団の本拠地、アージェイだ。
少し離れたところで降り、歩いて進んでいく。
飛行はあまり認知されていない。きちんと魔力を操作しないと暴走する危険性があるからだ。
魔法鞄は皆作れるが容量としては小の人が多い。私は人より魔力が多いため今使っている、前に作った物も容量としては大。これに関しては自己申告しなければバレないため、普通に使っている。
そうしてアージェイまで着くと何か騒がしい。何かあったのだろうか。
「こちら第五団、重傷者ニ名!」
「こちら第六団、重傷者四名!魔物はまだ死んでおりません!」
「クソ!ポーションもまるで効きやしねえよ!」
「とりあえず治癒力向上魔法をかけるぞ!」
慌ただしく人がごった返している。ふと視界に赤色が映り、そこに目をやると腕を食い千切られたような人や、片足が膝から下がない人、目を抉られている人達がいた。
酷い、魔物に襲われたのか…?初めて見る惨状にどくん、どくんと心臓の音が頭に響く。
ー否、それだけではない。体中からなにかが抑えきれない。悲しみ、苦しみ、様々な感情が押し寄せてきて私の内側からなにか出ようとしていた。
感情が抑えられず、魔力を暴発させる者も少なくない。私ももしかしたら、このまま魔力暴走をしてしまうかもしれない。そうしたら騎士団になんて入れなくなってしまう。
まずい、とりあえず人の居ないところに避難しよう…!
駆け足で人の居ないところに行き、飛行で空まで行く。ここならもし魔力暴走しても下にいる騎士団の人達に迷惑をかけないだろう。よし、深呼吸…。
徐々に気分を落ち着かせようとするが、まるで効果はない。それどころか、体の方は限界まで来ていた。
私は何も失ってないのに、こんな自分勝手に魔力暴走までして、なんて駄目なんだろう。私に出来る事なら、治してあげたい。けれど、回復魔法のないこの世界ではそんな事はできない。古の時代には回復魔法はあったらしい。けれどいつの日か回復魔法は使えなくなり、治癒力上昇の魔法をかけるか、ポーションでしか直せなくなった。
多少の傷なら治癒力上昇の魔法を掛けるか、ポーションで二~三日で完全に治るが、部分破損はどうすることもできない。
ああ、なんて私は無力なんだろう。
この世の誰にも使うことができないから、勿論私も回復魔法は使えない。それが現実で普通。
けれど、私に回復魔法が使えたら…。人の為に騎士になると言ったのに現実を突きつけられて、一度も思ったことのないことまで頭をよぎった。それに伴うかのように、私の体からは何かが溢れでた。
ーふと、勝手に私の口から知らない単語が零れていた。
「超高領域回復」
ありがとうございます。