第9話 雪解けの心
雪の日の少女と青年の話の続きです。
この話は、謎が多いのですが 詩優と大きく関係している話です。
少しずつ謎を明かしていくので、
秘密を予測して読んでもらえれば、嬉しいです。
凍えるように寒い雪の時の話・・・
青年は少女を家に連れてきた。
部屋は広く 綺麗に整頓されていた 家具もシンプルなものが多い。
部屋の中心に置かれた 白く長いテーブルには 分厚い本が何冊か置かれていた。
そこの近くで黒いソファに座って本を読む青年と
敷き布団で横たわっている少女がいた。
・・・
ペラ ペラ
「・・・」
「・・・?」
少女は目を開け 周りを見渡した。
見慣れない景色に戸惑っていた。
「あ・・・」 少女は上半身だけ起き上がった。
「あの・・・すみません」
本を読んでいる青年に話しかけた。
「ん? ああ 起きたか」
少女は小さく頷いた。
「・・・ここはどこでしょうか?」
「ここ俺ん家で、 なんかお前 死にそーだったから拉致ってきた。」
「死にそー・・・ですか?」
「あんな雪に埋もれ続けたら 普通死ぬぞ?」
「・・・はい」
「お前すげー冷たかったしな。・・・まだ寒いか?」
「あ・・・少し肌寒い・・・です。」
青年は机に本を置いて、立ち上がった。
立ち上がり歩き出した先は、台所だった。
食器棚から コーヒーコップを取り 沸かしていたお湯を
コーヒーカップの中に注いだ。
コポコポ コポコポ
「・・・」
少女はしばらく黙っていた。
青年はお湯の中に ココアの粉と砂糖を入れて、混ぜていた。
「私・・・誘拐されたのですか?」
「ん まあ そーゆーとこだな。」
青年は少女に近づいて
少女の頭に手をぽんと置いた。
「帰れる場所・・・無かったんだろ」
「ここで良ければ 居てもいいからな。」
青年はテーブルにココアを置いた。
「ほら 飲めよ」
「・・・」
少女は俯いた
そして 泣きそうな声で言った
「・・・ないです。」
「ん?」
「帰れる場所・・・ 」
少女は1粒涙を流した。
少女は悲しみを抱えることが出来なかった。
笑っていた事が遠いことのように感じていた。
‘幸せの日々には もう 戻れない,
不安に押しつぶされそうだった。
心が重くて 息が乱れて
自分が自分で無くなる気がした。
少女を見つめながら
青年は 躊躇いなく言った
「だから ここにいればいいだろ?」
少女はそれを必死に反抗しようとした。
『ここに居ていいんだよ。
だって君は選ばれた者だから・・・他のモノとは違う
幸せにここで過ごせばいい。
・・・しかし
ある時期が来て 君が 負けたら・・・』
頭に激痛と痛々しい記憶が 閃光のように思い出された
うう・・・っ
頭に血が昇った
そんな簡単に答えを出さないで欲しかった。
自分の・・・本当の私の価値を知らないから
そんな無責任な事が言えるんだ。
恩を着せようとしているのか
偽善・・・だろう
そんな優しいフリをしたって無駄だ
もう 騙されない
・・・
暖かい布団に毛布
温かいココア
違う 違う
・・・わかってる
わかってるよ
この人は助けてくれた
それに とても優しくしてくれる
だけど 優しさを信じる事が怖い
いつか 落されるのに
・・・
だからって この人を責めるのは・・・愚かな行為
こんなんじゃ駄目・・・だ
―――少女は冷静さを取り戻すように
息を整え 目を見据えた
「でも、迷惑になりますしそれに『俺が ここに連れて来たんだ』
青年の言葉に一瞬戸惑った。
あまりに堂々と喋っていたから
「・・・誘拐したっていったろ 迷惑なんか思ってない」
――青年の言葉は 偽りの言葉や 飾った言葉でなく
今まで聴いたことの無い
・・・なんかよく分かんねえけど
お前が泣くの 見たくなかったし
――本当の心の声
雪に埋もれて死なせたくなかった
笑ってくれればいいと思った
――不器用な優しい言葉
お前に ここにいて欲しい」
青年の真っ直ぐな瞳に
少女は青年が偽りを言ってるとは 思えなかった
・・・
なんで
どうして
なんでそんなに簡単に言ってくれるんだろう
涙が止まって 心が揺れた
少女は驚いて息を呑んだ
自分を見捨てずに助けてくれて
・・・
ここに居てもいい・・・
そんな言葉をかけてくれる人 いなかった
みんな邪魔だって言っていた
私のこと いらないって
・・・そうだよね
いらないよね。こんなモノなんか
最後の存在理由が無くなった時
本当の無価値になったのに
それでも私を拾ってくれた人
その人の為に 何かしてあげたい
いつか捨てられるかもしれないけど
その日まで 何かしたい・・・
あなたに別れを告げるまで
あなたの優しさに甘えてもいいですか
――自分を必要としてくれる人が いること
それが 少女の幸せだった
優しさで心が満たされて
同時に悲しみが溢れてしかたがなかった
その気持ちを抑えきれずに、青年の背中に抱きついた
「??」
青年は驚き戸惑った後に
少し笑った。
「・・・お前 名前は?」
少女はしがみついたまま答えた
「月那・・・朝倉月那」
「ん。 月那・・・か よろしくな。」
ずっと子どもっぽく無かった少女・・・
月那がやっと子どもに見えた
自分に抱きつく姿が、幼くて可愛かった
そして 少女が自分を頼ってくれた
なんか照れくさくて
なんともいえない思いが
青年の心に込み上げて来ていた。
深く心に刺さる
氷の破片
人の心して 溶け 涙になる
読んで下さってありがとうございます。
次回も宜しければ読んでみて下さい。