最終話 幻術士の宴
最終話ですが、番外編を書く予定です。
読んで下さると嬉しいです。
弥夢は走り出す
今まで命を懸けて守ってきた人に
刃を向けるために―――
弥夢は詩優の首に短剣を切りつけようとした。
寸前の所で詩優は、空中へ舞った。
その姿は、いつもの詩優ではなく
幼き頃から鍛えられてきた幻術士の姿だった。
2、3m跳んだ所から
足音もたたないぐらい、綺麗な着地をした。
「弥夢…どうしたの?」
芝生の上に詩優が立ち
構えもせず、隙を出したまま 詩優は話しかけた。
その姿は、いつもの優しい瞳の詩優だった。
弥夢は短刀を構えたまま答えた。
「私には役目がある。…ただ、実行するだけです。」
再び弥夢は詩優に向かい走り出した。
「お前らも行け!」
弥夢がそう言うと、芝生から数えられない数の魔方陣が浮かびだし
魔方陣から、漆黒の髪・紅い瞳の者――魔族が現れた
魔族も詩優に向け襲いかけてきた。
手に武器を持つものもいれば、魔術を唱える者もいた。
軽く50を超える数の魔族いた。
詩優は囲まれた。
詩優は納得したような表情をして
「そっか…ばれちゃったんだ。」
詩優は前を見据えると、厳しく悲しげな瞳で
「闘い…好きじゃないけど、
譲れないものがあるんだ…!」
そう言った瞬間 音速の速さで
幻呪文を唱え、幻陣を空気に描いた。
大幻術の二 +火炎の力+を使った。
幻陣は燃えるように輝き、
幻陣から炎を吐き出しながら、火竜が現れた。
「軽めにお願い!!」
詩優は叫びながら、高く高く跳んだ。
火竜は焼け付くような火花を、周りにまき散らした。
その火花によって、魔族達は目を瞑った。
詩優は空中に浮かびながら
大幻術の三+氷水の力+を使った。
美しい人魚が現れ、大量の水を草に撒いた。
草をできるだけ燃やさないようにするための
詩優の配慮だった。
「なんなんだ!!あいつは!」
魔族は詩優を憎しみの瞳で睨むと
再び詩優に向かい襲い掛かってきた。
詩優は湿った草の上に着地し、
跳んでくる、数えきれない 火の玉・電気の玉を避けた。
時には素手で跳ね返しながら、詩優は前方にいる魔族に近づいた。
前にいる魔族の武器を目掛けながら 武器の持ち手を蹴り飛ばした。
魔族の武器は詩優の正確な蹴りによって
芝生の上に落ちていった。
「火竜!!武器を燃やして!」
火竜は灼熱の炎で武器を燃やした。
「水もお願い!」
人魚は冷たい大量の水を、燃えている草に向け撒いた。
その瞬間、詩優は背後を取られた。
振り向くと同時に詩優は倒れた。
そこには紅い瞳 漆黒の短い綺麗な髪
着物のような服を身にまとい
白と黒のブレスレットをつけた
・・・
ずっと一緒に旅してきた
友達
――弥夢がいた。
弥夢は倒れた詩優の上に覆いかぶさるようにして
詩優の首に短刀を突きつけていた。
「覚悟…して下さい。」
冷たい瞳で詩優を見る。
それは旅をしてきた中で見たことのない瞳。
首にナイフを突きつけられても、怖気づく事もなく
詩優は紅い瞳をじっと見つめた。
「ごめん…」
その言葉を聞き、やっと諦めたかと弥夢は思った。
幻術士といえど、大勢の魔族には敵わなかったか。と
心の中で悟った。
ここまでか
・・・
こんなもんなのか
・・・
あっけないな
・・・
大勢で卑怯かもしれないが
これも目的の為
・・・
「魔族って事…気付いてあげられなくて ごめんね」
―――え
詩優は涙を零した。
「ずっと我慢してたんだよね…」
「悩み…独りで抱えていたんだよね」
「私と旅なんかしたくなかったのに 付き合わせちゃってごめんね」
・・・
・・・違う
違う 違う 違う 違う 違う 違う 違う 違う 違う
「違う!」
「私は詩優様を守りたいだけだ!!」
「本当はこんな手荒な真似したくない…」
「なんで言ってくれなかったんだ!!
一番の友達って言ってくれてたのに…」
「悲しいよ・・・話して欲しかった…」
「旅の最後は死んでしまう事…」
弥夢も涙を流した。
その姿を見て、詩優は微笑んで言った。
―――私が幻術士として生きてきたのは
1人の女の子を助けたかったの
その子は私の大切な人の子供だったから…
でも、その子と私…一緒に生まれてくるはずだったのに
その子を私は追い出して生まれてきた。
その子ね幻術士として生まれるのが恐いっていうから
私が独りでも 幻術士として生きていこう って思ったの
正式にいうと 私は死ぬのではなくて 幻師になるの
そうすると この体は空く訳で・・・
そしたら夢ちゃんにね この体を返そうと思ったの
夢ちゃんには、もう幻術士としてでなく
雪斗さんと優歌さんの愛する子供として
生きて欲しかったの
でも、夢ちゃん今まで生きていないと思ったから
急に16歳の女の子として生きていくの 大変だろうなって思ったの
―詩優はリュックから本を出す
だからね この魔本書に私の記憶を残しておいたの
この本をよめば 生まれたときからの私の記憶が分かるから
生きていくのに困らないかな。
それに 夢ちゃん寂しくないしな。と思ったの
でも、必要無いみたい・・・
「え…?」
―詩優は本を弥夢に渡した。
夢ちゃんはこの体が空くのを待っていたんじゃなくて
生まれてきてくれたの
それにね。今まで私を守ってきてくれてたの。
一緒に旅に出たしね 護衛守術士として 守ってくれてたの
『夢ちゃんは弥夢だったんだよ』
弥夢が夢ちゃんだって気付いたのは
うさぎさんの村でお土産としてもらった
白い箱の中の手紙に書いてあったの
シェルアが教えてくれたの
でも 一応渡しておくね
「行かないで!!」
弥夢は詩優を掴んだ。
…そう言うと思ったから言わなかったんだよ
「私が詩優様を襲ったのは
幻術を封印するためだったから…」
「そうすれば、魔族も滅びないし
詩優様も死ななくてすむと思ったから…」
弥夢が本気で私を殺そうなんて思ってないぐらい 分かってたよ
「私のせいで詩優様を殺すことなんて
できない…できません!」
…そんなことないよ。
夢ちゃんは弥夢としてずっと
ずーっと守ってきてくれてたもん! 充分だよ。
「いやです!!絶対詩優様を守ると決めたんです!」
私は幻師として…永遠の契約の仲間として
新しく生きるの。瑠雨も空もみんないい人だったでしょ?
もう お別れだね
弥夢は詩優を強く掴んだ。
「離さない・・・です。」
大幻術の一+樹木の力+
妖精が現れ 睡眠の粉を振りまく・・・
「…!!」
「嫌!いや・・・はなさないっ」
「ううつ・・・」
―弥夢の力が弱まっていく
―魔族たちも睡眠の粉により倒れていく
―弥夢に映るのは、ぼんやりとしたした景色
―涙を流し、瞳を閉じた
詩優は立ち上がった
【幻術士・詩優は5つの力
樹木の力 水流の力 火炎の力 暗黒の力 疾風の力を
力源とし、我の力を放出する】
【願いは…魔族と人が共存できる世界】
―雪斗さんと優歌さんによろしくね―
シヤアアアアアンンン
眩い光が世界を包んだ
********
・・・
やっと終わったんだね
ちょっと疲れちゃった
休んでいいかな・・・
「優・・・お疲れ様」
「頑張ったね…詩優。」
「次の幻術士が来るまで、時間はあるからゆっくり休めよ。」
「その日まで、遊びに行っちゃえ♪」
「今度は幻師として よろしくな!!」
永遠の契約・・・
うん!お言葉に甘えて遊んできます!
私は走り出す
「お疲れ 月那。 」
「シェルア! 久しぶり!!」
「やっと シェルアとの約束守れるね!」
私の旅は始まる
幻術士としてではなく
シェルアと一緒に
雫雨華を探す旅へ
読んで下さってありがとうございます!!
まだ作者自身も謎な部分や書き残した所
弥夢のその後などを書きたいと思います。
感想がありましたら宜しくお願いします。^^