第13話 月那と詩優
雪斗さんの結婚式が来る。
その日まで 私はただ生きてきた。
植物のように
ただ 存在していた。
雪斗さんが幸せになれるなら
何だって応援したい。
だから
これから何だって努力する
どんな苦痛だって耐えてみせる
そう思っても
決心しても
体は動かない
恐くてしかたがない
あの日から
ほとんど
食べていない 寝ていない
もう 体がもたないかもしれない
涙がとまらない
・・・
はやく元気になって 笑顔で
「おめでとうございます。」って言いたいのに
・・・本当だよ
心から幸せを願っているんだ
優歌さんと幸せになって下さい。
優歌さん 綺麗で優しいから・・・
優歌さんと話しているときの
雪斗さんの笑顔 見れるの嬉しいから。
雪斗さんが紹介して
優歌さんに始めて会った時
天使みたいな人だって思った。
そこで、ただ立ち尽くしている
無愛想な私に
――月那ちゃん初めまして。
私は朝倉優歌と申します。
月那ちゃんと雪斗さんと私で
暮らせる日を楽しみにしてます。
月那ちゃんと仲良くしたいです。
これから宜しくね。――
天使みたいな笑顔だった。
私を1人の人間として見てくれていた事が
嬉しかった。
昔の闘いの相手とか
本当の姉妹とか
関係なく
ただ
素敵な人だなって思ったんだ。
でも 知らなくて良かった
優歌さんは覚えていないんだ
私の事・・・
――闘いの相手
――本当の妹
知らなかったのが
救いだった。
でも 優歌さんなら
打ち明けてもいいかもしれないって
思ったよ。
そう
私は捨てられなかった
2人とも
一緒に暮らそうって
言ってくれた。
嬉しさの涙が止まらなかった。
嬉しくて嬉しくて
気持ちが溢れていって
何もしなくても
ただ ただ
涙も
声も
全部溢れて
震えが止まらないくらい
心が叫ぶくらい
生きている事を忘れてしまうくらい
生きていて良かったって
心から思った。
2人とも私に居場所をくれた。
とても
とても
みんなで過ごす日々は
暖かく幸せな居場所だった。
――
闇月 6日 くもり
2人の間に子どもが出来たそうです!
名前みんなで考えています。
もちろんシェルアも。
楽しみだな。 会える日が。
でもね
2人の間に子どもができるから
今みたいな幸せ続かないのかもって
思ってたら。
雪斗さんが励ましてくれた。
すごい。
雪斗さんにはなんでも分かるんだなぁ・・・
嬉しかった。 ありがとう雪斗さん。
闇月 10日 はれ後くもり
名前は夢ちゃん だそうです。
雪斗さんが決め、優歌さんが賛成しました。
――たくさん夢がある子に育ってほしい。――
夢がたくさんあると 人生楽しいだろ。(雪斗さん談)
その後 雪斗さんが
「シェルアも言ってたしな。」
と ぼそって言ってました。
・・・え!? そうだったのですか!
闇月 12日 晴れ
ビックリニュースです!!
シェルアの声が聞こえるようになったのです。
第1声は
「おはよー♪月那」 でした!
すごいです! 可愛いです!!
雪斗さん言ったら
「へー。良かったじゃん。」
雪斗さんらしい反応でした!
闇月 15日 晴れ
最近は雪斗さんの代わりに
学校で働いています。(雪斗さんは小学校の教師でした。)
お掃除したり 給食作るお手伝いしたり・・・
同い年の子とちょっとしゃべれました。
恥ずかしかったけど、楽しかったな。
闇月 17日 雨
雪斗さんは街長になるための勉強をしてます。
「優歌1人に負担かけられない。」からだそうです。
それに、学校の教師もちゃんと続けています。
無理しないでほしいな。
優歌さんも街長として立派に働いています!
優歌さんは綺麗で優しいだけでなくて
かっこいいです。憧れです!!
なので家事全般 私が担当です。
家事楽しいです!
「シェルアが掃除しますです。手伝うです。」
シェルア可愛いー/// お手伝いありがとです!
闇月24日 快晴
今日はシェルアと本を一緒に読みました。
その物語は、悲しい物語でした。
雫雨華という花をさがす物語でした。
―――雫雨華―――
花を見つければ願いを叶えてくれる・・・幻の花*雫雨華*
ある人は お金持ちにして欲しいと頼み
ある人は 宝石が欲しいと頼んだ。
ある少女は雫雨華を見つけて、
自分の望みを叶えるより
摘み取られる花が可哀想だと思い
その1つの花を守り、育てました。
ずっとずっと守りました。
しかし、花をみつけた たくさんの人間は
その花を巡って争いました。
たくさんの血が流れました。
少女はその花を命を懸けて
たった一人で守りました。
けれど、少女は力尽きてしまいました。
それと同時に花も枯れました。
もう 雫雨華はこの悲しい大地には
芽生えなくなりました。
―――――――
その時シェルアと約束したの。
いつか少女の代わりに 雫雨華を見つけて 育てて 守って
花畑を作れたらいいね。って話をしました。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
夜
――声が聞こえたの
夢の中で
『・・・こわい ・・・こわいよ』
・・・?
誰・・・ですか?
―私は夢なの。みんなの夢―
夢・・・
夢ちゃんなの?
―うん・・・―
寂しい 恐いって言ってた。
泣いてた。
「どうして?」って聞いてみたら
泣きながら
――私は『幻術士』として生まれてくる。
みんなの期待 恐いの。 不安なの。
消えたい 消えたい――
光は小さくなって
消えていった。
「 駄目!!」
私は消えそうな光を掴んだ。
この光は手放したくなかった。絶対。
この光を失ったら
優歌さんも雪斗さんも悲しむ。
もちろんシェルアも私も悲しい。
「みんなが夢ちゃんを待ってるよ。」
―・・・。―
―独りで生きるの恐い・・・―
「そっか・・・そうだよね。」
―恐いよ。独りぼっちなの―
うん・・・。
分かった
「・・・私も」
「夢ちゃんと一緒に生まれてくるよ。」
―え?―
「この光にね。わたしの魂を溶かすの。」
「そうすると私と夢ちゃんが1つになるの。」
「一緒だったら寂しくないよ。 ね。」
―いいの?―
うん! 私で良ければ!
―・・・。―
―ありが・・・とう―
後悔してないよ。
約束守るよ。
そして私の体は冷たくなり
永遠の眠りについた。
ばいばい。
みんな。
――今まで本当にありがとう――
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
朝 夢は覚め
「幻術士・・・?」
「夢は幻術士として生まれてくるのか?」
「そう・・・みたい。」
「幻師様に夢で言われたの・・・。」
雪斗は呆然として
優歌は泣いていた。
まさか自分の子どもが幻術士になるとは
思わなかっただろう。
幻術士は悲しい運命を辿る者だから。
運命 宿命 神の意志
逃れられないものだから
悲しい現実の後。
2人に追い討ちする出来事。
月那の死。
2人は心が潰れそうだった。
冷たくなった月那の隣にシェルアがいた。
シェルアだけは 泣かずに次の出会いを待っていた。
また会えると分かっていたから。
月那の死
月那は月那が思っているよりも
優歌や雪斗にとって
大きい存在だった
人見知りをするけど
純粋で
不器用だけど
何事にも一生懸命で
大きな傷を抱えても
涙を隠して
いつも笑っていて
あの子の笑顔に何度
癒されただろう
助けられただろう
幸せになれただろう
・・・
その後
月明かりを無くした 2人は
夜を彷徨うように 生きていった
幸せな時間
遠く
遠くへと
儚く消えてしまった
雪斗の
笑顔は消え
優歌は絶望に堕ち
人が変わっていった
「あのね雪斗。駄目だと思うの・・・っ」
「・・・何が?」
「お腹にいるこの子は、夢を追いかけてはいけないと
思うの。」
「・・・」
「 だって私達はずっと幻術士にたよっていた。
幻術士がいるから、今まで私達は平和に生きてきた。
それを当たり前だって思ってた。
・・・卑怯だよね。
なのに、この子が自分の夢を見つけてしまったら・・・
誰がこの世界を救うと思う?
この子しかいないんだよ・・・っ この世に1人しか・・・
この世界を救えるのは・・・!!」
「・・・」
「違うんじゃないか?」
「みんながこの世界を救えるように
協力するものなんじゃないか?」
「俺達は今までどうりに夢を迎えるべきだと思う。」
「でも・・・この子だけが苦しむ事になるのに・・・?」
「・・・だから俺達ができる事は全て 夢にしてあげよう。
俺達も夢に全て捧げよう。」
「優歌 これから頑張ればいいんだ。」
「夢の存在 否定すんなよ。」
「・・・。」
「・・・うん。分かった。
・・・でも決別つけていいかな。」
「 ? 」
名前を変えたいの
この子は夢を追いかける子ではなく
人を守るために死を懸けて優先する子
―――‘死,を‘優,先する子―――
死優
詩優という名前にしたいの―――
読んで下さってありがとうございます。
最終回ももう少しだと思います。
次回も宜しかったら読んでください。