第10話 闇のカケラ
旅物語です。
痛さと同時に思い出された記憶
全てが始まる前の記憶
<詩優>
そう・・・だったよね
私 独りじゃなかったね
みんな 傍に居てくれてたよね
へこたれてたよね 私
ごめんね みんな
もう 本当に大丈夫
負けたりしないよ
みんながいるから 頑張れるよ
―――
漆黒城の中
黒い大理石の床に 詩優は倒れていた
「大丈夫?」
目の前には 金髪の少年
手を差し伸べた
詩優は少年の瞳を見つめた。
「ありがとうございます 幻師様」
手をとって 起き上がる
少年は くすくすと笑って
「やっと 思い出してくれたのにそれはないよね 」
詩優もふっと笑った。
「今までどうりの呼び名でいいよ。」
少年は言った。
詩優は頷いて言った。
「・・・久しぶり瑠雨」
2人は出会った
停まった時間は動き出した
永遠の契約の再開だった
永い永い時が経ち 詩優の記憶は薄れていったが
再び記憶を取り戻した。
少年・・・瑠雨は喋り出した。
「それにしてもさ いい子に出会ったよね。」
「?」
詩優は不思議そうに 首を傾げた。
「あの黒髪の子だよ」
詩優は 謎が解けて
「あ! 弥夢の事ですか」
「うん。 へー・・・弥夢っていうんだ。」
少年はにっと笑って
「すごいよ あの子12歳なのに・・・
いや 大人だとしても 驚くぐらい能力が高い
一番可笑しいのは 守術士なのに
魔術の方が相当凄いよ。」
瑠雨は暗い瞳で
「君にも言えない何かを 隠してるんだよ」
城の中の空気が凍りついた。
詩優は悲しそうな表情で言った
「そう・・・ですか」
「でも 何よりも君を信じて
守ろうとしてる。
・・・いい友達に会えたね。」
瑠雨の言葉に詩優は大きく頷いた。
そして満面の笑みを浮かべた。
「あの子もここに呼ぼうか。」
一瞬の内にして、床に大きな幻陣を描いた。
その幻陣から黒い光が浮かびだして
弥夢が現れた。
「・・・」
弥夢は瞑っていた目を開けた。
綺麗な紅の瞳だった。
瑠雨は一礼して
「初めまして 弥夢」
弥夢は凛とした声で
「幻師様・・・初めまして
幻術士の護衛役になりました
護衛守術士の弥夢と申します。」
瑠雨は笑って言った。
「ご丁寧にありがとう。
でもここでは 習った作法をしなくて良い。
君は君らしくしてくれれば良い。
他の幻師もそれを望んでいる。」
瑠雨は 見た目に似合わない
大人びた声で言った。
弥夢は戸惑いながら言った。
「・・・いいのでしょうか」
瑠雨は頷き
「君たちが教えられた作法は
僕等が考えたものではない。 僕らが人に伝えたのは
僕等が本当に存在している事を伝えたかったんだ。
そうしないと幻術士は会いにこなかったからね。
でも人は、僕らを師といい。崇めたてている
幻術士と僕達は 仲間・・・友達だ。」
瑠雨は手を差し伸べて
「君も もちろん友達だよ。弥夢」
瑠雨の深い言葉を聴いた弥夢は
その言葉を信じ
弥夢も手を伸ばした。
「・・・よろしく 瑠雨さん」
同い年ぐらいの姿の2人だが
2人とも見かけよりもずっと大人びていた。
瑠雨は にっと笑って 弥夢の耳のそばで囁いた。
(その綺麗な紅い瞳・・・隠さないとばれちゃうよ)
弥夢は はっとなって 紅い瞳を暗い赤の瞳に戻した。
「あ あり・・・がと」
弥夢は気付かれている事を不安に思った。
不安と共に瑠雨に恐怖を抱いた。
「どういたしまして」
そんな感情を思われているにも関わらず
瑠雨は屈託の無い笑顔を見せた。
瑠雨は急に詩優に目を向けて
「優に僕の力あげるよ」
と言って 手招きした。
「あ うん。」
詩優と瑠雨は手を重ねた。
瑠雨の手には血が通っていなかった。
「僕が幻術士だった頃は死神のような子どもと呼ばれてたよ。」
「・・・」
「優は使わないと思うけど 旅には必要だからね。
大幻術の四 +暗黒の力+ を渡すよ。 全てを消せる力・・・」
「永遠の契約者が揃った時 また会おう。」
瑠雨は少しずつ黒い影となって薄れていった。
「うん・・・またね」
詩優は名残惜しく呟いた。
【弥夢 バイバイ】
弥夢は影を見つめて言った。
「はい・・・さようなら。」
残影は残らず消えた。
・・・
弥夢は悲しみを感じていた。
2人目の友達だったから
それに 同じ闇を抱えていた者だったから
お互い感じていた
自分に近い存在で 惹かれあっていた。
でも 弥夢はもう会えないと悟った。
彼は永遠の契約だ
似ているが違う存在・・・
彼の言葉を思い返していた。
会えないと悟った理由
またね と バイバイ の違い
ただそれだけなのに なぜか 深く遠く感じた。
心からの悲しみは溢れたが
瞳に涙は無かった。
涙はもう 流さないと決めたから
・・・
心を通わした者よ
馴れ合いは要らない
傍に居なくてもいい
ただお互いを忘れないければいい
その記憶も留めなくていい
在った事が分かればいい
記憶の象徴 ただ在りつづける
形となりて
・・・
弥夢の腕には
詩優からもらった 白い光のブレスレットと
黒い十字架のアクセサリーがついていた。
読んで下さってありがとうございます。
次回は詩優の過去と関係する兎が出ます。
宜しければ見てください。