神様のちょっとした遊戯
そうして四人が順に話終える頃、いつの間にかお菓子は四人のお腹のなかに収まっていた。
お菓子も食べきってしまうと、神様からのメッセージが届きます。
『今日は美味しいお話をありがとう。椅子から立てば、夢から覚めます』
「まぁ、あたしも楽しかったわ。あんまり自分のことって話す機会ないし」
「そうだな。私もなかなかに有意義な時間であった」
「私もよ。これが流行りの女子会なのね」
梨香とレーリィンと明は口々に良かったと感想を述べるけれど、一人、ニカだけがご不満な様子で肩を落としていた。
「私……これからフィルとどういう顔して会えばいいのよ……」
ぼそりと呟くと、梨香が不敵に笑った。
「気にしない方がいいわ。だってこれは夢なんだもの。ね、神様? どうせ起きたら忘れちゃうんでしょう?」
「本当に?」
恨みがましそうに見るニカに向けて、文字が現れる。
『ここは夢の世界。起きたら綺麗さっぱり忘れてしまう。だって、夢の世界が現実に干渉してはいけないから』
メッセージを受け取ったニカは「そう……なの」と多少不満は残しながら納得する。
そう、これは夢なのです。
恋する乙女たちの、ささやかな夢なのです。
さて……夢の時間が過ぎるのは早い。
もうすでに現実は朝を迎えるけれど、そろそろ起きなくていいのかな?
神様は優しいので、その旨を伝えてあげましょう。
ぴこんと文字が映し出されると、皆慌てて立ち上がる。
「あらいけない、学校行かないと」
「む、またバトラー君に寝込みを襲われてしまうではないか」
「あ、朝御飯つくらなきゃっ」
「うーん、もう少しお話ししていたかったけれど」
一人、物足りなさそうな子がいるけれど、それはそれ、これはこれ。
皆が一斉に立ち上がれば、全身がほのかな粒子になって消えていく。
梨香が後ろ手にひらひらと手を振ると、レーリィンはドレスの裾をつまみ優雅な礼を取り、ニカがはにかみながらお辞儀をする。明が最後、微笑んで皆を見送る。
粒子はやがて、それぞれの触媒となる。
結姫梨香は、生涯をかけてその白紙のページを付喪神に埋めてもらうための『翡翠の和綴じの冊子』に。
レーリィンは、バトラー君と呼ぶ彼が大切に持つ魔法道具の『銀色の宝珠』に。
ニカ・フラメルは、自身が前世から愛用する『氷でできた杖』に。
珀明は、渡りの華と謳われるその身を象徴する『深紅の華』に。
それぞれが各々の大事なものになる。
神様はそっとそれを回収して、物語の一頁にそっと戻した。
神様が紡ぐ物語から喚んだ彼女たち。
終わってしまった子も、これからの子も、きっと素敵な恋をする。
どうしてそれが分かるかって?
なぜなら私が神様だからさ!
fin.