結姫梨香のお話
「良いものを見せてもらったわ。次は私でどう?」
ふふ、と不敵に結姫梨香が笑った。
三人が彼女を見る。
「と、言っても……あたし自身、恋をしているのかは分からないんだけど」
そういった瞬間、ホログラムの映像が切り替わる。
少しだけ日焼けした手。土で埃っぽくなってしまっている制服。真っ白な寝癖だらけの髪。そして鋭い幻術世界の日本刀を持った男子が、座り込んで泣いていた梨香の横に立っていた。
梨香が目を丸くする。
「あら……意外。彼らがでるのね」
「これが貴女の彼氏さんですか?」
ニカが不思議そうに見る。
「彼氏……ではないわ。別に付き合っていないもの。でもそうね……二人とも私にとって大好きな人たちよ」
「二人? 一人しかおらんが」
レーリィンがさらに首をかしげた。
梨香は少し困ったように説明する。
「元々二人だったのよ。それがちょっと諸事情で混ざっちゃったの。蛍野くんっていうあたしの後輩……知り合いに、白世っていう妖怪がとりついた姿よ」
「妖怪! すごいわ! まるでお伽噺のようね!」
明が興奮する。妖怪という言葉が耳慣れないのか、レーリィンとニカが目を合わせた。
梨香が付け足すように説明する。
「二人の世界には魔法とか、魔術っていうのは存在するかしら?」
「うむ、分かるぞ。バトラー君が使うからな」
「私も魔法使えるし」
二人の方がよっぽどお伽噺の十人ね、と梨香が笑う。
「魔法とか魔術を使う源……魔力を持った人ならざる存在っていうのは理解できる?」
「あっ、精霊みたいなもの?」
「そうそう。それに似たようなものと思ってもらえれば良いわ」
「ふむ……聖霊か……」
ニカとレーリィンの間には微妙な差がある理解が生まれたが、とりあえず理解してもらえたようで何よりだ。
映像が切り替わる。
梨香が彼の額にキスをした。すると途端に彼の頬が赤く色づく。
「あら。やることはやってるじゃない」
「やましいことじゃないわよ。所有の術をかけただけ」
明の言葉に、梨香が余裕をもって返す。
三人がにやにやと笑った。
「所有か」
「所有なのね」
「梨香さんってば大胆ね~」
「だからやましいことじゃないってば。これしないと、彼を巻き込んで術が発動しちゃうのよ。それをしないための所有の術よ」
「……」
魔法を使わないレーリィンと明はピンと来ていないようだけれど、唯一魔法を自身で扱えるニカがその意味に気がついたようで顔をしかめた。
「そんな大きな魔法……術を使ったって、相当やばい場面ってことですか?」
「そういうこと。ま、この状況下、あの変態妖怪だけそういうことで喜んでいるのだけれど」
梨香が少しだけ遠い目になる。
例え敵対していようと、味方になろうと、転生しようと、合体しようと、白世は全身で、言葉で、「僕の愛しい人」と梨香を呼ぶ。
でも、梨香は三人にはそのことを話さない。
それは梨香の恋の話ではないからと思っているのだろうけれど。
でも神様は知っているのです。
このホログラムはその人が愛する人を映すもの。
蛍野くんだけではなく、白世と一緒の姿が映し出されていたということは、梨香は二人を引っくるめて愛しているということなのです。