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学院生活の始まり

「アイリス、行くぞ」


 私の目の前にいるのは、目を細めて顔を引きつらせているルディアス様。その顔がとても恐くて、ばれないように距離を置いた。

 昨日は彼に寮まで引きずられて、『明日も迎えに行く』と告げられた。

 ルディアス様と別れて寮へ戻ってからも、皆に迷惑をかけてしまったことを私はずっと考えていた。でも、せっかくルディアス様が補佐についてくれたんだ。せめて明日からは、と気持ちを切り替えて早めに寝付いた。


 今だって内心は怖い気持ちが大きいけど、わざわざ迎えに来てくれたのだからと思い彼を見る。胸元のクリスタルの感触を確かめながら勇気をもらう。


「お、おはようございます……ルディアス様」


 言葉の途中で俯いてしまった私の頭上で、彼の溜め息が聞こえたような気がした――。



◇◆◇



「ルディアス様、その……」

「何だ?」


 私はまた、昨日のようにルディアス様に引きずられていた。


 ――授業へ向かうのに手を繋ぐ必要はあるのかな?


 そう思ったけど、結局言い出せなかった。

 何も会話がない空気が怖くて、左手で胸元に触れる。いつもなら少しは落ち着くはずなのに、全然治らない動悸に余計に不安を感じてしまう。



 部屋と部屋をつなぐ回廊には、時折キラキラと淡い光がまじっていた。気を紛らわすために、点々と現れる光を数えていく。

 しばらく歩いていると、繋いでいる手を急に引っ張られて彼の胸に引き寄せられた。


「ぶつかるぞ」

「ご、ごめんなさい」


 突然のことにビックリして反射的に謝ってしまったが、どうやら柱にぶつかるところだったみたいだ。


 子供のようなことをしてしまった、と恥ずかしくて頬が熱くなった。彼の腕の中で「ありがとうございます」と告げると「前を見ろ」と叱られてしまった。

 それからは前を見て歩くようにした。ルディアス様とは手を繋いだままだったけど、先程みたいに速くないからか歩きやすかった。


「着いた。ここが魔法の実技訓練の場だ」


 ルディアス様に案内していただいたのは、赤や青、緑で塗られた扉の前だった。通路を挟んで白や紫に塗られている扉もある。

 扉の近くには女王様がいて、シリウス様と何か話している様子だった。こちらに気づいた女王様は、笑顔で「おはよう、アイリス。……あら、ルディアスも」と声をかけてくれる。


「おはようございます。女王様、シリウス様」

「良いところに来たわね。今、シリウスに話していたのよ、貴方のこと」


 もしかしたら、昨日の失敗の話かもしれない。

そう思った途端、動悸が急に激しくなる。息が苦しくて、胸元を押さえると少しは楽になった気がした。

私が話の続きを待っていると、シリウス様が続けてくれる。


「まだ貴方はどの属性が得意なのか、わからない状態です。なので、女王様は一日に一つずつ教室を回り、授業を体験してみたらどうかとおっしゃっています」

「そうなの。良い案だと思わない? 授業は属性毎に部屋が分かれているから、ちょうどいいかと思って」


 その言葉を聞いて驚いてしまった。私は皆に迷惑をかけたのに、女王様は私のことを考えてくれていたんだ。それなのに、私はルディアス様以外には呆れられてしまったんだと思い込んでしまっていた。


「……機会を与えて頂いてよろしいんですか?」

「もちろんよ。ここは生徒が魔法を学ぶ場所なのだから、二年間しっかりと励みなさい」

「は、はい! 女王様」


 女王様の言葉を聞いて嬉しくなった私は、精一杯元気よく答えた。せめて迷惑をかけないようになりたい。


 傍にいたルディアス様は「どの授業も魔力は俺が与える」と言ってくれた。彼のことはまだちょっとだけ怖かったけど、その言葉にとても勇気づけられる。


「ありがとうございます、ルディアス様」


 嬉しくてルディアス様を見る。

 ルディアス様は一瞬何かに驚いたかのように目を見開いたけど、とても嬉しそうに笑った。


 ――ルディアス様が笑ってくれた……


 屈託なく笑ったルディアス様は少年のようだった。

 すぐに元に戻ってしまった顔は、笑顔が嘘だったみたいに表情がない。

それでも笑顔を見た後だからか、その顔を見ても不思議と、恐いとは思わなくなっていた。

今回も読んでいただきありがとうございます。

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