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ルディアスの憂鬱 二日目

 試験を行う講堂は静寂そのものだった。


 ――本当は行かずに部屋にいようかと思ったんだが……シリウスのやつ……。


 部屋に直接転移してきたシリウスにつまみ出され、試験を行う講堂まで転送されてしまった。帰ろうと思えば、それもできた。が、ここにいる方が楽だと思い、とどまることにした。




 では、ソフィア――と陛下が一人目の少女を呼んだ。

その少女は陛下に向かって歩く途中、自分の足下に浮かび上がった円陣に驚いたようだった。


 何も説明されてないのだから無理もない。陛下も悪戯が過ぎる。

陛下に内心呆れつつも、他の五人の生徒と同じように円陣を囲むように立った。

 俺の位置はちょうど陛下を背にしているので、女王候補と向かう形になる。


 ――ここからだと、三人の顔がよく見えるな。


 円陣の中に立つ者の他に、二人の少女が少し離れたところで座っていた。


 シリウスが直接家まで行ったという少女は、銀髪らしい。その少女を見遣ると、他の女王候補と比べてまだ幼い顔立ちだった。


 ――本当に今年十六歳になるのか?


 そう疑ってしまうほど、少女は小さかった。

 自分の一つ下とは思えないほど華奢な身体に、肩までの銀の髪。うつむいてしまって、なかなか見えない瞳は深い緑色をしていたが、光の加減で俺と目と同じ黒のようにも見えた。

 始終怯えているように震えている彼女は、さながら小動物のようだ。時おり胸を押さえては、泣きそうな顔をして視線をあげている。

 陛下に「アイリスも大丈夫かしら?」と問われると、顔を真っ青にして小さな声で頷く声が聞こえた。


 女王候補として、学院に通うのは義務だ。だからこそ彼女も逃げないでここにいるんだろうと思う。

 だが、あの調子で魔力を扱うことができるんだろうか。そもそもそんな顔をするくらいなら、出来ないなら出来ないと告げたらいいんだ。

 

 はっきり言わない彼女に、何故か苛立ちつつ、視線を逸らしてソフィアと呼ばれた彼女へと意識を向ける。


「では、魔力を」


 陛下の声が後ろから聞こえた。左手の甲にある石に触れた俺は、魔力を分けたように見せたが、実際はやらなかった。他の補佐役の魔力で充分だろう。


 ソフィアと呼ばれた少女は、少し手間取ったみたいだが赤い光を身にまとっていた。


 ――あと二人か。


 早く解放されたいと思いつつ、俺は次の女王候補にも特に何もしなかった。陛下に命じられたのはあくまでも銀髪の少女にだけだと言い訳しながら。実際はただ面倒なだけだった。


 イザベラと呼ばれた女は優秀なのだろう。女王となる者は自分には魔力がなく、他者の魔力を必要とする。だからこそ、光をまとうだけならまだしも、色をつけるとなると、ある程度の訓練が必要だとシリウスから聞いていた。

 笑みまで浮かべて簡単そうに魔力を操る彼女は努力家なのだろう。


 ――それに比べて、今にも泣きそうなあいつは……。


「では、最後にアイリス」

「……はい。女王様」


 陛下に呼ばれて円陣にきた少女は、今にも倒れそうなくらい顔が青ざめている。仮にも女王候補としてクリスタルに選ばれたのだから、他の候補生みたいに胸を張ればいい。


 それとも、彼女は力の制御ができないと陛下は言っていたが、そこまで酷いものなんだろうか。

 視線を送っていると、俺に気づいた少女は目に涙を浮かべながら震えていた。


 ――仕方ない……。


 面倒だが最後くらい力を貸してやろう。そう思った俺は、魔力を高めて自分の左手の甲にある黒曜石に触れる。


「我が魔力を正しき力を持つ者へと誘え――」


 そう言葉を紡いだ後、俺は彼女が魔力を扱いやすいようにと考えた。

 他の補佐役が注ぎ続ける魔力を均等になるように俺からも魔力を注ぐ。だが、調整を何度も行えど、それ以上に魔力を吸い取られてしまう。


 ――何だ……これは……!!


 歯を食いしばり、眉間に皺が寄る。身体から魔力が奪われていくように、彼女へ注がれていくのがわかる。

 周りを見ると、他の補佐役は明らかに顔色が悪い。既に膝をついている者もいた。


 ――一体、何をしてるんだ? 魔力が制御できないというよりも……この力は――。


 思考が定まらず、俺ですら気を抜くと倒れそうだ。それでも彼女がうまく扱えるよう、魔力だけは送り続ける。


 だが、それも長くは続かなかった。

 彼女の胸に集まった魔力が、解き放たれるように頭上へ飛び上がって弾けた。


 大量の魔力が、一体何になるのか。一瞬、自分の過去を思い出して息を呑む。


 見上げた先には、銀の光。


 舞い落ちる光は、降りしきる雪のようだった。

 粉雪のように輝く花が、彼女の周りを彩る。嬉しそうに伸ばした手が、魔法の欠片をそっと包み込んだ。

その小さく白く透き通った手が、俺の魔力を包み込んだ。――そう錯覚してしまうほどに、儚くも幻想的な光景に魅入ってしまう。


 魔力を放出した彼女は、頬を淡く染め、薄っすらと柔らかな笑みを浮かべた。


 ――何だ、笑えるんじゃないか。


 力の抜けきった、穏やかな笑みを浮かべた彼女を見て、思わず俺も顔を緩める。俺は彼女と彼女が作り出した光景をしばらく見つめていた。


 そんな俺に、彼女も気づいた。視線が合ったときには、もう先程の笑みは消えていた。

 大きな目に涙をためて、祈るように胸に手をあてている。

 周りのやつらが倒れたことを気にしているのだろうか。――あんな奴らのことなど、気にせずともいいものを。


 ――そんな顔をしなくても大丈夫だ。俺が、何とかしてやるから。


 その考えに俺らしくないなと苦笑する。

 だが、力を貸そうと思ったときから、俺らしくなかったんだ。こうなったら最後まで彼女に力を貸してやろう。俺の魔力を変えてくれた、彼女に。

 そう思うほどに、彼女の見せた光景に惹かれていた。


「陛下、よろしいでしょうか」


 彼女から視線を外し、俺は陛下に声をかける。

 陛下はこうなるとわかってたんじゃないか? 俺はそう思いながらも言葉を続ける。


「この子は私が預かります。許可を」


 女王候補の補佐をするということは、彼女達が学院にいる間は、補佐役も卒業できなくなる可能性があるということだ。

 学習過程の全てを一年目で終えている俺は、あと一年在籍すれば必然的に卒業できた。


 ――最初は今日だけのつもりだったが……。


 学院を去った後も、特にやりたいことがあるわけではない。なら一年くらい余分にいたっていいだろう。今は自然にそう思えた。


 何より泣きそうな彼女の顔を、俺の力でもう一度笑顔にしてやりたかった。


「珍しいこともあるのですね。そうね。貴方ならいいでしょう」


 陛下から許可を得た俺は、彼女の腕を掴んで引き寄せる。

 思ったよりも軽かった彼女は、俺の力に足をもつれさせた。強く引っ張りすぎたのかと一人反省する。


 俺の顔を見て震える彼女を、どうしたら怯えないようにできるのかと真剣に悩んでしまうのだった。

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