ルディアスの憂鬱
「急な話で申し訳ないけれど、貴方を明日行う女王候補の適性検査。その補佐役である六人目に任命します」
「いいわね、ルディアス――」そう言ってにやりと笑む陛下を見て、俺は面倒なことに巻き込まれたなと思った。
「陛下、畏れ多くも申し上げますが、補佐役は五名まででは?」
女王候補の適性を見るために必要なのは五大属性だ。この国を形作る、火水風の三大属性に、光闇属性を身に持つ者が居ればいいはずだった。
――シリウスが直接俺を呼びに来た時点で嫌な予感はしていたが……。
面倒だという態度を出しながら答えても、目の前にいる陛下は笑みを深めるだけだ。
「通常であれば、ね。今回は五名では足りなそうなの。貴方が補佐役の補佐、いわば五属性のまとめ役をしてくれると助かるんだけれど」
「通常とは違うと?」
「シリウスの話だと、一人の女王候補の力が強すぎて制御が出来ないみたいなの」
シリウスは、表向きは陛下の部下という立場で仕えている男だが、魔力は俺より少ない。それでも、陛下に仕えてるだけあって、シリウスのほうが魔力の扱いはうまかった。要は俺とは経験値が違うのだ。
「シリウス様がいれば充分では?」
俺が言外に、俺じゃなくても大丈夫なはずと伝えると、陛下は珍しく困惑したかのように答えた。
「シリウスにも、その女王候補を見に行ってもらったのよ。実力を正確に把握したかったから、私が命を下してね。けれど――」
直属の部下であるシリウスが、わざわざ女王候補の家まで行くというのが、まず通常ではありえない状態だったはずだ。
陛下が言うには、その女王候補である少女はクリスタルの力が強すぎる、とのことだった。
シリウスは少女がどの程度、魔力を扱えるかどうか調べたそうだ。結果、彼は腰を抜かしてしまったらしい。
どうして腰を抜かすような事態になったんだ……?
そう俺が問い詰めても、陛下からは笑みで躱されるだけだった。
「やってくれるわね? ルディアス」
陛下から有無を言わさない眼差しを向けられて、決定事項ならと頷く。
「陛下のご命令であれば」
話はそれだけかと俺が視線で促すと、陛下から退出許可が出る。満足気な様子に少し腹が立った。
苛々しながら部屋から出て、学院内を突っ切り寮へと戻る。俺が通ると、学院の生徒はあからさまに視線をそらして俯いた。その変化に鬱陶しいと感じつつ、先程言われたことを思い返す。
――明日か……面倒だな。大体何故、女王候補が現れた? 陛下はまだお元気そうだが。
見た目は若い女性にしか見えない陛下は、どう見ても健康にしか見えない。御年八十才と言っても、魔力のおかげで肉体は、さほど年もとらないはずだ。
代々ノルノワール王国では、無色透明な石を持つ者が王として君臨し、その方が崩御しそうになると、次代を担う役割を持つ者が石を持って生まれるのだが……。
「今回は三人も候補が生まれた。異例中の異例なのかもしれないな」
自分に言い聞かせるように呟いて、無理矢理納得させる。
明日になれば全てわかるだろうし、一日我慢すれば面倒なことは終わる。そう思いながら俺は自分の部屋へ戻った。