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銀の花


「我が魔力を正しき力を持つ者へと誘え――」


 青年達の声に合わせて、ソフィア様の身体の一部が淡く光り出した。光は彼女を淡く包み込む。しばらくすると、その光は赤い炎のような光に変わった。

 それを見て女王様も優しく微笑んでいる。


「とても綺麗な色を出せたわね、ソフィア。貴方は火と相性がいいようね」

「ありがとうございます! 女王様」

「では、ソフィアには火の魔法が得意なエストをつけます。エスト、貴方が彼女の補佐を」

「はい、女王様」


 エストと呼ばれた青年は、快活な返事をしてソフィア様の手をとった。円陣から出て、ソフィア様を私達の所へ連れてくるようだ。

 赤髪を後ろで一つに束ね、少しきつい大きな釣り眼は髪よりも深い紅色。背の高さはソフィア様と同じか少し高いくらいだった。

 私達のところに戻ってくる頃には、ソフィア様をまとう赤い光は消えていて、エスト様は先程のように円陣を囲む人たちの輪に戻っていった。


「では、次はイザベラ」

「はい、女王様」


 イザベラと呼ばれた人は、うっとりするほど色っぽかった。笑うと一層艶っぽさが増す。年は変わらないはずなのに、身体も大人の女性と同じだった。濃紺の長い髪を左肩に流し、耳に髪をかける仕草は見惚れてしまう。


 綺麗な人……と、ついついイザベラ様に魅入ってしまった。彼女の深い紫の瞳がちらりと向けられて、私は慌てて目をそらす。クスリと笑う声が聞こえて頬が熱くなった。

 視線を下げると、自分の身体が否応なしに見える。

 同じ年なのにどうしてこんなに差があるんだろう。私は内心悲しくなりながら自分の石がある場所に手を触れた。



 イザベラ様が円陣に立つと、六人の青年達が言葉を紡ぐ。すると、すぐにイザベラ様は青白い光を身体にまとった。


「イザベラは魔力を受け取るのが完璧ね。では、水の魔法が得意なアロイスをつけましょう。アロイス――」

「はい、女王陛下」


 アロイスと呼ばれた人は、絵本に出てくる王子様のようだった。さらさらのした金の短髪と碧眼に、爽やかな笑みを浮かべてイザベラ様の手を取る。彼はソフィア様の隣にイザベラ様をエスコートすると、その手に軽く口づけを落とし円陣に戻る。

 その様子を見て私は驚いてしまったが、イザベラ様は微笑んでいたので嫌ではなかったようだ。


「では、最後にアイリス」

「――はい。女王様」


 女性様に呼ばれて、どきんと心臓が跳ね上がった。

 ついに、自分の番がきてしまった。

 緊張で震える足も、どんどん冷たくなっていく手も、自分の物ではなくなったみたいだ。心臓は破裂しそうなくらい動いていて、胸の真ん中にあるクリスタルが取れてしまうんじゃないかと思ってしまう。


 ――大丈夫。落ち着いて。深呼吸……。


 服の上から石に触れて、気持ちを落ち着かせようとする。


 恐る恐る光を放つ円陣に入ると、前にいる黒髪の男性と目が合ったような気がした。



「我が魔力を正しき力を持つ者へと誘え――」


 周りを囲む人達が言葉を放った瞬間、私の胸にあるクリスタルが光を放った。六人の男性から与えられた魔力を自分の胸に抱えて、淡く輝く光を懸命に自分の身体にまとわせようとする。


 大丈夫、きっと出来る。

 落ち着いて。色をつけなきゃ、色を……!

 変えられそうな魔力を見つけなきゃ……!!


 そうやって思ってるのに、焦るばかりで全然うまくいかない。

 その間にも六人から流れてくる魔力がどんどん増えて、自分の中に入り込んで膨らんでいくのがわかる。


 一人。また一人。

 極限まで吸い尽くしていく感覚に震えてしまう。


 ――このままじゃいけない。何とかしないと!!


 魔力を抑えようとしたのに私の言うことを聞かず、一層輝きを増したそれは、やがて私の真上へ勢いよく飛び跳ねた。

頭上に集まった光がパンっと弾け飛ぶと、形を変えてひらひらと舞い落ちてくる。

一つ手に取るとそれは銀色の小さな花だった。


 ――綺麗。


 失敗したってわかっているのに。

つい……魅入ってしまった。キラキラと羽のように舞う銀色の花。

 美しい景色にしばらく呆けていると、周りからドサドサという音が聞こえてきてハッとする。


 またやってしまった、と血の気が引いた。辺りを見回すと円陣を囲っていた男性達は、一様に青ざめて膝をついてしまっている。

 円陣に入ったとき目が合ったと感じた、たった一人。彼だけを除いて。


「アイリス……貴方はまだ力の制御ができていないようですね」


 女王様の言葉に、私は子供のように身体を(すく)めた。


「魔力を注がれる、受け皿であるはずの貴方は、石の力が大きすぎる。魔力を増大させ、変化はさせましたが……このままでは周りの者が、貴方に魔力を注ぎすぎてしまう」


 その冷たい声には最初にかけてもらえた優しい声色はなかった。縋るように女王様を見たけれど、その言葉を最後に、女王様と目が合うことはなかった。

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