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三人の女王候補

 部屋の中は随分広く、玉座は奥まっている場所にあった。

 玉座には女王様が座っていて、両側に三人ずつ白い制服を着た人がいるようだった。

 そこから少し離れた位置に、(ひざまず)いている人が二人いる。私もそこへ行くのだろう。


 シリウス様に連れられて部屋を進む最中、先程別れたお母様を想った。


 私のお母様は優しい人だ。

 本音を言えば、私も一緒に帰りたかった。でもそのわがままは、お母様以外には許されることではない。

子供の頃のように甘えてすがりつくことは、私にはもうできなかった。


 ――私が泣くとお母様が悲しむ。お父様も……お母様をお叱りになる。


 本当は女王候補になったのが、嫌で嫌で仕方が無かった。お父様からの期待が苦しかった。

 お母様にすがって泣いているところを見つかると、私のせいでお母様まで叱られた。お父様に怒られるのは怖かったけど、私が泣くことで、お母様がお父様に怒られるのがもっと嫌だった。


 お父様は『女王候補の父』らしくあろうとしたのだ。


 元々、優しかったお父様は、私のせいで変わってしまった。

 私がお父様に叱られた後、「ごめんなさい。アイリス……」と言ったお母様が、泣きそうな顔をして笑うのが辛かった。

 お母様は私の前では、けして涙を見せなかった。


 お母様のためにも、この学院で頑張らなければいけない。

 もう絶対、泣いたりしてはいけない。

 視線はうつむいてしまうけど、怖くなる気持ちを抑えてしっかり歩く。自分自身もちょっとずつ成長できたらいいなと思いながら。


 シリウス様はいつの間にか私から離れて女王様の方へ行ったようだった。二人の女の子の隣に辿り着いた私も、跪いて頭を下げて女王様の言葉を待った。



「三人とも顔をあげなさい」


 女王様の声は優しく、けれども威厳に満ちていた。

 顔をあげると、そこには見せてもらった姿絵よりも綺麗な女性がいた。ブロンドの髪を一つに結い上げ、眼差しは優しく目尻は少し垂れていて、澄んだ紫の眼は慈愛に満ちている。

 御年八十才と聞いていたが、まだ三十代にしか見えない彼女はとても美しかった。魔力を注がれる王になる者は、歳の取り方が他者と比べて酷くゆるやからしいが、ここまで違うのかと驚いてしまった。


「ソフィア、イザベラ、アイリス。貴方達三人は、女王候補の証である石を身体に持って生まれましたね?」


 名前を呼ばれ「はい、女王様」と返事をする。

 一人一人に視線を合わせてにこりと笑み、女王様は言葉を続けた。


「この国ではそれはとても誇り高いことなのはわかりますね?

 貴方達はこの学院で女王としての資質を学び、友情を育み、助け合いながら過ごしていかなければなりません。魔力を増大させる王の役割というものは、相手の助けがなくては成り立たないからです。

 よって、貴方達一人一人に補佐をつけることにしました」


 その女王の言葉を受け、シリウス様以外の六人の青年が一つ前に歩を進める。


「この者達は学院に通う者ですが、補佐をするために貴方達よりも一年長く学院にいる者達です。貴方達にどの魔力が一番馴染むかわからないので、この国の五大魔力の素質が充分にある者を代表に選びました。

 さあ、一人ずつこちらへおいでなさい」


 「まずはソフィア」と女王様が声をかけた。ソフィアと呼ばれた女の子は背が高く、ピンクブロンドの髪をふわりと腰までおろしている。花のような桃色の瞳は丸くて可愛い。


「はい、女王様!」


 ソフィア様が女王様に向かって少し歩き始めると、足下に紫色に光り輝く円陣が現れた。

 ソフィア様は急に光り出した円陣を見て、焦ったようにきょろきょろとしている。その円陣を六人の男性が囲むように立った。


「ふふふ……驚かせてしまったようね」


 女王様がクスクスと笑いながら言葉を続ける。


「この魔方陣の中は、貴方たちが他者の魔力をコントロールしやすいようになっています。これから貴方の周りにいる六人の補佐役が魔力を流すので、魔力を変化させて、身体に色のついた魔法の光をまとってみなさい。

 他者の魔力を変化させることは出来るかしら?」

「はい、もちろんです! 女王様」


 ソフィア様は出来て当然というように胸をはった。その様子に女王様は美しい笑顔を浮かべる。


「イザベラは大丈夫かしら?」

「はい、女王様」


 隣にいる女の人も女王様の問いに、艶やかな笑みで答えた。

 一番の問題は私だ。魔力を光にしてまとう魔法は、自分がどの属性に秀でているかを調べるときに使うもので、魔力を持つ者なら誰でもできるとお父様が言っていた。だけど、私は……。


「アイリス、貴方は?」

「は、はい。女王様」


 大丈夫、きっと。大丈夫……なはず。子供の頃に何度かは成功したもの。

 最後に魔力をわけてもらったのは、だいぶ前の事。それでもできるはずだと心の中で自分を励まそうとする。

 緊張で涙が出そうになる私の顔は、自分で確認は出来ないけど多分青ざめていると思う。女王様にも大丈夫じゃないって思われてるかもしれない。


 本当は自信がないと伝えるべきだってわかっていた。皆にも迷惑をかけるかもしれない。けれど、他の二人は自信があるのに私だけができないだなんて、とてもじゃないけど言い出せなかった。

 俯いてしまいそうになる視線を、ぐっと堪えて女王様を見つめる。


「では、三人とも問題はなさそうだから始めましょう。

 ソフィア、待たせたわね。五大魔力の中で貴方が一番変化しやすい魔力を光の色に変えればいいわ。落ち着いてやってみなさい。」


 魔力を――と女王様が言うと、円陣を囲っていた六人の青年は、各々の身体の一部に手をあて言葉を紡いだ。

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