ルディアスの苦悩
この三人組(特にエスト)が好きでついつい……。
本日も読んで頂きありがとうございます!!
俺は陛下と別れてから、その足でエストとアロイスを探していた。
エストとは明日行われる授業で一緒になる予定だったからというのもあるが、アイリスのことで相談をしておきたいことがあった。
彼らには女王候補の補佐役として顔合わせをした日に、アイリスのことで相談をしたことがあった。そのおかげとまでは言いたくないが、怯えていたアイリスが俺に向かって嬉しそうに笑ってくれた。
それから二人とは補佐役として会話をすることは多くなったは思う。
――だが、どう捜す?
俺がこの学院に入ってから一年は経っていた。
だが、人を避けていた俺は、今まで人を捜すということがなかった。
しばらく当てもなく二人を捜したが見つかるはずもない。手っ取り早く人に聞くかと思い直し、俺はその辺をうろついていた生徒を捕まえようとする。
「おい、エストとアロイスはどこにいる」
のか知っていっているか? と問おうとしても、話の途中で生徒は目も合わせず立ち去ってしまう。
何度かそれを繰り返したところで、後ろから見知った声に呼ばれた。
「おーい、ルディアス。何してんだよー?」
「そうですよ。生徒たちが怯えているじゃないですか……」
「ああ、捜したぞ」
「捜したぞ、じゃないですよ。全く。人に何かを訪ねる時は威圧的に話さないんですよ」
「そうそう。まあ、そのおかげでルディアスが俺たちを捜してるって知ったんだけどな」
笑いながら話しかけてきたエスト達には、俺を避けていった生徒達のような空気はない。
アロイスは少し棘のある言い方だが、文句を言いつつ俺の話を聞いてくれる。
それはそうですけど、とアロイスが俺にまだ小言を言ってくる。
「ルディアスはその表情と威圧的な態度を直したらどうです? そうすれば生徒達から距離を置かれることもないと思いますよ」
「そうだよなー。俺は勿体ないと思うぜ? せっかくいいやつなのにさ」
「ルディアスに憧れてる生徒も多いんですよ? 女王陛下から直接、補佐役にルディアスをって言われたのは貴方だけですから」
「そうそう。だから、もう少し周りにも優しく接してみたらどうだ?」
うるさい、と言おうとしたところで俺はその言葉を飲みこむ。
「……努力はしよう」
「お、珍しいな! どうかしたのか?」
「そうですよ。いつもの貴方なら『うるさい、俺には周りの人間は関係ない』と言いそうなものなのに」
「……アロイス」
アロイスの名を呼び、睨みつける俺に「その顔ですよ、恐がらせる原因は」と言われて視線を逸らす。
思わずいつものように睨みつけてしまったと、一人反省している俺にアロイスが話かけてくる。
「どうしたんですか、本当に。いつもの貴方らしくない」
「俺達を捜してたことに関係あるのか?」
エストの言葉に促されて、俺は先ほどの陛下の話を思い出す。
父親に魔法を強要され、否定され続けたアイリスの心の傷がどれだけ深かったかを俺は想像した。
それでも、俺にはアイリスの気持ちに歩み寄ることはできても、完全に理解はできないと思った。アイリスの痛みを何とかしたいとは思っても、人の感情に無関心だった俺にはその資格すらないのかもしれない。
それでも今はアイリスのことが気がかりだった。俺は自分の気持ちを振り切り、彼らに問う。
「どうしたらアイリスは元気になるんだろうか」
「やっぱりアイリスのことか」
「ぶれないですね、ルディアスは……。アイリス様のことしか考えてないのでは?」
「それで? 今度はどんな事情でそうなったんだ?」
そこで俺は陛下から聞いたことは話さず、アイリスが行った風魔法について二人に話す。
風の魔法は最初アイリスを守っていたように見えたことや、攻撃に転じた彼女の魔法で俺が怪我をしたか、アイリスが心配していたこと。それからアイリスの元気がなくなったこと。
アイリスはその後の授業も身が入らず、彼女から距離を感じるようになったこと。
俺が話を終えると、アロイスが溜息を吐いた。
「そんなことがあったんですね……」
「謝ってきたアイリスの顔は泣きそうだった」
「そりゃ恐いよな。自分の魔法が他人を傷つけそうになったんだ。そうするつもりがないんだったら余計になー……」
「そうですね……。今のアイリス様は魔法を使うことも恐いかもしれませんね」
「そうだな……」
「こればかりは……アイリス様の御心次第で、私達ではどうしようもできないのではありませんか?」
「そうかなー? 俺はそうは思わないけど」
「どういうことだ」
「俺はアイリスに誰かが自信を持たせてやればいいと思うんだけど」
「方法があるのか?」
半信半疑で聞く俺に、「まあ、任せておけよ」と明るく言うエストは話し始める。
だが、その話を聞いたアロイスと俺はその案に納得しづらかった。
「俺は反対だ。アイリスに危険が及ぶ」
「下手をすれば怪我どころではすまないじゃないですか……」
「それはほら! 失敗した場合はアロイスとイザベラが何とかしてくれよ!」
「私達にも一応授業というものがあります」
「アイリスを助けると思って、な?
ルディアスも、アロイスとイザベラがいるんだったらいいか?」
「断る。万が一の事があったらどうする」
「それならルディアスが、アイリスの身体に魔法で防壁をまとわせておけばいいんじゃないか?
火を扱う授業は危険だから、元々教師から身を守れるやつはやっておけって言われてるしな。どうだ?」
「……わかった」
「そうと決まれば、明日はよろしくな! アロイスもルディアスも!」
「全く……。私はまだ許可した覚えはないんですけどね……」
ぶつぶつと呟くアロイスの隣で、俺は本当に大丈夫なのか内心不安になる。
それでも、アイリスがこれで少し元気になればとも思っていた。
明日の朝、彼女を迎えに行ったら念入りに魔法をかけておこう。そう考える俺に「目が怖いですよ、ルディアス」と言ってきたアロイスの言葉は無視しておいた。