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初めての授業!

「最初はイザベラと同じ水の授業を受けてもらいましょう。では、ルディアス。彼女の補佐をしっかりとね」


 女王様達を見送ると、私達は授業を受けるための扉へ足を踏み入れた。

青い扉をくぐり抜けると、そこは今いた学院の中ではないようだった。

 部屋に入ったはずなんだけど、と周りを確認する。私達がいるところは、授業を受ける生徒達が全員座っても余裕があるほどの大きな広場だった。周りを木々が囲っていたけど、近くには川があるのかもしれない。さわさわと水が流れるような音が聞こえた。


 ここはどこなんだろう? ときょろきょろしていると、ルディアス様が教えてくれる。


「扉を開けると違う空間に入れるようになっている。部屋の扉毎に違う空間に繋がっているから訓練はしやすい」


 帰るときも扉から帰れるから心配ないと彼は言ってくれたけど、私は少しだけ不安になってしまった。


 彼は「大丈夫だ、扉が壊れても俺がいる」と私の頭を二回ほど叩いた。


 ――いっ…痛っ……!! 何で叩くんだろう?


 痛みで思わず泣きそうになる。もしかして何か気に触ることをしてしまったのだろうか?

 ちらりと確認すると、ルディアス様も私の顔を凝視して、不思議そうな表情を浮かべていた。



 ◇◆◇



 授業の時間よりも少し遅れてしまった私達に、先生は「今日だけですよ」と許してくれた。

 内心ほっとしながら授業の内容を聞く。どうやら今日は、丸く形作った水を、相手の身体に当てる遊びを行うようだ。子供でもできる初歩的な魔法だということなので、私にもできるかなと安心した。


 ルールは簡単だった。

一、水魔法のみ使用

一、水魔力なら防御、妨害は可能

一、当てると一点加算

一、水の球に当たった者は、広場へ速やかに離脱

一、授業の終わりを知らせる鐘が鳴るか、最後の一人になるまで続けること


 イザベラ様とアロイス様は、既に何個も丸い水の球を作って浮遊させていた。


「浮かせるのはいいんですか?」


 先生に聞くと、「候補と補佐は一人では動けないから多少は仕方ないだろう」と答えてくれた。


「アイリスは水の魔力を制御できるかわからないから、練習してから参加しなさい」


 「では、始め!」と先生が声をかけると、瞬時に水を投げる者と逃げる者がいた。開始してすぐなのに、もう何人かは当たってしまったようだ。白い制服が濡れている。遊びのはずなのに、壮絶な戦いのようだった。


 ――参加してるのは何人なんだろう? イザベラ様達は大丈夫なのかな?


「アイリス、練習するぞ」

「あ、はい! ルディアス様」


 練習するぞ、とルディアス様に言われてつい身構えてしまう。水の球は作れると思う。でも、ルディアス様に負担をかけないようにしなきゃいけない。

座り込んでしまったルディアス様に習うように、向かい合って腰を下ろす。ふんわりと柔らかな草が気持ちよかった。


「アイリスに我が魔力を誘え――」


 ルディアス様が言葉を紡ぐと、彼の黒曜石が鈍く光る。私のクリスタルに力が集まるように、魔力が体を流れていく。

 少しだけ、少しだけでいいのに。それなのに、どんどん流れてくる魔力は止まらない。

 不安で押し潰されそうな私に「大丈夫だ」と、ルディアス様は私の両手を握ってくれた。夜空のように澄んだ目が、私を励まそうとしているのを感じる。

 手をそっと握り返すと、ルディアス様の温かさに安心した。


 ――そっか、ルディアス様がいるから大丈夫なんだ。


 ふっと力が抜けた私の身体の周りに、水の丸い球がたくさんできた。ふわふわと浮かんでる球は私達を囲んでいる。


「できた……? う、うまくできた!! ルディアス様、私にもできました!」


 初歩的な魔法だってことも忘れて、私は大喜びして彼を見た。

 でも、その喜びは束の間だったのだ。ふわふわ浮かんでいたそれは、確かに水の球だったはずなのに……。

泡のように透き通ったかと思うと、全て空へ飛んで行ってしまう。それはすごい速さで消えてしまった。


「あ、あれ? う、嘘……。せっかくうまくできたのに……」


 呆然としていると、繋いでいた手が震えた。


「くくっ……はははっ」


 恐る恐る窺うと、ルディアス様がとても楽しそうに笑っていた。私が失敗したからかもしれない。

 うまくできたと思って、はしゃいでしまったことがとっても恥ずかしかった。


「アイリス? ――顔が赤い。具合が悪いのか?」

「え? あ……、ごめんなさい。失敗したのが恥ずかしかっただけなんです」

「ああ。……笑ってすまなかった」

「違っ……! 違うんです、ルディアス様」


 謝ったルディアス様は、いつもの無表情に戻っている。だけど、心なしか暗い顔をしていた。


 せっかく楽しそうに笑ってくれたのに、そんな顔をさせたくなかった。ちゃんと自分の気持ちを言いたい。ルディアス様に誤解されたくない。

 気持ちを伝えるのは怖いことだけど、それ以上にルディアス様にわかってもらいたかった。


「今まで失敗して、叱られたことはあったけど、笑ってもらえたのは初めてだったんです。だからとても嬉しいです」

「そうなのか?」

「はい。でも、ルディアス様ごめんなさい。魔力をもらいすぎてしまいました……」

「俺なら問題ない。アイリスが大丈夫なら練習を続けるか?」

「はい! よろしくお願いします!」


 その後も諦めずに何回か繰り返したけど、うまくできなかった私は、授業には参加できずに時間がきてしまった。ルディアス様はそんな私に、何も言わずにずっと付き合ってくれた。


 勝負はイザベラ様とアロイス様の圧勝で終わったようだ。最後に広場へ戻ってきた、イザベラ様の勝ち誇った顔は、とても清々しくて美しかった。

今回も読んでいただきありがとうございます!

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