プロローグ
その少女の前では、誰もが跪き頭を垂れる。
崇拝や、敬愛。そのような気持ちからではない。ただ少女の前では魔力が保たず、立っていられなくなるからだ。
魔力を全て失ってしまうと、体の力が抜けたように地に伏してしまう。少女が魔法を使うと、成否を問わず皆が同様になった。
そして、現女王からの命で少女の調査に来た男も……力が及ばずに彼女の前にひれ伏した。
──アイリス様。
男が顔を上げると少女は怯えていた。
それは男が少女を見る目が変わったからか。
男が膝をついたせいで、父からひどく叱責されてしまうからか。
あるいはそのどちらでもあるのか。
先程までは輝くようだった深緑を思わせる瞳にも、今は深い悲しみが宿っている。肩で揃えられた銀の髪は、何者からも穢されない真っ直ぐな意志を感じるというのに。
少しでも触れてしまえば消えてしまうような、儚げな危うさが少女にはあった。
──このお方の力は……まさか。
男は愕然として少女を見遣る。彼女の胸元には、無色透明な大きな石があり、まるで男を見下すかのように鈍く光っている。
全てを奪い尽くしてもまだ足りないと、石自体が魔力を欲しているかのようにも見えた。
──早く女王様へ報告を……。
男は魔力を振り絞り、光を空へと放つ。青空へ軌跡を描くように飛ぶ白光は、さながら鳥のようだった。
男の意思を引き継ぐように、真っ直ぐ女王の元へと飛んでいく。
地を見限り、天を選んだ──選ばざるを得なかった小さな国。その天空都市ノルノワール国を治める、現女王の元へ。
石が王を選び、王の力によって繁栄してきた魔法の国。
その国の女王候補の一人、アイリスは──。
幼くも人々から恐れられ──そして、実の親から疎まれている異質な存在だった。