石の国
9
目に映った光景は彼岸花畑でなくてゴツゴツした岩山であった。元の場所に戻ってきたわけではなくて違う場所だ。
「ここどこ?」
「こりゃあ、石の国だな」
「石の国?」
花の国の次は石の国ときたものだ。花の国は鮮やかな花で咲き乱れていたが石の国は殺風景というか石や岩しかない。
「元の世界に戻ってこれたかと思えば石の国くるとは思わなかったな」
「これからどうするの?」
「カガミ石を探すしかないな」
「カガミ石?」
「そうカガミ石」
カガミ石は全体が鏡でできている石のこと。此岸花同様に幸運の石とも言われている。カガミ石さえ見つければ元の世界に戻れる。
ならば2人の目的は速攻に決まる。
「でもカガミ石ってどこにあるの?」
「そこらへんに落ちてる」
「そこらへんに落ちてるの!?」
「石ってのはそこらに落ちてるもんだろ」
確かに石はそこらに落ちているものだが幸運の石がそこらに落ちているものだろうか。
いや、案外そうかもしれない。幸運なんてそこらに落ちているだけでその幸運を拾えないだけなのかもしれない。だから幸運の石なのだろう。
「じゃあこの広すぎるここを探すしかないの?」
「おう」
「…すぐ見つかるかな」
「大丈夫だって此岸花を見つけられたんだからカガミ石も見つかるさ」
呑気なヒロオは口笛を吹きながら石の国を歩き始める。その後を追うアキラ。そして落とし穴にハマる2人。
「何で!?」
「落とし穴なんて初めての体験だ」
穴を掘る経験はあったが穴にハマる経験はない。よくマンガとかで落とし穴は罠とかであるやつだ。まさか現実で本当に落ちるなんて思わなかったものである。
背中やお尻を打ったがヒリヒリするくらいで我慢すれば時間とともに痛みは退くだろう。
「尻が2つに割れちまったぜ」
「もともとお尻は2つに割れてるよ。ていうか何で落とし穴なのさ…いてて」
お尻を擦りながら上を向くと人影が3つ。小柄で子供のアキラたちと同じくらいの背丈。
「お、引っかかったみたい」
「こいつら誰だ?」
「良く見るとヒトの子だぞ。何でヒトの子が石の国に?」
「どこからか迷って来たかな?」
「それは有りえない。今あの国は鎖国状態だぞ」
「だけど噂でたまにヒトが旅をしていると聞くぞ」
「子供だけでか?」
落とし穴の上で話し会いをしている小柄な3人。
「ありゃあドワーフだな」
「どわーふ?」
「聞いたこと無いか。ドワーフってのはまあアレだ。小柄な職人さんだよ。物造りの天才だ」
「へえ。てことはこの落とし穴も?」
「物造りの天才は分かったけど。この落とし穴も?」
「だと思うぞ。ドワーフはこういったイタズラも好きだからな」
「イタズラにしてはこの落とし穴は深すぎない?」
「職人っつたろ。だからイタズラにも巧妙で真面目に作るんだよ」
「イタズラに真面目って」
「ドワーフはそんなもんだ」
イタズラの職人なんて嫌すぎる。天才は余計なところで本気を出されると困るものだ。
これがまさに才能の無駄使いというものだろう。天才と馬鹿は紙一重なんて言うがまさにそうだった。
「イタズラをするのは若いドワーフが多い。年取ったドワーフは更に職人気質になるでも根は良い奴らだ」
「でも落とし穴に…」
「あいつらはイタズラ好きなドワーフなだけだ」
根は良い奴ならここから脱出させてくれるだろうか。ロープでも垂らしてくれるのであろうか。
そんな期待を抱くアキラだがドワーフの3人組はとんでもないこと言いだした。
「埋めちゃう?」
「石の国に余計なもんは持ち込ませるわけにはいかないからな」
「んだな」
なんとも無慈悲な考えに至ったものだ。これにはアキラも冷や汗がどっと噴き出す。
穴に埋められるなんて恐怖以外の何ものでもない。そんなのイタズラの域を出ている。こんなので埋められたらたまったものじゃない。
「ど、どうしようヒロオ」
「うーん。駄目だな」
スパーンと諦め発言。
「ヒロオ!?」
「冗談だ。おーいお前たち、こっから出してくれよー!!」
「なんだ話しかけてきたぞ」
「もちろんただで脱出させろとは言わない。ちょっと知恵比べでも何でもしようぜ。勝ったら脱出させてくれー!!」
「ちょっ、ヒロオ」
「大丈夫だ。こういうのが好きな奴らだからさ」
ヒロオの提案は知恵比べのゲーム。彼らは乗ってくるというが本当だろうか。駄目だったら埋められる。
「それは面白そう!!」
「お、良いかもな。ちょうど俺ら3人いる。3つの知恵比べに勝てたら穴から出してやる」
「やったな」みたいな顔をしてくるヒロオ。でも3つの知恵比べに勝たないと穴から出れない。
どんなものが出てくるか分からないが3本勝負の知恵比べの開始だ。