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旅立ちの朝

目覚めのよい朝だった。


東南東を向いた私の部屋は朝日に照らされ、明るい陽が差し込み、遠くでは雄鶏の泣く声が、窓の外では月桂樹の木では小鳥がさえずっている。私の旅立ちにそわそわとしていた母はきっと早々と起きて相変わらずそわそわとし、同じくそわそわしていた父はそわそわしすぎてうまく寝付けず、きっとベットからなかなか出てこないのだろう。


父は私たち 3 兄弟を平等に愛しているけれど、家を出ると言い出したのは私が初なのだからしょうがない。姉はのカリスは家を継ぐべく婿を取り、今も一緒に暮らしているし、弟のクロノスはまだ 13 歳だ。家を出るにはまだ早い。

まあ、クロノスは騎士になりたいといい、5 つの時から剣術の稽古に通っているのだから、家を出る日も遠くないだろう。本人は来年の秋には全寮制の兵学校に入るつもりでいるが、きっと父はそのことを知らないに違いない。母はきっと感づいているに違いない。もちろん姉も。でも誰も父にその話はしない。父はそれだけ子供に過保護なのだ。そのときが来たら自分から話すし、父は本人から話を聞くことを望んでいる。それに最後は絶対に援助してくれるのだ。だってその前例が私なのだし、説得のときにはクロノスのような男の子なら喜んで応援するさ、と言われたのだから。


ベッドサイドには旅支度が整えてある。

手で持っていくのはちょっとしたトランクのみで、この部屋はもうほとんどがらんどうだ。寄宿舎

に運び入れるために、昨日先の荷物を引き取っていったからだ。私の学びの場は、王立サスナー大学。国いちばんの教育機関であり、貴族の御曹司は皆ここを目指して勉学に励み、あるものは強要される。入試で訪れたときには世界の違いに驚いたが、単なる学力だけでなく教養や発想力、発表の表現力も求められており、率直に言って楽しかった。


これからの生活に胸を高鳴らせていたが、馬車の与作もしているし、母がそわそわと待っているのだ。早くしたくしなくちゃ。

食堂は湯気の暖かさと焼けたパンの香ばしさが満ちており、さらに気分を高揚させる。


「おはよう、ルーナ、よく眠れた?」

「ええ、おかあさん、天気もいいし、絶好の旅立ち日和」

「そうね、とうとう一定しまうのね」

「うん、でも王都へは二日で行けるんだから、その気になればいつだって帰ってこられるし、遊びに来てくれたらいいじゃん」

「そうね、ルーナはどうせ呼ばきゃ忙しいとかいって帰ってこないんだから、みんなで押しかけてしまえばいいのね」

「ふふっ、それまでに王都を案内できるよう調べておくから楽しみにしててね」

「ちゃんと帰ってきてお土産話聞かせてよ!」するっと起きてきた弟のクロノスが口をはさむ

「はいはい、でもあんたが本当に欲しいのはお土産のおかしなんでしょ」


そうして私は暖かいスープと柔らかで香ばしいパンと、とっておきのフルーツでおなかを満たし、庭のエキナセアとかもニールのハーブティーで一息つくとあっという間に出発の時間になった。


「じゃあ、行ってきます。頑張って勉強してきます」

と、声をかけて外に出ると、驚くことの人数が私の旅立ちを見送りに来てくれたことを知った。

親戚のおじさん、おばさん、いとこの子供に、高等学校の友達、先生、そして近所のみんなや農民たちも。私の旅立ちはみんなの期待を背負っているんだ。

「みんな、ありがとうございます。頑張って勉強してきます」


馬車に乗り込むと、出発しようとしたその時、母に叩き起こされたのかまだ寝起きの父、そして微笑む祖父母も姉夫婦も弟も玄関の前に立ってくれている。ああ、私はどれだけの人の思いを背負っているのだろうか。

ほんのちょっとのプレッシャーを感じつつ、家を街を離れる寂しさも感じつつ、それでもなお勝る胸の高鳴りを感じつつ私は故郷を後にした。

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