理由
私には将来の目標がある。そのために、今日街を出る。
ここは、サスナー王国王都シーシカから馬車を使えば 2 日ほどかかる、肥沃な大地で農業が盛んなアレルーセ。果実も作物も実り多く、もう産物を求めて多くの人が行き交う活気ある街でもある。
私の家は中心的農家で、広大な土地を持ちたくさんの小農家を抱えている。
父はキパリス家当主としてたくさんの人を使い、作らせる作物の調整を図ったり農民にも品質の向上と地域特産物になりえる作物のアイデアを募っている。それゆえ農家の人々は身体を動かすだけでなく頭も使うし文献調査や行商人との交渉による情報収集にも余念がない。
父も農作業の現場に立つけれど、ほとんどは経営者として働いており、当然農民にもそれなりの成果を期待する。私はその父を間近に見ながら、学校で出会う農民やその家族とを見てきた。新しい作物探しに翻弄するけれど、日々の作業に追われたり気候や土が合わずに育たなかったり、育っても特筆すべき特徴なく特産品には出来なかったりと苦労が多い。
実際、私がものごごろついてからおおよそ特産品と呼べるものは出ず、父も農家の人々もやきもきしている。
そして私は決心したのだ。なら、私がこの地域を代表するすごい作物を作ってやる、と。
もちろん、これまでもほかの農民が新しい作物を作ろうという意識がなかったわけではない。ただ、新しい作物を開発するためには植物学を修める必要があるし時間もかかるし、何せ、その学費を捻出することができなかったのだ。教育の中心は社会常識を身に着けること、治安を安定させるための軍事や法律学、そして職業訓練に 9 割以上の予算と時間が割かれ、その他の学問の研究は一部の金持ちにしか許されていないのだ。
普通の農民にはとてもじゃないが手が出せなかったのだ。
でも私には学問の道に進める環境がある。そして、なりより植物について、この世界について、もっと知りたいと思っていることが一番の理由だ。