表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

The World's End

作者: タナティス(猫)

――ねぇ――

 突然彼女の声が浮かび上がる。その声は聴覚器官を介さずに、僕の脳内に直接流れ込んでくるようだ。きっとテレパシーというやつなのだろう。

――いつまで寝てるの――

 彼女が語りかけてくる。

 返事をしなければ。テレパシーを送り返すのは可能なのだろうか。でも、どうやって?強く念じれば、勝手に伝わってくれるのか?

 僕は一文字一文字意識しながら念じた。

 僕の寝覚めが悪いのを、君は知らなかったっけ。もう少し、あと数分でいいから、眠らせておいてくれないかい。

――はいはい。そんなことを言って、何分経っても起きないじゃない、瑛輔は――

 通じた。会話の成立に歓びを噛みしめる。しかし、その歓びはすぐさま、ある疑問に掻き消された。そして、さっきと同じ要領で、その疑問をテレパシーで送る。

 瑛輔?瑛輔って誰のこと?僕はそんな名前じゃない。

――ベランダの窓開けるわよ。清々しい朝の空気を吸えば、しゃっきり目が覚めるんじゃないかしら……。ほら、ひんやりしてこんなに気持ちがいい――

 彼女は僕の問いかけに答えない。いや、そもそも僕の問いかけは届いてすらいなかった。

 そこで、ふいに僕は気付いた。これは夢。そもそもテレパシーなんてある訳がない。何故、簡単に、その存在を信じてしまったのだろう。瑛輔が誰なのか。そんなこともどうでもいい。そもそも僕は自分の名前すら知らないじゃないか。

 しょうがないさ。夢の中なんだから。夢の中の出来事は意味のない、支離滅裂なことばかり。しかも、普段はあり得ないと思うことも、当然のように受け入れてしまうから困ったものだ。目を覚ましてから、夢の中の自分の行動が常軌を逸したものだと気づくなんて、ままあるし。

 そこまで考えると、不意に笑いが込み上げてきた。夢の中の自分が自分自身を夢の中の存在であると気づいている。そんな今の状況がなんだかとても可笑しかった。

 あれ、でも、これは笑い事じゃないのかもしれないぞ。夢の中の存在である僕。そして、僕の居るこの夢の空間は、現実の僕が目覚めると同時に消えてなくなってしまう。

 そう考えると、なんだか怖くなってきた。そこで、またあの声が語りかけてくる。

――いい加減に起きないと、その布団剥ぎ取っちゃうわよ――

 さっきまで、愛おしいとさえ思っていたその声が急に憎らしくなってきた。

 やめろ!やめろ!僕を起こすのをやめてくれ!お願いだ!僕を殺さないでくれ!

 僕は叫んだ。そして、沈黙した。一秒後の世界がまだ存在しているか恐怖した。一秒後、世界の無事が確認できると、さらにその次の一秒後の世界の安否を気遣った。それが確認できると、さらにその一秒後――一秒後――一秒後――一秒後――一秒後……



                                   ――Good morning, mom.

子どもの頃、母に起こされてたのって僕だけですかね。なんであんなに朝起きるのが辛いのかなと考えて、夢の世界の自分が抵抗してるのでは、と考えました。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ