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後編

 自分が現在楽しんでいる、ソーシャルゲームを題材に書いてみました。

 ゲームをする方、しない方。どちらの方にも読んで頂いて、感想頂ければ幸いです。

   1


 サイレンの音に、周囲のカードも右往左往し始めている。

 確かに重大な事態が起こりそうだ。メイに尋ねようとしたが。

「始まるわ! 何事も体験よ♪」

 そう言い残し、素早い動きで彼女は、この場を離脱していく。


 俺は慌ててメイの後を追おうとしたが、その時、天に大きな穴が開いた!

 そして、強力な力でカード達を吸引し始める。単純な吸引ではなく、空気が渦を巻き、竜巻状になっている。

 やっと動く事を覚えたばかりの俺だ。とても逃げ切れそうな状況じゃない。

 それでも、恐怖が俺を必死に動かしていたが。

「うわあああーっ‼」

 無情にも俺を捉えた空気の渦は、上空の穴へと俺の体を舞い上げていく。

(これで俺も終わりか? ホントにカードみたいな、薄っぺらい人生だったよな……)


 やがて、俺達はどこかに着地、いや相変わらず地面はなく空間である。

 地表はないが、感覚的に寝かされているとは感じる。

 俺の左右には九枚のカード達、横一列に妙に整然と並べられている。

 やや拍子抜けした思いで、体を動かそうとするが、自由が効かない。


 そして、上空には一枚のカードが現れた。絵柄は良く見えないが、SSRだろうか、かなり高ランクのカードだ。

 そいつは近づきながらクルリと背を向けた。中央部分の横に一本の線が入り、パクリと口が開く。そこには肉食恐竜のような鋭い牙が生えていた。


 直感的に感じた!

(これは強化か? 俺たちは餌にされるのか!」

 カードを強く育成するための手段の一つ、強化。その素材に弱いカードを消費する事を、俗に餌にするという。今、正にその運命が俺たちを襲っていた。


 捕食者は、まずは左端のカードに襲い掛かり覆いかぶさる。

「ぎゃあああ!」

「た、助けてえ!」

「うびゃああ‼」

 グシャグシャ、クチャクチャという咀嚼音と共に、次々と悲鳴が響く。


 到頭、俺の番が来てしまう。先ほどの達観した気持ちはどこへやら、脳内をひたすら恐怖が支配していた。

 これが人間の肉体ならば、小便を漏らしていただろう。その自信はたっぷりある、ありすぎるくらいだ。

「うわ! いや! やめてェ! ひいい! ……!」

 引き裂かれ飲み込まれながら、最後は声にならない悲鳴を漏らし、やがて意識が途絶えた……。


   2


「おーい」

 ぺシぺシぺシ。

「おーい」

 ぺシぺシぺシ。

 誰かが俺を呼んでいる。そして、頬の辺りを張られている。


「大丈夫?」

(この声は? メイか?)

 目を開けると、はたしてメイが心配そうにこちらを覗き込んでいた。


「うー、ひでえ目にあった。俺は生きてるんだよな?」

「ごめんねえ♪ 時間もなかったんだけど、命に別状ないのは判っていたから」

 メイが悪戯っぽく、チョロっと舌を出しながら答えた。

「ホントに終わりかと思ったけど。無事だったし、気にしないでよ」

「あれはねえ、ランダムに起きるのよ。もちろん自分の方が強化されることもあるわ」


 言われてみるとメイのカードは、レベル51進化1/3と表示されている。俺のカードは、当然だがレベル1進化0/2。

 強化はあらゆるカードが餌の対象で、対して進化は自分と同一のカードしか餌に出来ない。

 面倒な制限はあるが、その分メリットも大きい。


「なるほどね。進化の餌にされる時もあんな感じなの?」

 すると、メイはにっこりと満面の笑みを浮かべる。この娘はカードなのに本当に表情が豊かだ。

「それはね。ヒ、ミ、ツ♪」

「えー。どうゆうこと? 意地悪しないで教えてくれよ」

「だーめ、教えたげない♪ 何事も体験よ。それこそが、この世界の真の恐怖なの。但、生命いのちの心配だけは無いから安心してね」

 うーん。何だかとても安心出来ないぞ。


   3


 その時のメイの言葉を、思い知らされる時が来た。彼女をして真の恐怖と言わしめる、その正体は何なのか?

 俺もこの世界に馴染んで来て、レベルも18に上がっていた。そんな時にそいつはやって来た。


 ウインウインウイン! 何時もとは違うサイレンの音が鳴り響く。

 そして、カード達が逃げ惑う。それは、何時もよりも必死に見えた。

(何故かなあ。進化ならかなり対象が限られる。当たったら、それこそ不運と諦めるしかないだろうに)

 俺のその考えは甘すぎたのだ! じきにそれを思い知ることになろうとは……。


 やがて上空に穴が開き、今回は複数のカードがそこから落ちてくる。

「くそったれ! 一枚じゃないのかよ。でも、たかだか数枚……」

 俺は、自分の顔から血の気が引くのを感じた。クルクル回りながら落ちてくるカードの中に、俺と同じオーガの姿を認めたからだ。


「くそっ! まだ距離がある、逃げ切れるぞっ」

 俺もカードの体の扱いには慣れて来た。スピードでは、そこらのヤツには負けない自信がある。

 しかし、敵も速い。徐々に距離を詰められる気配を感じる。

 どうやら、俺は獲物として捉えられてしまったようだ。


「畜生!何て速さだ、向こうだけブーストかかってんじゃねえか!?」

 左旋回で回避しながら、相手の姿を確認する。

「‼」

 迫り来るオーガのカード。そこに張り付いている顔は!

 コミケなどで良く見かけるタイプの、小太りに黒縁眼鏡、典型的なオタクタイプだった。

 多少は腕っぷしに自信がある俺にとっては、リアルでは全く脅威にならない相手。

 だが、今は何故か、酷く恐怖を感じる!


「ち、畜生!何であいつの目は笑ってやがる。何でカードなのに脂ぎった顔なんだ。何でカードなのにあんなに汗をかく。何であいつのホッペはあんなにぷにぷにしてるんだあーっ‼」

 最早、訳の解らない悲鳴をあげながら、俺は必死に逃げ惑う。しかし、それも限界にきていた、主に精神的にだが。


 不意にバランスが崩れる。俺のカードは、短距離走で躓いた時のように斜め前方に転がって、仰向けに天を仰いだ。

 この時、俺の脳裏にはある言葉が浮かんだ。

(私は追い詰められた時、えーい、どうにでもなれと開き直ることが出来る。それが結果に繋がるのだ。

byアントニオ猪木、だったかな?)

 とにかく、覚悟完了!さあ、どっからでも来やがれ‼


 俺を追い詰めて来たカードが、一度上空へと舞い上がる。

 そして、俺をめがけて落下を始めた。その顔の満面の笑みが憎たらしい。

 さあ、そろそろカードが反転して…… しない……!

「い、いやちょっと待て! 何で反転しない! いや、それよりもお前は何で、そんな喜々とした顔で突っ込んでくるんだ……」

 改めて説明するまでもなく、俺たちは同一のカードであり、同一の絵柄である。それが鏡合わせに重なるという事は……。


「きゃあああああああああああ~っ‼」

 覚悟完了や開き直りどころではない。俺はまるで少女のような悲鳴を上げて失神した。


   4


 コンコンコン

 コンコンコン


 何かノックのような音がする

「大丈夫ですか? 私の声が聞こえますか?」

 女性の声? メイちゃんか? いや違うようだ。


 段々意識と視界がはっきりとして来た。

 俺は透明なカプセルの中でベッドに寝かされていた。頭には複数のケーブルが繋がったヘッドギアを付けている。

 やがてプシューッという音と共に、カプセルの蓋が開いた。

「お疲れ様でした。気分はよろしいですか?」

 女性オペレーターが笑顔で(やや事務的な感じだが)尋ねてくる。

 記憶もすでにはっきりしている。俺はここでリハビリを受けていたのだ。


 近年、急激に増加した、ソーシャルゲームによるゲーム依存症。老若男女を問わず、精神と経済に影響を及ぼす、新たな社会問題になっていた。

 事態を深刻に捉えた政府は、民間企業や研究機関と協力し、更生プログラムとリハビリ施設を作り上げた。

 そして中位レベルの依存症と診断された俺は、この施設のカプセルで精神治療を受けていたのだ。

 原理は俺などには良く解らないが、仮想世界で恐怖を植え付けることにより、拒否反応を起こさせるショック療法らしい。

 ともあれ、俺の治療は無事に終了したようだ。


 ロビーで退院手続きをしていた俺は、受付に呼ばれて窓口へと向かう。

 その時、オペレーター服の女性と危うくぶつかりそうになった。

「ごめんなさい。大丈夫でしたか?」

 彼女が振り返り、微笑みかける。その笑顔はメイに、とても良く似ていた。


 思わず声をかけたい誘惑にかられたが、辛うじて思いとどまる。

 彼女は再度会釈をして、去っていった。

 そうだ、これでいい。

 俺は、これまでの事を忘れて、ここから再出発するのだから!


   5


 真っ白な空間で、再び俺は目覚めた。


 馴染みのある体を操り、鏡の前に立つ。

「やったぜ! 今度はレアカードだ」


 すると、以前のように、一枚のカードが舞い降りて来た。

「もしかして、メイ?」

 心がときめくのを感じる。

 しかし、突然空間が漆黒に転じた!


 正面に降りて来たカードは、何故かこの暗黒の中でもハッキリと見える。

 それは女神ではなく、魔神であった。

 現在のゲーム世界で、最高ランクのLRカードであるという事が、絶望の大きさを予感させる。


「残念。二度目の機会チャンスは無いのよ♪」

 そう告げる彼女の顔に、人間らしい表情は皆無だった。


   終


 




 

 


 読了ありがとうございました。

 落ちはこのようになりましたが、自分はソーシャルゲームを全否定するものではありません。

 ゲーム内で、大事な仲間と知り合えたり、充分楽しんでいます。

 ただ、問題になる部分もあると思い、今回題材にしてみました。

 近いうち、純粋にゲームを楽しむ小説も、書けたら良いなと思います。

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