前編
初めての投稿ですので、勝手が解らないことだらけですが、ご意見よろしくお願いいたします。
拝聴させていただきます。
1
朝起きると、俺はカードになっていた。
何か似たような小説を、昔に読んだような気がする。
あれはカフカだっけ? 目覚めると虫になってるヤツ。
勿論、直ぐにそれと認識出来た訳ではない。
しかし目覚めて直ぐに、尋常ではない違和感があった。
「あれ? 手が動かねえ!」
足も動かないし、周りも良く見渡せない。
不自由な体で、何とか周囲を見渡してみると、そこは自分の部屋でさえなかった。
「おっかしいなあ?確か昨日俺は自分のマンションで、酒飲んでソファーベッドで寝ちまったはずなんだけど……」
俺は36才、都内の中堅企業に勤めるサラリーマン。マンションとは名ばかりの安普請なマンションに住んでいる。彼女いない歴24年、一時中断の後は、記録更新に向けてまっしぐらだ。
仕事にやる気スイッチはまるで入らず、趣味人として過ごす毎日。
以前はコンシューマーゲーム機のゲームにはまっていたが、最近はスマホのソーシャルゲームに金をつぎ込んでいる。
正直、その額はかなりヤバいくらいだ。
さて、改めて周囲を見ると、そこは俺の部屋どころか、通常の世界ですらなかった。
建物も地面も、青空さえも目には映らない。ただ、真っ白な空間が広がるだけ……。
いや?遠目に何か長方形の薄っぺらい物が浮かんでいるようだ。
「あ、あれは……カード?」
そう認識した後、よく回らない視界で自分を観察してみると……。
「な、なんじゃこりゃああああーっ!」
俺もカードだった。
2
ようやく認識した事態に、理解が追い付かず混乱の極みにある俺。
そこに上空から、一枚のカードがスーッと近づいて来た。
「ごきげんよう♪」
何、その某学園百合系アニメみたいなご挨拶は?と思いながら良く見直すと。
「き、君は神属性のSRカードの女神さま! 名前は……何だっけ?」
見覚えのあるカードがそこにはあった。いや、いた。
彼女は一瞬、頬をぷうっと膨らませると。
「まあいいわ。最近はSRも雑魚扱いで、倉庫にしまわれっ放しなんでしょ」
「う、うん」
改めて彼女を観察すると、見覚えのあるビジュアルではあるが、微妙に違う。
(そうか? 顔の部分が)
顔が妙に三次元ぽいというか、人間くさい。
そうそう、カードの顔の部分にアイコラで誰かの顔を張り付けたみたいな。
「なあに? 人の顔をまじまじと見たりして。それよりも、こちらにいらっしゃいな」
彼女は踵を返すようにして反転した。いや、踵はないんだけどね。
「そうは言っても、どうやって動くの?」
「動こうと念じれば動けるわよ」
はあ、そんなもんすかねえと思いつつ。
「ウ! ゴ! ケ!」
テレビの面白特番で「驚異‼世界の超能力者!あなたはこの真実に耐えられるか‼」とかいう怪しいのを放送していた時、ユリゲラーという昔の超能力者らしい人が映っていたのだが。
スプーンを手を触れずに曲げようと、眉間に皺をよせながら念を込めていたフレーズが妙に気にいったので真似てみたのだが。
「なあにそのおまじない? 呪い?」
案の定、解って貰えるはずもなかった。
「ばかねえ。自然に思うだけで動くわよ」
彼女の言う通り、考えるだけすうっと水平移動出来た。なるほど!
「強く念じるほど、高速移動出来るわよ。消耗が激しいけどね」
馴れないながらも、彼女に続いてしばらく進むと、正面に大きな楕円形状の物が見えて来た。
「これって鏡?」
「そうよ。それで自分の姿を良くご覧なさい」
3
彼女に言われて覗き込んだ鏡。そこに映っていたのは紛れもなくカードだったのだが……。
「のわああああーっ‼ オ、オーガ! Nカードだというんかい……」
そこには見慣れた雑魚モンスター、オーガの顔にこれまた見慣れた俺の顔が、ちんまりと付いていた。
「そ、そげなあ、二百万円も課金したのに、何で最下級の雑魚にならなきゃいかんのよお……理不尽じゃあああ!」
どうやらここは、俺が遊んでいたソーシャルゲーム「戦場の女神さま」のカード達で構成された世界らしい。周りを良く見ると、見慣れたカードばかりが並んでいる。
そして、衝撃からまだ覚めやらぬ俺に対して、隣の女神様から更なる追い打ちが。
「あらあ、そんなもん? あたしなんか一千万はつぎ込んだわよ♪」
(な、なんだってェェェ!)
「どうやら、ここでのカードの姿はリアルでの課金額によるみたいなのよ。」
(そ、そんな……生活苦に陥るほど貢いだ俺の努力は最低の雑魚でしかないのか?そして彼女でさえSRに過ぎないのなら、もしSSR・UR・LRなどが存在するとしたら、もう考えるのよそう……」
4
閑話休題、ソーシャルゲームに馴染みのない人たちにほんのさわりを。
ソーシャルゲームとは家庭用ゲーム機のように専用端末を必要とせずに、スマホやタブレットなどにインストールして遊ぶゲームである。
色々ジャンルはあるが、俺たちのカードが存在する「戦場の女神達」はいわゆるカードバトル物だ。
プレーヤーのレベルをイベントなどの経験値で上げていくと共に、手持ちのカードも強化や進化で育てあげて、総合的に戦力アップしていく。
そのため、より強力なカードを入手すべく、有料ガチャつまり課金をしていくのである。
因みに女神の彼女は多分有料、俺は無料カードである……。
そんなこんなで、自分としては大金をつぎ込んだつもりが、ただの雑魚でしかなく、ショックは大きいのだ。
「あら、惜しいわよ。二百万なら、多分もう少しでHNよ」
(慰めになってねえよ)
とはいえ、彼女のおかげで大分状況は理解できた。
「ありがとう、おかげで大分判ってきたよ。俺の名前は……」
「ここでリアルの名前なんて意味がないわよ。わたしはここでは女神メイと名乗ってるの」
「メイちゃんか。それじゃあ俺はどうしようかな?」
「ちょっと待って」
メイが不意に顔を近づけて来た。不意打ちにドギマギしてしまう。
こんな体なのに、下半身の当たりが熱くなるのはどうしてだろうか。
「あなた、オーガなのにちょっと可愛い顔してるわね♪ オーガにはちょっと勿体ない」
顔がちょっと火照った。
「可愛いオーガ、プリティオーガでプリガ♪ そうしなさいよ。のだめのプリゴロ太みたいでいいでしょ」
可愛いといわれて、悪い気はしないが。そのネーミングセンスはないと思うぞ。まあいいかどうせ仮初めの……
「ところで、俺はこれからどうすればいいんだろうか? 現実に戻る手段とかは?」
「残念ながら、それは私も知らないの。ただ、この世界にもイベントがあるのよ」
その時、けたたましいサイレンの音が鳴り響いた!
前編 終




