イケメンと関わりたくなかった(泣)
「君のおかげで助かったよ」
イケメンさん、剣を振り回すのは止めなさい。
「よかったな。それじゃ、後は頑張ってくれ」
俺はそそくさと逃げ出した。めんどくさそうだ。キグルミのヤツも調べたいし。
エコーバッドのキグルミのせいだよなあいつがぶっ倒れたのって。
考えながら宿へ向かうと、
「僕の宿もこっちなんだ。一緒にいこう」
……できれば、離れてくれ。
剣を納め、隣で話しかけてくるのを適当に返事していると宿に着いた。
「それじゃ、ここまでだな。さいなら」
「君の宿もわかったし、次は僕の宿だね」
……え? 何で?
「僕の宿も見てみたいて言ったじゃないか」
言ったか~? 適当に返事した中にそんなのあったのか?
「ほらほら、こっちだ」
イケメンに腕を引っ張られる。俺は嫌そうな顔をしているはずだ。
いくつか角を曲がり、建物が良いものになっていく辺りでイケメンが止まった。……今、思うんだがこっちの方がギルドに近くないか?
「お帰りなさいませ。お坊っちゃま」
両開きの扉の前で頭を下げるメイド服の女性がいた。
「ただいま、サーシャ。お客さんは?」
「残念ながら今日もおりません」
「ん~。それは残念だね」
どう考えてもおかしい。この立地で客が来ないなら今の宿はもっと空いてると思うんだが。
外見も新しいし、逆に新しすぎて客が来てないのか。それならわかる。
「お帰りなさいませ。お坊っちゃま」
サーシャさんの背後に執事服を着た老人が立っていた。いつの間に?
「マキチフ。ただいま。この人は今日、僕を助けてくれた人なんだ」
そうマキチフと呼ばれた執事に紹介すると、こっちを向いてマキチフを紹介する。
「マキチフは僕の家に使えていたんだけど、年のせいで体の無理が効かなくなったからここで宿屋を始めたんだって。こっちに来てすぐに出会ったから格安で泊めて貰ってるんだ」
「マキチフと申します。お坊っちゃまの家で長年使えさせてもらいました。ですがよる年波には勝てず、今はこの宿屋の経営を娘と行っております」
サーシャさんは娘さんになるのか。今後会うこともないだろうが覚えておこう。サーシャさんを。
「お坊っちゃま。これも何かの縁ですし、どうでしょうこの宿の宣伝も兼ねて泊まってもらっても……」
「そうだね! これからも一緒に迷宮にもぐる仲間だし、ここに泊まるようにすればいいよね!」
冗談じゃない! 俺は1人でもぐるんだ!
「そーー」
「いいですよね?」
一瞬のうちに俺の背後に現れたマキチフが耳元で囁く。そして腰骨の辺りに固いものが押し付けられている。
「あの……何か当たってるんですけど」
「当たってんじゃなく、当ててんのよ」
マキチフさん! その言い方間違ってます! それ短剣ですよね! 下手なこと言うとブスッと来ますよね!
「ワカリマシタ。ゴコウイニ……アマエサセテモライ……マス」
でも、荷物取ってこなきゃなんないよね!
「お荷物をお持ちしました。2階の部屋をご用意しますね」
サーシャさんの手に宿に置いていたはずの荷物が握られていた。
ーーいつの間に!
そして俺は逃げ場を失った。