新人さんを観察してます
「魔石の換金を頼む」
そう言って肩掛けのバッグから魔石を取り出した。
「小魔石を15個と中魔石を2個、小魔石が75銅貨、中魔石が40銅貨。合わせて1銀貨と15銅貨になります」
私は魔石と引き換えにそれだけを出す。
彼はそれを受けとると、礼をいいその場を後にした。
魔石は生活に必要な魔道具に入れて使用する。ギルドではその為に魔石の買い取りを行い販売をしている。ギルドが必ず買い取ってくれる魔石は冒険者にとってご飯を食べる為に一番手っ取り早い方法になのだ。深く潜る事が出来るようになればあまり関心はなくなるが……。
彼の持ってきた魔石の量を見ると1階~5階の間と言う所だろう。その推測は彼の姿を見てもわかる。
「あれってエコーバッドの姿だろ?」
冒険者のつぶやきが彼の着ていたキグルミの事を言っているのだと分かる。
赤い大きな耳と黒い体を持ち、体長の2倍ある皮膜の羽がエコーバッドの特長だ。それを彼は着ていた。彼の顔はやはり口の部分にあったとだけ言っておこう。
エコーバッドは1階~5階の間で暗がりから集団で飛んでくる。慌てたりしなければ、簡単に狩れるモンスターだ。
彼はこの間までバロックウルフのキグルミを着ていたんじゃなかっただろうか?
それにエコーバッドのキグルミはどうしたんだろう? まさか手縫い? いやいや、それは無いだろう。『自分、不器用ですから……』とか言いそうな感じだし。
その答えは、
「俺、見たぜ! あいつがエコーバッドを倒した時に、魔石じゃなくてあれが出てきたの」
と言う同じ階にいた新人冒険者の話であっさりとわかった。
彼は何か特別なギフトを持っているのだろう。そうでなければ、そんな事が起こる訳がない。
ギフトとは人の潜在的に持っている特別な力だと言われている。それでも発現する事自体希なので、神からのプレゼントと言う意味でギフトと呼んでいる。
この迷宮を発見した2人もギフト持ちだった。
ゴートは武器を振るうつどに風が吹き荒れる『うちわ』。
ウッチャは拳で殴ると雷にでも撃たれたように感じる『電気ショック』。
私の知っている冒険者の中にもギフト持ちはいるが、微妙と言うしかないものも多い。
ギフト持ちであろうがなかろうが順調に迷宮を進んでいるのはギルドの職員として嬉しいことだ。
「でもアイツ、武器も持たずに腕振り回してエコーバッドとやりあってたけど大丈夫か?」
……武器ぐらい持てよ!
帰り道、武器屋の前で厳つい親父に慰められているキグルミを見た。
「だから言ったろ? その手じゃ武器持てないって……」
涙がこぼれそうになったのは秘密だ。
ここまでで書いているのは終りです。続きはそのうち。