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新人が来たみたいです。

 その日、ギルドの戸を叩いた者を一生忘れないだろう。

 入った瞬間、荒々しい冒険者達は言葉を失いその人物から距離を取る。


「何者だ? アイツは……」

「あんな装備着てる何て……」


 冒険者達のざわめきの中、淡々とした表情でまっすぐにカウンターにいる私の方に歩いてきた。

 冒険者の相手をして、約五年。先輩からは『いつも冷静に相手に飲まれないように』と教えられ幾度も泣いた事があるが、その度に回りから励まされ今ではどんな冒険者の前でも動じない『氷の受付嬢』と二つ名を貰っている私は営業スマイルをもって迎え撃つ。回りの職員が一歩下がった事だけは覚えておこう。


「ようこそ、ゴートウッチ迷宮都市ギルドへ。どういったご用件でしょうか?」


 ゴートウッチ迷宮とは、発見者《暴風》ゴートと《雷拳》ウッチャの二人の名前からとられ名付けられた迷宮だ。それから二百年。一攫千金を求めた冒険者と商売の匂いを嗅ぎ付けた商人の手によって都市が築き上げられた。


「冒険者の登録をお願いしたい」

「それならば、この用紙に名前などを記入してください。代筆もできますが……」

「大丈夫だ」


 肉球の付いた手でペンを持つと用紙にサラサラと名前などを記入し、こちらに戻した。


「キロウ・フクオー。キロウさんでよろしいですか?」

「はい」

「証明カードを作りますので、少しお待ちください。その間にギルドの規則の説明をお受けしますか?」

「お願いします」


 年に何百人と来る冒険者の一人……と彼を見ることはできなかった。

 彼は、その身を毛皮で包み、頭の上にはピンと立った三角耳。せり出した鼻その下の口の中にある黒目黒髪のほりの深い顔。


ーー彼はキグルミと呼ばれるものを着ていたのだ。


「あれってゴートウッチ迷宮都市に来るまでに出るバロックウルフに似てね?」


 誰かのそのつぶやきが漏れると、誰かが似てる言い出した。よく見るとバロックウルフと同じように背中の毛が渦を巻いて立っている。噂では背中を地面に擦り付けてその毛並みを維持しているとか……。


「安い宿屋があれば教えてほしいのだが……」


 回りのざわめきに無頓着なのか彼はそう聞いてきた。ギルドの寮の近くにある食堂兼宿屋を紹介するとありがとうと言って出ていった。


 彼が去った後、冒険者と職員それぞれの間でちょっとした騒動があったがすぐに収まった。


 騒動が収まるといつの間にか彼の担当が私となっていた。職員一同、明日のお茶の味を楽しみにしていてもらおう。フフフフ。


 余談だが、帰りがけに防具屋の前で orz  している彼を見た。


「防具が……着れない……だと」


 私はその横を通りすぎた。もちろん声はかけない。薄情だと誰も言わないと思う。


 

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