朝起きたら着るものがこれしかなかった
目を覚ますと、そこは俺のいた村だった。
そこに動くものはあったが村人ではない。
黄色く濁った目。鮫のような牙だらけの口。全身をおおう焦げ茶色の短い毛皮。
人型のそれは村人の亡骸に覆い被さるようにして内蔵をむさぼり食っている。
ーー止めてくれ! もう充分だ!
少女の腕を引きちぎり、振り回す。
「ゲギャギャギャー」
かん高い不気味な声がハンマーで頭を殴り付ける様に響く。
同じような声がそこらじゅうから上がり、同じように腕や足を引きちぎり振り回している。
「ゲギャァ!」
1匹が振り回していた遺体の足で地面を叩く。足元にあった死体は一発でバラバラに吹き飛んだ。
「ゲギャッ、ゲギャッ、ゲギャギャギャ」
面白かったのか子供がオモチャを振り回すように近くの死体に叩きつけはしゃいでいる。その様子が伝播した様に回りに広がっていく。
死体はバラバラに、バラバラに、バラバラに壊されていく。
ーー何で! 何で、ナンデ? なンで!
その光景に胸の奥に怒りとも後悔ともつかない感情が熱く体を溶かすかのように広がっていく。
そのうち、1匹がこちらに気がついたのか振り回していた物を降り下ろして暗闇に飲まれた。
「……夢か」
目を覚ますとテントの中、ぐっしょりと寝汗で濡れた下着が気持ち悪い。寝床から這い出し着替えるが服の置いてあった場所にヘンナモノがあった。
「何で……服は?」
ジィオさんのいたずらか? あの人は時たまやらかすからな。そう思いながらも仕方なくそれを着た。
『ギフトを手に入れました』
無感情な女性の声が頭に直接聞こえた。そして頭の中に知識が浮かび上がる。
どうやらこのヘンナモノがキグルミと言う物でこれを着るとその元となったモンスターの能力を少しだけ使えるらしい。1度着ると1日は脱げないらしい。……これ呪いだろ?
「おお、やっぱり着れたか」
失意に肩を落とし外に出ると、ベッグさんが上から下まで見ていった。
「他の奴らにも着せてみようとしたんだが、着れなくてよ」
どうやら昨日から何人かの人に着させようとしたらしい。誰も腕さえも入らなかったそうだ。
「着れたのはいいんですけど、脱げないみたいです」
「……は?」
「ギフトとか言うらしいですけど、一日脱げない呪いみたいです」
ベッグさんが一歩下がった。当たり前だろう。
「お前、ギフト持ちになったのか?」
「これ来たら、そんな声が聞こえました」
「マジでか……うーん、惜しいな」
「?」
「まあいい。今日中には迷宮都市に着く。お前はその格好じゃ目立つから荷台に行ってろ」
「……わかった」
いろいろと納得いかないが、黙って荷台に乗った。この日、一度も魔物の襲撃もなく迷宮都市に着いた。珍しいこともあるもんだ。と、ジィオが笑って言っていた。